第17話 魔族達との邂逅③

「七人ですか?」


 ディアーネの声は流石に呆気にとられたものであった。さすがに魔族が七人というのには驚きを隠せない。


「はい。元々ここは親父達が開拓した荒れ地だったんですよ」

「そうなんですね」


 マルトの言葉にヴェルティアはうんうんと頷いた。


「まぁ、元々我々は天界・・にいたんですよ」

「おお、そうなんですか?」

「いや、そこを流さないでください!!」

「そうだよお嬢!!そこ流しちゃだめだよ!!」


 次にもたらされた情報はとんでもないものであったが、ヴェルティアは流そうとしたところをディアーネとユリが止めたのである。


「マルト様、天界ということはみなさんは神というわけですか?」

「いや~俺とミューレイは小さかったものでその時のことをよく覚えてないんですわ。なぁ親父、天界からきたんだよな?あっそれから様はいいですよ。さんとかで十分です」

「ああ、何か知らんけどルオスがお前達を追放するとか言ってきたから了解~って感じでのう。あ、そうそう儂も様とか言われる柄じゃないからさんでよいですぞ」

「だそうです」


 マルトはさもどうですか?というように言うとヴェルティアはうんうんと頷き、ディアーネとユリは頭を抱えそうになっている。あまりにも緩すぎるのである。どちらかというと敬称に様をつけることの方に注意が向いているくらいだ。


「あの、元々神であったというのは理解したのですが、そのルオスはどうしてみなさんを殺そうとして人間達をけしかけてるんです? わざわざ異世界から勇者を連れてきてまで」


 ディアーネの問いかけに答えたのはゴルザーである。


「多分じゃが単に我々が気に食わんのではないかのう?」

「何か欲しいものがあるとか?」

「う~ん、思いつかんなぁ」

「そういえばもう一人の方が何かのメンテナンスにと」

「ああ、宝珠アイガスか。でもあれは単に天気を安定させるためのもんじゃからなぁ」

「ひょっとしてそれじゃないですか?」


 ディアーネの問いかけにゴルザーは首を捻る。


「そうは言ってものう。別にないならないで困らんしなぁ。自分でやればいいだけじゃし」


 ゴルザーの言葉に魔族達は頷いた。


(うーん、何か見えてきたな)

(ええ、この方々性格が緩くて大ざっぱだけど実力は本当にすごいのね)

(こんな方達の力が自分達に向くかもと思えば神々達も怖いよな)


 ユリとディアーネは神々がかつて天界から追い出した者達がいつ報復にくるか怖くて仕方ないのである。しかし神々はこの七人を天界の総力を挙げて討伐することを避けているのは被害が甚大になるからであろう。いや、最悪敗北する可能性を考えているのであろう。しかし、肝心の魔族の方々が天界に何の興味もないのである。


(まぁ、すでに手遅れなんだけどさ)

(ええ、もう詰んでるのよね)


 神々の行く末に絶望しかないことを確信している二人とすれば神々の愚かさに呆れるしかない。


「それでは、この領域にはみなさんしかいないのですか? さきほど他部族とか言ってましたが?」

「いえ、いますよ」


 ディアーネの次の問いに即座にミューレイが応えた。


「私達がここを開拓始めたときに、何度か天界の連中が襲ってきたんですよ。当時は私もマルトも幼かったので私達を人質にとろうとしたんでしょうけどまとめて蹴散らしました・・・・・・・


 ミューレイはまったく気負うことなく言う。この表現であれば幼い頃から天界の連中と戦いを繰り広げしかも余裕で勝っていたわけである。


「するとしばらくして勇者を名乗る連中が少人数て攻めてくるようになったんです。もちろん簡単に蹴散らしてたんですけど殺すのもなんですし、適当な土地を与えてそこで暮らさせていたんです。そのうち、エルフやドワーフとかの人間以外の種族も送り込まれてきましたから片っ端から蹴散らして適当な土地を与えてたらそれらがいつの間にか部族化したわけです」

「なるほど、何度も何度も攻めてきた代々の勇者達は殺されたわけではなくこちらの領域でそれぞれの社会を形成したと」

「ええ、ここは広いですからね。こちらに接触するわけでもないので好き勝手にやらせてます」


 ミューレイは何でも無いようにいっているが、神に選ばれた勇者達を蚊でも払うように蹴散らしてきたというのは中々出来るものではない。そしておそらくだが、これだけの力を持っている魔族達なのだから天界も勇者達がどのような戦いでやられているか監視できていないのであろう。


(つまり、あいつらどんな力を与えればこの方々を斃せるか検証できてないんだな)

(半ば自暴自棄になっている可能性があるわね。まぁこの方々の力が桁違いだから仕方ないわね)


 二人は少しだけ理不尽な強者に挑まなければならない境遇に同情しそうになる。だがどのような理由を主張しようが異世界の住民を拉致し続けているという事実はかわらないのである


「あ、そういえば私達よりも前に軍隊がやってきませんでしたか?」


 ヴェルティアの言葉にミューレイが応える。


「ええ、来ましたよ。軍隊がきたのは初めてだったから驚きましたけどリフィが対処して労働力としてティフィンガルドの建造にあたらせてます」

「なるほど!!ティフィンガルドで待つと言われましたからすごい演出が待っていることでしょう!!うんうん!!これは楽しみですね!!それではみなさんが来たらティフィンガルドへ向けて出発しましょう!!」

「お待ちください!」

「お嬢!ちょっと待って!!」


 ヴェルティアの言葉に即座に二人から制止の声がかかる。


「なんです?」

「どうもこうもないよ。話の流れから言ってティフィンガルドはまだ建造途中なんだぞ。そんなところにお嬢が全速力で駆け出したら完成前に到着してしまう」

「はっ!!」

「せっかくリフィがお嬢のために今一生懸命ティフィンガルドを建造してるんだ。少しゆっくり行くのが筋じゃないのか?」

「確かに!!私としたことがリフィのがんばりを無駄にするところでした!ユリ感謝しますよ!私のような完璧な者であっても状況によっては悪手を売ってしまうこともあります!やはり人は完璧であっても完璧ではないのです!!」

「お嬢、無理に哲学的な事を話さなくて良いからしばらくこの辺で滞在させてもらおうよ。で準備が整ったら出発というようにしようよ」


 ユリの言葉にヴェルティアは大きく頷いた。


「そうですね!! みなさんリフィの準備が整うまでこの近辺に滞在させてもらってもよいでしょうか?」

「それはそれは村にご案内いたしますよ」

「ええ、一四〇〇人ほどという話なのでそれくらいならどうとでもなりますからね」


 ヴェルティアの申し出を魔族達は快く引き受けてくれる。


「おお、そうだ!! 魔族のみなさん! この頭脳明晰な私が一つリフィの演出を盛り上げる設定を思いつきました! ご協力願えますか?」


 ヴェルティアがの言葉に魔族側は楽しそうに目を輝かせて、ディアーネとユリは頭を抱えかけた。

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