第15話 魔族達との邂逅①


「さて、行きましょうか」


 ヴェルティアがディアーネ達に声をかける。


「承知しました」

「了解」


 ディアーネとユリは即座に返答する。二人の返答を受けて満足したようにヴェルティアは歩き出した。

 それを見て第一軍の面々もヴェルティアに続いた。あれだけの戦いを行った後というのにヴェルティアには全く疲労の色がみえない。


「それにしても結構強かったですね」

「ああ、お嬢とあそこまで戦えるってすごいことだよ」

「そうね。さすがは魔王というわけね」

「あ、あの……よろしいですか?」


 ディアーネとユリの会話にクレナがおずおずと声をかける。


「どうしたの?」

「は、はい。どうしてヴェルティア様は魔王を見逃したのです?」

「簡単よ。意味が無い・・・・・からよ」

「意味が無い…ですか?」

「ええ、そうよ」


 ディアーネの返答にクレナは首を傾げた。どう考えても魔王を斃さなくても屈服させることに無意味であるとは思えなかったからである。


(ヴェルティア様は無意味だと判断した。そしてディアーネ様とユリ様も無意味である事をわかってる……つまり私が無意味であると判断できないだけでヴェルティア様達にそう判断できる根拠があるのね)


 クレナはそう判断すると首を傾げつつ思考を続けることにした。クレナが年若いのに暗殺者として成功していたのは戦闘力もだが、考え続けることを常に自らに課して思考停止にならないようにする思考であった。


「でも意外でした」


 クレナの言葉にややトゲが含まれた。


「何がです?」


 ディアーネの声が一段低いものになる。ディアーネの声にクレナはビクリと身を増えるわせた。


「は、はい。そのさっきの魔族の女の子が殺されたじゃないですか。ヴェルティア様はその事に対して……その、気にしてない様です」


 クレナの言葉にディアーネは意外そうな表情を浮かべた。


「あら、あなたわからないの?」

「え?」

「ユリはどう?」

「いや、わかるだろ」

「そうよね」


 ディアーネとユリの会話にクレナは首を傾げた。どうもディアーネとユリはリフィが死んだことに対して心を痛めていないのは、単に魔族が死んでも構わないという思考とはのように感じたのである。


「クレナ、あなたはヴェルティア様を責めるよりもまず自分の未熟さを自覚なさい」

「その通りだ。今回の件でお嬢が責められるいわれはまったくないな。少なくとも道義的にはな」

(やはり、私が見えてない何かがあるのね)


 ディアーネとユリの言葉にクレナは静かに頷いた。ディアーネとユリの言葉通り自分の室力不足であることを理解して研鑽をつまないとならないという思いを強くした。


「クレナ、そろそろ意識してください!!」

「え?」


 前を歩くヴェルティアがクレナに声をかける。突然の声かけにクレナは驚いてしまう。


「何言ってるんです。そろそろあなたが放った人形達が接触するんですよ。我々に敵意がないことを伝えてください」

「え?あ、はい」


 ヴェルティアの言葉にクレナは先程の指示を思い出した。魔王がいきなり現れれば指示が吹っ飛んでいしまうのも無理からぬ事である。


 クレナは放った人形達に意識を向けるとそこで停止させた。下手に動いて相手を刺激することを避けるためだ。おそらくヴェルティアは自分が探知することの出来ない気配を察知したことは容易に想像できるというものだ。


 次いでクレナは人形達をその場に座らせ腰に差した剣を自分の前に置き、敵意がないことを示そうとした。もちろん、人形達が前に置いた武器はクレナが魔力で具現化したものであるため、改めて作ることも出来るのだが、とりあえずこれで敵意がないことを示そうとしたのだ。


「あ、ヴェルティア様……魔族と接触しました。全員普通の村人の格好です!!」


 クレナがそう叫ぶとヴェルティアは大きく頷いた。


「それでは敵意のないことを伝えて、これからすぐに責任者が来る旨を伝えてください!!」

「は、はい!!」


 ヴェルティアの指示をクレナはすぐに執り行う。ほどなくしてクレナがヴェルティアへ言う。


「ヴェルティア様、相手が話を聞くと言っています」

「そうですか!! それならクレナは傭兵のみなさん方を案内してください。ディアーネ、ユリ行きますよ!」

「はい」

「了解」


 クレナの言葉を受けてヴェルティアが返答すると同時に走り出しディアーネとユリがそれに続く。三人は一瞬でクレナ達の視界からあっという間に消え去ってしまった。


「クレナ……行っちゃったな」

「うん、まぁあの三人に追いつくなんて不可能だから私たちは自分のペースで行こう」

「ああ、あとどれくらいだ?」

「約10㎞」

「……ゆっくりいこう」


 クレナの10㎞という言葉に傭兵達はようやくそれだけ絞り出した。

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