第14話 とりあえず戦ってみた

 ドン!!


 アリテミュラと名乗った瞬間にヴェルティアは動く。


 時を切り取ったかのような速度でアリテミュラの間合いに飛び込んだヴェルティアは三本貫手を下方から放つ。ヴェルティアの三本貫手は目をえぐり取るためのものだ。それを察したアリテミュラは顔を捻って躱す。


 ヴェルティアは次の一手を繰り出す。ヴェルティアは顔を練って躱すという一手で一瞬であるがヴェルティアの次の一手の対応が遅れることを見越して下半身への攻撃を放ったのだ。放った攻撃は金的攻撃である。アリテミュラの容貌も声も男であると言う判断であり、ヴェルティアは金的蹴りを選択したのだ。


 アリテミュラは高速で放たれた金的蹴りに足を乗せて後方へと飛んだ。しかし、ヴェルティアはこの回避行動で安全が確保できるような甘い相手ではない。アリテミュラを追って跳躍するとそのまま顔面へと蹴りを放った。


 シュン!!


 空気の切り裂く音が周囲に響くとヴェルティアとアリテミュラは着地する。


「おお、よく躱しましたね。まともに入ると思ったのですけどねぇ」


 ヴェルティアは明るい声でアリテミュラに言い放った。


「小娘にしてはやりおるわ。まさか余が躱しきれぬとはな」


 アリテミュラの頬がザックリと切り裂かれ青紫色の血が滴り落ちる。


「陛下!!」

「おのれ!!」


 アリテミュラの両隣に控えていた黒騎士二人が抜剣してヴェルティアに襲いかかろうとした。


「待て!!」


 しかし、それを制止したのはアリテミュラである。


「手を出すな。この小娘はわしがやる」


 アリテミュラはそう言うと両掌に雷球が浮かび上がった。アリテミュラはその雷球をヴェルティアへと放つ。


「ディアーネとユリはみなさんを守ってください」

「「了解!!」」


 ディアーネとユリはヴェルティアの命令を受けると即座に傭兵達の前に立つとほぼ一瞬で防御陣を形成した。一瞬遅れてクレナもディアーネの形成した防御陣の中に入る。


「てい!!」


 ヴェルティアは次々と放たれる雷球を弾き飛ばした。弾き飛ばされた雷球により周囲は一瞬で焼け野原となってしまう。もしディアーネが防御陣を形成しなければ傭兵達は巻き込まれ大きな被害を生んでいたことだろう。


(なかなかやりますねぇ。あまり私の戦い方を見せたくなかった・・・・・・・・のですけどこれはちびーっと本気を出さないといけないですねぇ)


 ヴェルティアは雷球をはじきながら判断を決めると回避行動へと比重を変えていく。


「何……?」


 ヴェルティアへの攻撃があたらなくなった事に対してアリテミュラは目を細める。


 次の瞬間にヴェルティアがアリテミュラの間合いに飛び込むとそのまま右拳を放つ。


 ドゴォォォ!!


 ヴェルティアの一撃をアリテミュラは両腕を交叉して受けるがその威力に耐えることは出来ずに吹き飛んでしまう。アリテミュラは空中で一回転して着地するが、攻撃を受けた左腕はグシャリと潰れていた。


「やるのぉ小娘」


 アリテミュラに余裕があるのは事実であるがヴェルティアの強さに驚いてはいるようであった。

 アリテミュラは潰された左腕を見ると潰れた左腕があっという間に修復した。


「まさかここまで強いとはな。今回の勇者は歴代で最も強いのは間違いないようだな」

「はっはっはっ!!それはそうでしょう!! このアインゼス竜皇国の皆の憧れである私が弱いなどと言うことはありえません!!」

「素手では・・勝てんな」


 アリテミュラはそう言うと空間に手を突っ込むと一槍を取り出してきた。刃の部分は十字の形になっており、その柄本には宝珠が埋め込まれている。


「なるほどこれからが本番だと言うことですね!!いいでしょう。受けて立ちましょう!!」


 ヴェルティアはそう言うと両手をバシンと叩くと構えをとった。


「ふ……」


 アリテミュラは少しだけ笑うと間合いを詰めると刺突を放つ。ヴェルティアはアリテミュラの刺突を躱すが十字槍のために紙一重で躱すと言うことが出来ずに大きく躱さざるを得ない。それによりヴェルティアはアリテミュラの間合いに飛び込むことが出来ないのである。


(うーむ、これは中々厄介ですねぇ。大きく躱さざるを得ないから飛び込むのにどうしても一手遅れてしまいますね。かといって全力でやるわけにはいけませんしね)


 ヴェルティアはシルヴィスならどうするか考える。


(あ、そうだ。この手で行きましょう!!)


 ヴェルティアはそう決断すると早速動く。


 間合いに入った瞬間に刺突が放たれる。それをヴェルティアは躱す。ここまでは先程までと同じであったが、従士クファータを刺し貫いた。


「な……」


 先程まで存在しなかったはずの場所に突如現れた兵士にさすがのアリテミュラも一瞬であるが思考がそちらに向く。

 ヴェルティアが従士クファータを生み出しアリテミュラの意識をずらしたのである。だがヴェルティアにとってみればその一瞬で十分である。槍の柄を掴むとそのままアリテミュラに右拳を放った。


「く……」


 アリテミュラは辛うじてヴェルティアの一撃を躱すと同時に柄を掴むヴェルティアの手へ蹴りを放つ。ヴェルティアは槍の柄をあっさりと放つと距離をとった。


従士クファータは色々と使えますねぇ~これぞ出来る女という感じです。はっはっはっ!!」


 ヴェルティアの得意気な高笑いにアリテミュラは顔を歪める。


「恐ろしい娘だ」


 アリテミュラの声に先程までの余裕はない。槍術に絶対的な自信があったというのにそれをヴェルティアは上回っているからだ。


「レゼン、カミュド。残念だがの余ではこやつに勝てぬ」

「「……」」


 アリテミュラの言葉にレゼンとカミュドと呼ばれた黒騎士が一歩前に出る。


「あ、心配しないで良いですよ。ここで戦いを止めたければここまでにしますから」

「何?」

「先ほども言ったように私は別に魔王さんを殺すつもりはないんですよ。ようは人族の方々が滅亡しないようになればそれで十分です」

ヴェルティア・・・・・・…貴様」

「それにここでの戦闘はそちらにとって意外だったことでしょうから、いいですよ」

「後悔するぞ……」

そういうのいいですよ・・・・・・・・・・。それよりもよろしくお伝えください。また会いましょう」


 ヴェルティアはそういうとアルティミアはニヤリと笑う。


「やはり面白いな……いいだろう。ティフィンガルドで待っておるぞ」

「ティフィンガルドですか?」

「ああ、余の居城のある王都よ。余はそこでお前を待つとしよう」

「はい。そこで決着をつけるとしましょう」


 ヴェルティアが言うとアルティミアは黒騎士二人を伴いかき消えた。


「あれが魔王ですか。中々強いですね」


 ヴェルティアはそう言うと大きく伸びをした。


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