第12話 お前達の事は報告しておく

「へ、陛下!! どういうことです!?」


 ティレンスがオルガスの元に駆け込んできた。ヴェルティア達第一軍を神門ミルズガルクにより閉め出した事への抗議を行いに来たのである。


「どういうこと……だと?」


 オルガスはティレンスへ歪んだみを向ける。その表情は実の息子のティレンスでさえ顔をしかめそうになるのを堪えるのに苦労したほどだ。


「勇者様一行だけ魔王討伐に向かわせるおつもりですか!?」

「ああ、そうだ」

「正気ですか!!後でどのような報復があるかわかったものではありません!!」


 ティレンスの言葉にオルガスはさらに顔を歪めて嗤う。


「魔王との戦いであの娘達が死ねばよかろう。お前はあの娘達が魔王と戦っても無傷であると思っているのか?」


 オルガスの言葉にティレンスは言葉に詰まる。いくらヴェルティア達であっても無傷で魔王に勝つとは考えづらい。だが、ティレンスはヴェルティアに対して自分達の予想などあっさりと越えてくるのではないかという不安を消すことがどうしても消せなかった。


「しかし、兵達の中から戸惑いの声が出ています」

「失望の声か?それとも安堵の声か?」


 オルガスの問いかけにティレンスはまたも言葉に詰まった。魔王との戦いにほとんどの兵達は参加などしたくないのである。何しろ開いては人智を越えた力を持つという魔王である。しかも配下の魔族の軍団の実力もまた高い。そんなところに侵攻するなど自殺志願者でしかないように感じているのである。


「その顔は安堵の方が多いようだな?」

「それは事実ですがこのことを教皇猊下は知っているのですか?」

「当然であろう」

「……」


 ティレンスの沈黙にオルガスはニヤリと嗤う。


「あの三人の小娘が死ななくても魔王との戦いで立ってはおられぬほどの重傷であろうよ。その時に殺すも良し、性欲処理に使っても良しであろう?」

「は、はい……」


 ティレンスはオルガスの言う性欲処理という言葉に関心を示していた。ヴェルティア達三人は言動、行動はともかく容姿は最上級、いやあれほどの美貌を持つものなど世界中探しても存在するとは思えない。


(あれを自由に出来る)


 ティレンスはそう考えると口元がついつい歪む。


(確かあの女には夫がいたという話であったな……夫の名前を泣き叫びながらせながら犯すというのもいいな)


 ティレンスのゲスな思考は特権階級に毒されたもののそれとも言えるかも知れない。


「へ、陛下!!ご報告いたします!!」


 そこに一人の騎士が駆け込んでくる。その騎士を見てオルガスはニヤリと嗤う。ヴェルティア達がこの事態に動揺し、自分に許しを請う姿を想像したのである。


「ふん、あの小娘達共の間抜けな顔を見に行くとするか」

「あ、あの……」

「なんだ?」

「第一軍は振り返ることもなく進軍していきました」

「な…何?」


 騎士の報告にオルガスは困惑した表情を浮かべた。


「第一軍には兵糧がないはずだぞ?」

「は、はい。ですが現に第一軍は我々を相手にすることなく行ってしまいました。陛下、我々はとんでもない過ちを犯したのではないでしょうか?」

「何?」

「あの者達は勝算があり、第二、三軍など必要なかったのではないでしょうか?」

「バカをいうな!! いくらあの娘達が強いとはいっても食料の不足はどうにもならん!!」

「ですが!!」

「もうよい!!」


 オルガスは話を打ち切った。自分の想定していない話が聞けなかったことで一気に不愉快になる。


「どこまでも忌々しい娘共め」


 オルガスの吐き捨てるような言葉に騎士は首をすくめた。


「陛下、ご報告したいことがございます」


 そこに別の騎士がオルガスの元へと報告に来た。


「なんだ?」

「はっ、報告しておく」

「は?」

「だから報告しておく……と」

「貴様!!何のことだと言っているだろう!!」


 オルガスは激高すると抜剣すると騎士の首を刎ねる。首を刎ねられた騎士はそのまま倒れ込んだ。しかし、たった今、首を刎ねられた騎士の傷口からは血の一滴も流れ出てこなかった。


『お前達のことは報告しておく』


 転がった騎士の首はそう言うとフッと煙のように消え去った。


「な、なんだ…今のは」


 オルガスの声はかすかに震えていた。

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