第11話 出陣!
クレナがヴェルティアの部下になった翌日からシュレーゼント王国国王オルガスの評価は一気に落ちた。ここまで評価が急激に下がるのは史上初ではないかという驚異的な落差であった。
ディアーネがオルガスが指摘した五人の貴族の死体を騎士達に片付けさせたときに、自分の命惜しさにヴェルティアに暗殺者を送り込んだ責任をその場にいた貴族達になすりつけた事をディアーネが伝えたのである。
もちろん貴族達も国王を庇うようなことをしなかったことでオルガスは一気に軽蔑の対象となってしまったのである。また、生き残った貴族達もオルガス同様に批判に晒されることになっていた。
ディアーネとユリはシュレーゼント王国の上層部に対して一切の容赦を行わなくなった。特に上位貴族達上層部に対する容赦の無さは見る者達を震え上がらせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、みなさん!!これより出陣します!!」
ヴェルティアが軍全体の前で高らかに宣言した。言葉通り今日が魔王討伐に向けての出陣の日であった。
この一月、シュレーゼント王国では文官、武官問わずに軍の編成、補給の準備、人族連合軍結成のために働きづめであった。当然一月では人族連合軍などできるわけはない。ヴェルティア達は人族連合軍の結成を早々に見限ると他国の協力を得ずにシュレーゼント王国独力で魔王討伐へ動くことになってしまったのである。
はっきりいって絶望という言葉がこれほどに合う状況は中々なかった。
「既に先遣として六人の諸侯さん達が自軍を率いて先行しています」
ヴェルティアの言葉に兵士達は顔を見合わせた。先行している諸侯達はヴェルティア暗殺に関わった生き残りの貴族達であることを知っているのである。貴族達はシュレーゼント王国にもはや居場所は無いという絶望と共に自領で兵を集めると魔王達の戦いに赴いていることを知っているのである。それでも合計して六〇〇〇強の軍で魔王討伐に向かったのである。
「今回の戦いでは教皇猊下、国王陛下、王太子殿下も参戦します。他国の軍が参戦しなかったのは予想外でしたが、まぁ私が参加している以上負けることはありませんので大船に乗ったつもりでいきましょう!! はっはっはっ!!」
ヴェルティアの脳天気な宣言とは裏腹に兵士達の士気は決して高くない。シュレーゼント王国独力であの強大な魔王に勝てるとは思えなかったのである。
「それでは行きましょう!!」
ヴェルティアの言葉を受けて遂に魔王討伐の遠征軍が出発することになった。
遠征軍の陣容は総数十四万、第一軍大将はヴェルティア、副将はディアーネとユリ、クレナは魔力で作った人形を指揮するという小隊長、『レイナル』五〇〇、『ヴァランゼン』七〇〇、『スイルズ』二〇〇の三つの傭兵団合計の一四〇〇という軍と呼ぶ規模ではない。
第二軍大将はオルガス、副将はティレンス、そこを戦歴豊かな将軍達が支えるという図式だ。オルガス二万、ティレンス二万、将軍達は六人、麾下にそれぞれ一万を従えている。総数十万の大軍だ。
第三軍大将はキルミュリス教団の教皇であるパオロス=デルカロンド、聖騎士や神官を中心にした四万の軍である。
ヴェルティア率いる第一軍が第一陣、次いで第二軍、第三軍の順番で魔王討伐へ向けて出立した。
「ディアーネ様」
クレナがディアーネとユリに声をかける。この段階になるとクレナもすっかりヴェルティア達に対して忠誠心溢れる部下になっている。ヴェルティア達はクレナに対して蔑むような事を一切しない。それがクレナには何よりも嬉しかったのであった。
三傭兵団と交渉し第一軍に編入したのはクレナであり、その功績は非常に大きいものである。
「どうしたの?」
「どうも、オルガスは何か企んでいるみたいです」
「でしょうね。普通に考えれば私たちが憎くてしょうがないでしょうから、魔王の手の者と戦いになった時に動くはずよ」
「わかっておられるのですか?」
「もちろんよ。元々ヴェルティア様を利用しようとしてここに召喚した連中ですもの。用が済めば消そうとするくらい想定するのは当然のこと」
ディアーネの言葉にクレナは静かに頷く。オルガスにしてみれば自分の評価が光の速さで最低レベルまで落ちたのはヴェルティア達(特にディアーネ)が原因である以上、何とか亡き者にしたいのは当然である。
だが、シュレーゼント王国の力を結集したところでヴェルティア達を討つことなど夢のまた夢である。実際にヴェルティア達ならば簡単に蹴散らす未来しか見えない。
「それでは魔王との戦いでは危ないのではないですか?」
「大丈夫よ。あなた達もいるし、まとめて蹴散らすまでよ」
「え?」
「クレナ、ヴェルティア様をあなたはまだ知らないのよ」
「それほどなのですか?」
「ええ、むしろ私は魔王に同情しているくらいよ」
「……」
ディアーネの言葉にクレナは何も言えなくなってしまう。ディアーネの言葉は事実を控えめに指摘していることをクレナは理解してしまった。
それから一週間後、魔族達の領土とシュレーゼント王国の国境沿いにある国門である
「いよいよですね。みなさん行きますよ!!」
ヴェルティアの言葉に第一軍の面々は互いに頷くと門をくぐった。
そして第一軍全員が門をくぐったところで、それは起こる。
「ん?門が閉まりましたね」
「そのようですね」
「はぁ、狡い手を思いつくもんだ」
ヴェルティア達の声には一切の動揺はない。その様子を見たクレナや傭兵達は戸惑った表情を浮かべたが恐慌状態に陥るようなことはない。
「さて、行きますよ!!」
ヴェルティアは元気よく言い放つとずんずんと魔王の元へ歩き始め、それに全員が衝いていく形になった。
(これはもう降伏しても無意味でしょうね)
(自分で慈悲を拒否する意味がわからないわ)
ディアーネとユリは心の中でそう呟いた。
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