第08話 甘い考えは身を滅ぼす②

「それじゃあ、シルヴィス。なんかお客が来たみたいです」

「      」

「ええ、これから寝るところだったんですけどお客が来たみたいなんですよ」

「      」

「今夜に限って部屋の警護の騎士さん達、侍女の皆さんもいないので、多分私達の腕前をみたい方達なんだと思います」

「      」

「多分ですけど、我々がどんな状況でも慌てずに対処できるかを試したいと思っているのでしょう。うんうん」

「      」

「ははは!! シュレーゼントの王様達の腕試し。我々三人で見事合格して見せましょう。それではシルヴィス行ってきます!!」


 王城の一角に設けられたヴェルティアの客室でシルヴィスとの会話念話を終えたヴェルティアはディアーネとユリに視線を向けた。


「さて、二人とも行きますよ!!」

「はい」

「了解」


 ヴェルティアの言葉に二人は簡潔に答える。


「それにしてもお嬢、黒幕が誰なのかよく即座に判断できたね」


 ユリが感心したように言う。ヴェルティアは日頃の言動から考えなしのような印象を受けるのであるが、このような状況を読み取る力は相当に高い。


「はっはっはっ!! 国王さんと周囲の貴族の方々が我々の実力を疑っているようでしたからねぇ~。やはり私のように可憐な美女が本当に魔王を斃せるほどの実力を有しているかというのは心配になるでしょうから当然想定しているのです」


 筋が通っているようないないようなヴェルティアの返答である。


「まぁ、それはそうとヴェルティア様」

「なんですかディアーネ?」

「一人だけ中々の強さのものがいます」

「確かにディアーネと十合は打ち合えそうな腕前ですね」

「その者は殺さないでほしいのですが」

「はっはっはっ!!大丈夫ですよ。その方だけでなく誰も殺すつもりはありません!!」


 ヴェルティアは自信たっぷりな声でディアーネの頼みを了承した。ディアーネとユリは不安そうに視線を交わした。ヴェルティアは確かに殺すつもりはないのだろう。だが、蚊を潰さないように叩くのは難しいものなのだ。 


「さて、それではいきましょう!!」


 ヴェルティアはそういうと一瞬で扉へと移動しそのまま扉を押した。その勢いは凄まじく扉は弾け飛そのまま壁へとぶつかった。

 扉がゆっくり倒れると扉の激突に巻き込まれた一人の男が崩れ落ちた。


「よっと」


 ヴェルティアは呆気にとられている二人の男を間髪入れずに殴りつける。完全に虚を衝かれた形の男は躱すどころか防ぐことも出来ずにまともに受けてしまったのだ。


「えっと……おお、あなたですね!!」


 ヴェルティアはキョロキョロと周囲を見渡すとメイド服に身を包んだ一人の少女を指さして言った。


「うんうん。さてそれではいきますよ!!」

「え」


 ヴェルティアに指名された少女はあまりの事についつい呆けた声を出したがこれを責めるのは酷というものだ。


 ドゴォォォォ!!


 一瞬で少女の懐に飛び込んだヴェルティアの拳を少女はかろうじて躱す。ヴェルティアの拳圧が背後の壁を打ち砕いた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃぃぃ!!」

「おお、躱しますか!! やりますね!!」


 ヴェルティアが弾んだ声で言うとニンマリと笑う。


 周囲の男達がヴェルティアへと襲いかかる。。


「てぇい!!」


 しかしヴェルティアは襲いかかる男達の刃をすり抜けて少女へと拳を放った。


 ドゴォォォォ!!


 放たれた拳を躱した少女の背後でまたも壁が崩壊する音が響く。


「やりますね。操作・・しながら私の攻撃を躱せるなんてなかなかできることじゃありませんよ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

「ん?どうしたんですか?」


 少女の制止の言葉にヴェルティアは首を傾げた。


「私は暗殺者じゃないですよ!!」

「じゃあ何なんです?」

「こ。この城…ってええ!!」


 ドゴォォォォ!!


 ヴェルティアは少女の話の途中で拳を振るうと少女は辛うじて躱した。そしてまたも背後の壁が吹き飛んだ。


「おお!! やはりやりますね!! それではどんどんいきますよ!!」


 ヴェルティアは立て続けに拳を振るうと次々と背後の壁が崩れていく。


「ちょ、ちょっと待てって言ってんだろ!!ゴラァ!!」


 少女はたまりかねて叫ぶ。全く話を聞かないヴェルティアに我慢の限度に達したのである。


「どうしたんです?」

「あんた、頭おかしいんじゃないの!!」

「なにがです?」

「あんた私がメイド服着てて、庇護欲をそそられないの!!バッカじゃないの!!」

「ん?」

「ピンときなさいよ!!」


 少女は地団駄を踏んでヴェルティアに文句をつけるがヴェルティアは首を捻るばかりである。


「よく吼えること」

「まぁ、運が悪かったと思って諦めな」


 ディアーネとユリが少女の背後に立ち、斧槍ハルバートと剣を少女の首筋に当てていた。


「え?」


 少女の口から呆けた声が漏れる。それだけ二人の気配を全く感じることが出来なかったのだ。


「さて、逃げ切る自信があるならやってみたら?」


 ディアーネがそう言った瞬間に周囲の男達が一斉に崩れ落ちた。崩れ落ちた男達は塵となりそのまま消え去った。ユリとディアーネの仕業である事は明らかであった。あまりにも鋭すぎる斬撃により数秒経って男達は崩れ去ったのである。男達は人間ではなく別の何かだったのである。


「ま、参りました……降参です」


 少女は手を頭の後ろに組むとそのまま膝をついた。


「さて、これからいくつか質問します。嘘をつきたいならどうぞ。ただし上手い嘘をつきなさい」


 ディアーネの冷たい越えに少女はブルリと身を震わせた。ディアーネの言葉は冷酷そのものであり、嘘がバレれば間違いなく殺されることを本能で理解してしまったのだ。


「ヴェルティア様、この者が質問に何でも答えるそうです」


 ディアーネがヴェルティアにそう告げるとヴェルティアはニッコリ笑って口を開く。


「それでは、まずはあなたのお名前は?」


 ヴェルティアの質問に少女はまっすぐにヴェルティアの目を見て言う。


「私の名前はクレナ=ギルネア、その名の通りギルネアよ」

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