第07話 甘い考えは身を滅ぼす①
ヴェルティア達がシュレーゼント王国に
その間にディアーネとユリがシュレーゼント王国の軍事訓練を行っている。
当然ながらアインゼス竜皇国の軍事訓練はシュレーゼント王国の軍事訓練よりも質、量ともに比較にならないほど厳しい。このことにシュレーゼント王国の兵士達は当然ながら不満が爆発したのだが、ディアーネとユリにあっさりと蹴散らかされてしまったのである。
それから兵士達は完全に服従することになった。誰だってディアーネとユリの実力を知れば逆らおうなどと思うわけがない。
シュレーゼント王国の上層部、教団の上層部も世界中を飛び回っている。その理由は人族大連合を結成させるためであるが、当然ながらその道のりは険しすぎるものである。
しかし、だからといってヴェルティアの要請を成功できないなどとなればシュレーゼント軍のみで強大な魔族との戦争に突入しなければならなくなるのである。何よりディアーネとユリが許すわけない。
「二人とも訓練の成果はどれほどでましたか?」
ヴェルティアの問いかけにディアーネとユリは渋い表情を浮かべた。
「お嬢、いくらなんでもまだ訓練開始から10日ほどだよ。目に見えた効果は出てないよ」
ユリがため息混じりに言うとディアーネもまた同様のように頷いた。
「そうなんですか?でもうちの軍のみなさんならこれくらい余裕でこなしてませんでしたか?」
ヴェルティアの言葉にユリとディアーネは静かに首を横にふった。
「うちの軍に入ることができるのはほんの一握りです。なにしろヴェル……いえ、我がアインゼス竜皇国を守るためにみな必死に訓練をしているのです」
「あ、そういえば。ティレンスさんがうちの国は何を戦っているのかと聞かれたんですけど、普通そこまで鍛えないらしいのですよ。何に備えているんです?」
ヴェルティアの問いかけにディアーネは言葉に詰まる。アインゼス竜皇国の軍がどの国よりも鍛えているのはヴェルティアの暴走に付き合うためである。さすがのディアーネもそれを主であるヴェルティアに伝えるべきか迷ったのである。
(シルヴィス様がいてくれれば伝えてくれるのでしょうけど……)
ディアーネはユリと視線を交わすとユリは小さく頷いた。
「お嬢、軍たるもの常に最悪のケースに備えるのは当然だよ」
「なるほど!!」
ヴェルティアが納得したのでユリはすかさず話題を蹴るために動く。
「それはそうとお嬢、そろそろ
「動きですか?魔王さんが会いに来るというわけですね。おお腕がなるというものです!!」
「違うよ。この世界の魔王さんはまだお嬢のことを知らないよ」
ユリの返答にヴェルティアは首を傾げた。そこにディアーネが国と開く
「ヴェルティア様、ユリの言う動きとはシュレーゼント王国とキルミュリス教団です」
ディアーネの言葉にヴェルティアはさらに首を傾げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おのれ……あの小娘ども」
シュレーゼント国王であるオルガスは苦虫を百匹単位で噛み潰したかのような表情を見せる。そしてその声には怒りと憎悪が含まれていた。
ヴェルティア達がやってきてからというものオルガスの権威は加速度的に下がっていっている。ディアーネとユリの課している軍事訓練が厳しすぎてシュレーゼント王国の軍部の大部分がついていけていないのである。その事に対して、オルガスの口からヴェルティア達に伝えてくれという軍部や兵士達からの圧はものすごいものであるが、それに応えることが出来ずに「こいつ使えねぇ」という空気が生まれているのである。
しかもその厳しすぎる訓練をオルガスをはじめとしたシュレーゼント王国の首脳陣にまで課しており、国内にいる限りは訓練に参加させられるのである。
「陛下……このままあの小娘どもの勝手を許すのですか?」
「何卒、あの者達をシュレーゼント王国から追放してください!!」
「このままでは我らまで魔王との戦いに」
オルガスの元に陳情に来たのは上位貴族たちであった。自分達が最前線へと送られることはなんとしても避けたいらしく度々オルガスの元に陳情しているのだ。
しかし、当然ながらヴェルティアがその意見に耳を傾けることはないのである。いや、正確にいえばヴェルティアに意見が踏み潰されてしまっているのである。
『我々は国を維持する大切な』
『大丈夫です!! 確かに不安でしょうが世界を救うという一大事!!魔王という人智を超えた相手に人類は一致団結してことに当たらなければなりません!!』
『し、しかし民の生活も』
『素晴らしい!! 民の安寧を守るために貴族である自分達が先陣を切ると……シュレーゼント王国の貴族の方の高貴なる者の義務というのは素晴らしいものがあります!!』
『い、いや』
『大丈夫です!! このヴェルティアが助太刀する以上皆さんの勝利は確約されています!!皆さんにはさらなる訓練を課させていただきます!!』
というように全く貴族たちの意見は受け入れてもらえないのである。それどころかヴェルティアは貴族達の陳情を真逆に解釈してしまいさらに自分達の首を絞めるという結果になっているのである。
「……手はうってある」
オルガスの言葉に貴族達はニヤリとした嫌な
「陛下、その手とは?」
「ギルネアにあの三人の始末をさせる」
「な、なんと」
「まさかギルネアとは」
オルガスの発したギルネアという言葉に貴族達は色めき立った。ギルネアとは世界最高峰の暗殺ギルドであり、任務遂行のためなら手段は選ばないという筋金入りの暗殺者集団だ。
「ティレンス達の話から真正面からことを構えるというのは得策ではない。だが暗殺ならばどうかな?」
オルガスの冷たい言葉に貴族達はブルリと身を震わせた。
だが、オルガスも貴族達もこの時の判断がいかに甘かったかを思い知ることになるのであった。
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