第05話 立場というものを理解させないと②

「国王陛下・・はどこです?」


 ディアーネはティレンスを引きずられながら言葉を発した。


「あ、あちらの謁見の間である聖水晶の間ゲオスマクナで勇者様をお待ちしております」

「勇者様?」

「い、いえ、ヴェルティア皇女殿下です!!」

「ええ、勘違いしないことを心がけてください。言葉には細心の注意を払いなさい。どの言葉がシュレーゼント王国滅亡が決まるかわかりませんよ?」


 ディアーネの言葉にティレンスは震え上がる。ディアーネはそれに構うことなくティレンスが指し示した方向へ歩き出した。


「お、王太子殿下!!」

「貴様!!王太子……ひ」


 当然ながら王太子であるティレンスを引きずっているディアーネに向かって騎士や兵士が止めようとしたが、ディアーネの放つ殺気に次々と腰が抜けその場にへたり込んでしまった。ディアーネはへたり込んでいる者達に一瞥もくれずに歩く。ディアーネの進行方向にへたり込んでいる者達は匍匐前進の要領で道を開けた。


「そ、そこです」


 ティレンスの弱々しい声がディアーネの耳に入る。


 ディアーネは声を返すことなくあるきながら斧槍ハルバートを振りかぶるとそのまま振り下ろした。


 ドガシャァァァァァ!!


 ディアーネの斧槍ハルバートの一撃で聖水晶の間ゲオスマクナの扉が砕け散った。聖水晶の間ゲオスマクナの扉には結界が施されており、当然ながら人間では破ることなど不可能なはずであったのだ。だがディアーネはその結界を無造作にただの一振りで消し飛ばしてしまったのである。


 ディアーネはそのままティレンスを引きずって聖水晶の間ゲオスマクナへと踏み込んできた。

 正面の玉座に座る三十代半ばの男が国王、そのとなりの席に座る同年代の女性が王妃であろう。

 そして左右に多くの者達が並んでいる。その身なりの良さから高い地位にあるのは明らかであった。


「あなたがシュレーゼント王国の国王ですか?」


 ディアーネの声には好意のかけらも含まれていない。


「さっさと立ちなさい。これから我が主であるヴェルティア皇女殿下へ今回の件について釈明しなさい」


 次いで発せられたディアーネの言葉に聖水晶の間ゲオスマクナの空気が凍った。ディアーネの言葉は一国の王に対してあまりにも無礼というものである。だがディアーネにしてみれば主であるヴェルティアを利用とした者共など敬意を向ける対象ではない。

 それどころか徹底的に滅するべき対象とみなしているのである。無論、ユリも同様である。それをしないのはヴェルティアが許してあげた・・・からにすぎない。


「な、なんだと!!ふざ」


 ドゴォォォ!!


 瞬間、列席者の頭上を何かが通りすぎ背後の壁を斬撃の痕が走った。


「なにか?」


 ディアーネの言葉に侮辱されたという激高は一気に沈静化する。列席者達はディアーネの警告の意味を正しく理解していたのである。すなわち外すのは一度だけであり二度目はないということをだ。

 警告を正しく伝わったと判断したディアーネは国王へ目を向けて言う。


「さて国王陛下、貴国はアインゼス竜皇国の皇女殿下を誘拐した。誘拐の理由は魔王とやらを斃させ、それを囲い込むことにより他国に対し絶対的に有利な立場を築きあげようとした。ようは利用しようとしたわけですが……どう釈明するつもりかと聞いてるのですよ」


 ディアーネの言葉はまったく容赦というものがない。ティレンスとの婚姻の話を聞いた段階でヴェルティアを利用しようと考えていたことを察したのである。もちろんユリも同様の結論に至っており、シュレーゼント王国に対して好意を持つなど未来永劫あり得ないのである。


「な、なんのことだ。我々は勇者に魔……」


 ビキィ!!


「ぎゃあああ!!」


 国王の言葉が中断したのはディアーネが国王との間合いを一瞬で詰め、左人差し指をへし折ったからである。

 一拍遅れて国王の口から絶叫が発せられた。


「誰が私に釈明しろと言ったの?釈明の相手は我が主であるヴェルティア皇女殿下よ。釈明するつもりがないなら別に構わないわよ」

「わ、わかった……ひ、何を!?」


 ディアーネは国王の顔面を掴むとそのまま持ち上げた。あまりの光景に全員が呆気にとられた。


「何を勘違いしてるの? 言葉遣いに気を付けなさい。お前の息子にも言ったけど言葉には細心の注意を払いなさい。どれがシュレーゼント王国の滅亡の原因の言葉になるかわからないわよ? それとも今すぐ王太子殿下を国王に即位させましょうか?」

「ひ……」

「どうなの?」

「お、お許しください」

「ふん」


 ディアーネは国王を掴んでいた手を離すとそのまま国王は座り込んだ。


「さっさと立ちなさい。ヴェルティア様をこれ以上待たせるわけにはいかないわ」

「は、はい」


 のろのろと国王は立ち上がるとディアーネは立ちすくむ一同を無視して歩き出した。ディアーネに国王と王太子であるティレンスがついていく。その光景はシュレーゼント王国の主が変わったことを示しているようであった。


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