第04話 立場というものを理解させないと①

 ディアーネの主犯という言葉にティレンス達は凍り付いた。今さらながらヴェルティアを召喚した事に対して誘拐犯と何ら変わらないことに気づいたのである。


「無礼であ……」


 ディアーネの言葉に憤慨した一人の神官が抗議の声をあげ立ち上がったが、次の瞬間にはユリに喉を掴まれ持ち上げられていた。


「てめぇか?いい度胸してるじゃないか」


 ユリのドスの効いた声に締め上げられた神官は返答することができない。締め上げられている状態のために返答できないというのもあるが、それ以上にユリが放つ殺気のすさまじさに声が出せないのだ。

 増してはユリの手にいつの間にか剣が握られており、命を刈り取ることに何ら躊躇が感じられないのだ。


「アインゼス竜皇国への宣戦布告きちんと受け取った。シュレーゼント王国だっけ?皆殺しにしてやるよ」


 ユリの言葉に一同は震え上がった。ユリの言葉はハッタリではないことは明らかであり、それを可能とするだけの実力を有することが理解出来たのだ。


「ユリ待ってください!!」


 そこに救いの声が発せられた。その声の主はもちろんヴェルティアであった。


「私は別に拐かされたりなんかしてませんよ」


 ヴェルティアの言葉にティレンス達はものすごい勢いで首を縦に振った。


「お嬢こいつらに何を言われたかわからないけど、どうせこいつらはお嬢を利用しようとしてるクズ共だよ」

「ええ、僭越ながらユリのいう通りかと思います。このクズ共に情けなど不要です」


 ユリとディアーネには一切の容赦はない。その容赦の無さにティレンス達は自分達が崖っぷちに立っている事を嫌が応にも理解してしまう。


「先程、シュレーゼント王国のみなさんの腕前を拝見しましたが、それはもう酷いものでした。これでは無関係な異世界の人に縋らないといけないのは当然なんです。縋り付く方々を助けないのは強者としては恥ずべき事です」

「なるほど……一理ありますね。強者に縋るのは仕方ないですものね」

「う~ん、その割にはこいつ礼儀がなってないよな」


 ユリの言葉に締め上げられていた神官はあまりの恐怖に気絶してしまった。


「その辺は文化の違いというやつですよ。だって、こちらの方々は私に魔王さんを斃した報酬として、なぜかティレンスさんとの結婚を言われましたからね。我々とはかなり文化が違っているみたいです」

「は?」

「ほう?」


 ヴェルティアの言葉にディアーネとユリの声が一段低くなった。


「お嬢、一応効いておきたいんだけどそのティレンスってこいつのこと?」


 ユリは締め上げている男に視線を向けて言う。


「いえ、違いますよ。ティレンスさんはそっちの方です。シュレーゼント王国の王太子らしいです」

「へぇ……既婚者のお嬢への報酬がそこの王太子殿下ボンクラとの婚姻か?どこまでもうちの国を舐めてくれるというわけだ」

「ええ、文化の違いなどという言葉では流せないレベルの侮辱だわ」

「ひ……」


 ティレンスの恐怖の声が響く。


「さて、ティレンス王太子殿下、この不始末どう償うおつもりで?」

「え……?え?」


 ディアーネの言葉にティレンスはまともに返答することができない。迂闊な事を言えばディアーネの手にしている斧槍ハルバートで真っ二つにされるという恐怖しかなかった。

 その様子にこれ以上ない軽蔑の視線をディアーネはティレンスへ向けて言い放った。


「わからないのですか?国を救った報酬があなたごとき・・・との結婚なのでしょう? つまりアインゼス竜皇国のような弱小国ならば栄えある名誉だといいたいわけですよね?」

「ち、違います!!我々は決してそのようなつもりは毛頭ございません!! 本当です信じてください!!」


 ティレンスはガタガタと震えながらディアーネに頭を下げる。その様子は奴隷が主人へ慈悲を乞う姿に似ていた。


「ひ……」


 ディアーネがティレンスの頭を掴むとそのまま持ち上げた。持ち上げられたティレンスはディアーネと目線を合わせられた。


「随分と舐めた事をしてくれるわね。あなた国王はどこにいるの?」

「な、何をなされるおつもりで……?」


 ディアーネの言葉にティレンスの声は明らかに涙をこらえていたものである。ディアーネの言葉の意図を察してしまったのだ。


「もちろん、国王をここに連れてきてヴェルティア様に謝罪させるにきまってるでしょう」

「も、もし……父…いえ、国王陛下が拒否したらどうなります?」

「今日からあなた・・・が国王となるわ」

「それって……」

「あら、察しが悪いわね。国王が今日死ぬという事よ。ついでに王族をあなた以外、皆殺しにしてやるわ」


 ディアーネの言葉に何ら気負いというものはない。まるでちょっと買い物に行ってきますというような気軽さである。


「うーん、ディアーネ、そんなに脅してはかわいそうですよ」


 そこにヴェルティアの言葉が入る。ヴェルティアとすれば特段気にかけるほどの事ではなかったのである。この辺り生まれついての強者故の思考回路と言えるだろう。


「もちろん冗談ですよ。でも、この者達の対応次第では暴力をふるわざるを得ません」


 ディアーネの返答にヴェルティアは即座に頷いた。


「それは仕方ないですね!! 私としてはディアーネが傷ついたりしたら悲しいですから。もし、相手が暴力を振るってきたら遠慮なくやり返してあげてください!!」


 ヴェルティアの言葉にディアーネはニッコリと微笑んだ。ヴェルティアの言葉はディアーネとユリの命と尊厳をこの世界の人間達よりも重視しているということを意味しているのだ。


「それじゃあ、私は教団のトップをここに連れてくるとするか。おい」

「は、はい」


 ユリが声をかけたのは豪奢な神官服に身を包んだ初老の男だ。その服装からかなりの地位にある事が窺えるがその態度は完全に臣下のそれである。


「今から行くからお前案内しろ」

「こ、これからですか」

「当たり前だろ。お前はかなりの地位なのにここにいると言うことはお嬢を利用しようとしたのに教団が関わってると言うことだ。きっちりとしておかないとお前らのような連中は勘違いするものな」


 ユリの言葉にコクコクと頷いた。それを見たユリはヴェルティアへと視線を向けると口を開いた。


「お嬢、そういうわけでちょっと行ってくるよ」

「なるほどこれからのことを考えると教皇さんにも来てもらった方がいいですね」

「うん、そう思うよ。やっぱりちゃんと責任の所在を明らかにしないといけないと思うんだ」

「ユリの言うとおりね。ヴェルティア様、申し訳ありませんが少し御前を離れます」


 二人はそう言うと一礼してティレンスと初老の男の襟首を掴むと出て行った。


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