第14話 夏の実習その7


 唐突な話により、俺は八島への興味を完全に失った。


 そして、実習のこともどうでも良くなってしまった。今はこの目の前にいる女が、何を話すのか、それだけに意識が傾いている。


 八島からは俺たちの話が聞こえない、殆ど波打ち際の岩場に俺たちは移動した。


「……単刀直入に聞く、誤魔化しなど一切無しだ。俺の親は殺されたのか?」


 ある意味、本当にただの不幸な事故だったら良かったかも知れない。そんな事を一瞬思った。


「分からない。でも、あの2人に世話になった人間は少なからずいる……そして、殺された……そう考えている人間は君が思っている以上にいるよ」


 彼女は断言はしなかった。そして、そう考えているのは俺と彼女だけではない。


 良かった。憎しみで凝り固まって逆恨みしている可能性も考えてはいたが、複数のプロが、ハンターとしての俺の親を知ってる人間が俺と同じ考え。


 この意見の一致は俺にとっては何よりも励ましになる。


「そう思う根拠は?」


「あの2人を殺すモンスターを想像する方が難しいのが一つ。そもそもそんな強い……実力差のある階層まで行くような無茶はしない人たちなのが一つ。

 死んだとされる階層でそれほど強いモンスターはいない。発見を報告したようなパーティでは絶対に無理。生きて報告が出来たという時点で相当におかしい」


「で、そのパーティは……」


「そう、ゼノフィアスのパーティ。でも会見なんかで出てきたパーティとは別のパーティ。

 そのパーティ名及びメンバーは非公開。でも業界内では謎の正体不明パーティがうろついているというのは有名だった。恐らくはソレだろうね」


 さらにゼノフィアスにおけるトップパーティの最近の目覚ましい活躍は嘘だと言う。


 そんな活躍をしていれば現場で最前線を走るトップ層は見逃さない。にも関わらずいつの間にかあり得ないような業績を叩き出している。


 そいつらは表の顔で、ゼノフィアスの表の顔に成果を渡して会社の名を売る為の裏の顔があるらしい。


「目的は? 単に金儲けか?」


「金が目的なのは間違いなくあると思うけど、それは謎。むしろこれからそれを調査しなくてはならない……けど、調査していたメンバーがもう何人も消えてる。いや、消されてる」


「キナ臭いってどころの話じゃないな。で、俺にどうして欲しい?」


「別に何かして欲しい訳じゃないよ。むしろどうしたいのかを聞きにきたんだから」


「もし仮にだ……仮に、本当にゼノフィアスの裏の人間が何か企んでいて、俺の親を殺したなら……俺はそうだとしか思えないが、真実を知りたい。

 そして、ケジメはキッチリとつけさせてもらう。組織全体の問題なら組織ごと破壊するし、個人なら殺す。

 法律とか倫理観とかで説教するつもりならやめてくれ。

 俺は頑固だ。この件だけは人の話を聞いて考えを変えることはあり得ない」


「ふふ……」


 笑った。バカにするような感じではないが、このタイミングで笑うのは変だ。


「何がおかしい?」


「ハンターに一般的な法律や倫理観なんて求めるだけ無駄だからね。この仕事は多かれ少なかれ、反社会性があるからやっていけるんだよ。

 そして君のご両親を殺すことが出来る連中がいるという前提で話すけど、そんな連中にはもっと話が通じない。

 私たちも危険を感じているからね、そりゃ誰か分かったら殺すよ?

 この国の英雄……多くのハンターにとって憧れであり恩人であるあの2人を殺した奴らならね」


「俺の獲物だ」


「あっちが何もせず、表に出て捕まれば何もする必要はない。でもそれは現実的じゃない。

 悪いけど自衛はさせてもらう。その中で殺してしまっても謝るつもりはない」


「だから……仲間になった方が良いって、そういう話か? 結局のところ勧誘か?」


「勧誘というよりは協定、同盟関係。流石に息子さんと敵対はしたくない。お互いに情報交換して友好的な関係を築きながらも、早い者勝ち。

 これはそういう話」


「…………」


 そもそもだが、こいつを信用して良いのかすら微妙だ。だが、俺のことはある程度調べているようだし、俺は敵対出来るほど強くはない。


 話半分ではあるが、多少は耳を傾けるべきだろう。


 業界の情報は今の俺じゃあ手に入れにくいしな。コネクションを構築しておくべきだとは思う。


 仲間とは思えないが、わざわざ敵を増やすべきではない。俺を騙す為のゼノフィアスの差し向けた罠という可能性も排除出来ないが、裏を取るのは無理だ。


 今は泳がせて様子見をするべきだな。


「特に怪しいと思ってる人間……その裏のパーティを操っているような人間について思い当たる奴は?」


「会長の義理の息子だろうね。次期会長候補の1人で会社内の改革も行なっていて、今は功績が欲しいはず。何度か話したことがあるけど、傲慢で強欲なクソ野郎だよ。

 成功する経営者なんかには時々いるけど、目的達成の為に手段を選ばないタイプ。

 それも度が過ぎた野心家だ。何かするとしたら彼くらいだろう」


「あいつか……確かに、ムカつく偉そうなインタビューの受け答えをしていたのは見たことがある。少し考えさせてくれ。同盟に関しては悪くない提案だと思うし、俺にも多少出せる情報はある。親が面倒見た人間なら殺すのは心苦しいから敵対も出来ればしたくない」


「君……感情的な物言いの割に、言質は取られないように言葉を選んで警戒してるね? あの2人と同時に話してるみたいで面白いよ。流石息子さんだ」


「それは褒めてるのか? バカにしてるのか?」


「どっちでもないかな。ただ、思ったまんまのことを言っただけ……さて、そろそろ時間切れだね。実習に戻りなよ」


「おいまだ話は……」


 シャドウクイーンは消えた。なんて自由な女なんだ。


 だが、実習並みに有益な会話が出来たのも確かだ。俺の怒りの矛先に照準を合わせられるような情報だ。


 帰ったら詳しく調べて見るか……義理の息子って確か……婿入りで元はやり手のベンチャー企業の社長とかじゃなかったか?


 名前は……神崎なんとかだ。


 後はプロのハンターで信頼出来そうな人間にもコンタクトを取るか。困ったら頼っても大丈夫と言っていたリストがあったはずだ。動画だから再生して一時停止しないとダメだから少し面倒だが。


 そういえば、島が静かだ。戦いはいつの間にか終わっていたようで、今は風と波の音しか聞こえない。


 皆と合流するか。


 ***


「すまん……もう一度言ってくれるか?」


 俺は皆と合流し、無事であることに胸を撫で下ろしたのも束の間、衝撃的な事実を伝えられた。


「世良が他の班の宝を全部海に投げ込んだようで俺たちの班以外の宝が回収不可能な状態だ」


「はぁ?」


 戦いはこちらが一方的に蹂躙した形で終わる。スキルの組み合わせや個人の技量が上で有利な陣地で戦えたからだ。


 しかし、勝てた理由はそれだけでなく、相手側に指揮する人間がいなかったことにもある。


 途中、世良が突如として姿を消した。相手の戦線は崩壊し、こちらが勝利したのだが、その後に世良が顔を出してさっき言った通りのことを宣言したらしい。


「何がしたいんだ世良は?」


「それは分からんが、残り4つの宝は世良じゃないと回収が出来ない。あいつの班が1位。俺たちが2位という結果で終わるしかない」


「あいつをぶん殴って宝を回収することは出来ないのか?」


「無理だ。あいつの意思で宝を海に流すことも出来るそうだ。今はスキルで沈めているだけらしい」


「待てよ、俺たちには1つ宝がある。あいつは4つの宝を手放しても俺たちに損はないだろ? それは何の交渉にもならないだろ?」


 俺たちが単独で勝利し、他の班は全て負け。単純な話のはずだ。


 だが、五十嵐はそうではないと言う。何故だ?


「曲直瀬、忘れたのか? ルール上、宝の破壊、紛失がされた時点で減点だ。実際のダンジョンでもそれは禁じられている。

 俺たちが世良を倒して宝を紛失した時点で4つ分の減点がされて俺たちは宝を持っているのに最下位になる。

 世良の班が1位、俺たちが2位になるか、他の4班が同率1位で、俺たちが最下位になる。

 世良は最初から何が何でも俺たちに勝たせない為の作戦を練っていたということだ。

 完全にしてやられた」


「じゃあ、あの一斉襲撃は目眩しだったってのか?」


「そのようだ。曲直瀬……世良は八島とつるむただの不良って訳じゃなさそうだ。思っていたよりも頭が回る……そしてお前に対して尋常じゃない敵意を向けていた。

 相棒の八島を囮にするくらいだ、俺が相棒と言った瞬間あいつは鼻で笑った」


「……世良は八島を友達とすら思ってないってことか?」


「反応からして恐らく……とにかく、お理由は分からんが八島よりも世良の方がお前のことを敵対視しているようだぞ。それとこれを預かった」


 五十嵐は手紙を俺に渡した。世良が俺にだけ読めと言って渡して来たらしい。


 世良……よく考えてみれば、あいつは主体的に俺に嫌がらせをすることは無かった。八島が動けば便乗するようにして、同調していただけ。


 ただの金魚のフン野郎かと思っていたが、今回は派手に動いて来た。


 八島との関係は間違いなく悪化するであろうスタンドプレーをしてまでだ。


 俺は手紙を1人で読む。手書きではなく印刷されたものであることから、島に来てから書いたものではないことが分かる。


 事前に用意していたもの。


 つまり、こうなることを最初から計画していたはずだ。


 書かれている文字に目を通し、ため息をつく。


「参ったな……」


「何が書かれていたのか聞いて良いか?」


「いや、悪いがそれには答えられない。すまないな」


「構わん」


 五十嵐は手を前にやって気にするなと言う。


『お前の秘密を知っている』


 手紙にはそう書かれていた。それだけ書かれていた。


 そしてそれは俺の顔色を悪くするには十分な内容だった。


 ハッタリかも知れない。だが、もし万が一何か知られていたら、こんな回りくどいことをやる奴が何か知っていたのだとしたら、それは俺にとって致命的だ。


 強くなった理由をバラす準備をしているかも知れないし、それが違法なものだというデタラメでも俺にとっては痛い。


 証明が必要になってくる。


 そして証明する段階において俺の隠していたスキルが明らかにされてしまう可能性がグンと上がる。


 また、スキルではなくとも俺には秘密が多い。


 グードバーンやサミュエルは家を出入りしているし、金のことかも知れない。


 一番バレてる可能性としてあり得るのはミレイの件だ。


 つまり、俺は『秘密を知っている』、程度の曖昧な内容の世良の手紙一枚で動きを封じられた。


 今回の実習、戦いには勝ったが、世良にしてやられた。


 実習は俺たちは何も出来ず、ただ現状維持で2位という結果に甘んじる形で幕を閉じた。


 実りあるものだったが、ゼノフィアスの件と言い、どこかモヤモヤとした気持ちの残る夏の終わりだった。



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これにて3章は終わりです。先週更新出来なくて申し訳ありません。執筆作業に時間を割り当てるのが難しく次章更新の目処が立っておりません。


しばらく休載となります。

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無能スキル『管理人』ってダンジョンマスターになれるのかよ!?〜金も力も家賃になるなら最強を目指すしかない〜 @7j543

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