第4話 高校生チームワークを学ぶ
作業は至ってシンプルで、ど素人の俺でも体力さえあればなんとかなった。
掘る、運ぶ、掘る、運ぶ、この繰り返し。
簡単ではあるが、決して楽では無い。単純作業は俺はあまり得意ではないなと気付きながらも、これも修行のうちだと考えて仕事を続ける。
班単位での活動。つまりチーム、パーティで共通の目的の為に動くという作業を今までやってこなかった俺には丁度良い練習なのかも知れない。
ちょっとしたコミュニケーションで作業が円滑に進む。
別に面白いことを言ったりする必要なんかはないが、挨拶、指示、感謝のやり方は小西さんを見て学ばせてもらっている。
人当たりの良さ、それが作業効率にかなり直結しているなと分かった。
他の班の班長はちょっと言い方がキツかったり怖い人もいて、ギクシャクしているところがある。
しかし、うちの班は割と和気藹々としていながらも作業はしっかりこなせている。
これはパーティでも活かせそうだと黙々と仕事をしながらも勉強させてもらっている。
よく、大人は俺たち高校生のことを社会経験のないガキのように扱うが、こうやって大人に混じりながら仕事をしていると確かに俺にはこういった『社会性』が欠如していたなと分かる。
そりゃ体力はあるし、力もそれなりだから班の中での労働量は俺が一番ある。だが、全員が俺だったとしてもこの班は上手く回らないだろう。
「いやぁ〜若いって良いねえ! この班アタリだなぁッ! ワハハっ!」
「シオン君あんまり張り切り過ぎて倒れないでよ、怒られるの班長の俺なんだから」
「うっす……全然まだいけます」
同じ班の陽気なオッサンの川口さん。ことあるごとに俺をヨイショしまくりでぶっちゃけめちゃくちゃ気分が良い。
正直な話、彼の作業量自体はかなり少ない。
だが、それでも問題はない。俺がかなり動けると分かるや否や、俺の作業を円滑に進められる為のアシストに全振りしてきた。
川口さんのおかげで俺は無駄な動作をせずに力仕事に全力を出せる。
適材適所だ。エースとなる人物のアシストによりチーム全体の効率を上げる。こういう人も必要なのだ。
小西さんはそんな全体を俯瞰して的確な指示を出す司令塔で全員の疲れ具合なんかを管理している。
他の3人も俺がガンガン掘るもんだからその準備に回ってくれている。
なるほどな、チームってこういうことか。
言動、生活、その全てが基本的に個人プレーで部活動もまともにしてこなかった俺は18歳にして、初めて集団行動を学んでいる。
学校でも基本的に集団行動だが、それが全体の効率を上げるのに役立つという実感がなかった。
別に俺が頑張ったところでクラスのテストの平均点が上がったりはしないし、規律が乱れないようにする以上の効果があるとは思えない。
そして意外なことに俺はそんなチーム単位での仕事を『楽しい』と感じている。
それもこれも一番若い俺のご機嫌を年上の先輩たちが気遣ってとってくれているから、というのもあるが協力するということが思ってたより気持ち良い。
「そろそろ運んできまーす!」
「はいよ! 行ってらっしゃい!」
「モンスターには一応気をつけて!」
「はーい!」
俺は声をかけてから、掘った『ただの石』を捨てにいく。
仕事は楽しいが、本来の目的は忘れちゃいない。
強くなる為に必要な素材である『アッパーストーン片』を集めることが目的で道中にこっそりと袋に入れていく。
朝から作業して昼になる頃には結構集まった。正確な量は分からないが、多分20kg分くらいは拾えてるんじゃないだろうか?
捨てにいくクズ石の回収場所でも結構落ちてて、こっそりと頂戴しているので、それなりに量がある。
モンスターなんかより油断して誰かに見られないことの方が注意が必要だ。
***
お昼の休憩になった。
班単位での食事になるのだが、昼食はなんと炊き出しのような形で、好きなだけもらうことが出来る。ありがてぇ!
こんな鉱山の中でホカホカのご飯と味噌汁と肉まで食えるなんて美味い仕事だ。
「……よくそんな食べられるね、シオン君」
「若いって良いよなあッ!」
「正直、私は疲労であんまり喉に通りそうにないですね」
「俺もだよ……でも若いとかじゃなくて……」
「うん……これ、大丈夫? 確かに力仕事だからしっかり食べるのは大事だけどさ、後で苦しくなると思うよ?」
俺のドカ盛りの昼飯を見て、班の皆が引いている。もはや心配されている。仕方ないだろ、腹減るんだよ。
でもその代わり午後からもガンガン作業するから安心してくれ。
「高校生だっけ? 夏休みの軍資金稼ぎに?」
昼飯中は結構雑談をしていたが、なんでこの仕事をしているのか、俺としては割と気になる話題になった。
「んー……遊ぶ為って訳じゃないんですけど、目標の為に貯めようかなと思って」
「かー! 眩しいなあおい! 小遣いなんかに頼らず自分で稼ごうなんて立派だよなあ! うちの娘なんかパパ小遣いちょーだい、服買って、スマホ新しいのにしてってうるせえのなんの!」
「川口さんお子さんいるんですか?」
「おうよ、来年から高校生で今は絶賛受験勉強中なんだが、夏期講習の受講費が高えんだよ! 俺は『金の心配はするな』って格好つけちゃったもんで、こうやって土日返上で副業ってことだ」
「ええ……じゃあ休みなしじゃないですか!?」
「ま、そうなんだがな。女の子って色々大変だろ? ちょっとしたことで友達にハブられたりってんで俺も気を遣ってんだよ。母親もいねえしな。
ぶっちゃけ本業もそんな大した稼ぎはねえんだが、親のせいで惨めな思いするのは可哀想だからな、俺がちょっと疲れるくらいならガンガン働くぜ!」
俺なんかよりめちゃくちゃ立派だし、良いお父さんじゃんか。
「いやあ格好いいですね……」
「はは、うちの子もそんな感じです。ワガママ言ってくれるだけマシってのは思春期の時に嫌と言うほど経験しましたからね」
「違いねえ! うちの娘はワガママだけど勉強はしっかり頑張ってんだ。金がねえって理由でその頑張りが無駄になるのは俺が許せねえからな午後からも頑張るかっ!
まあ、俺は流石にシオン君ほど体力ねえから上手いことサボらせてもらうぜ!」
「ちょっと……川口さんそれは可哀想ですよ!」
「冗談だって! でもうちの班はシオン君いて助かってるっての本当だろ? 皆でシオン君をサポートしてりゃあノルマも達成出来るし誰も文句言わないんだからよ」
「シオン君、疲れたらちゃんと言ってね。監督してる責任があるからね」
「はい、全然大丈夫なんで腰悪くするような作業とかは回しちゃってくれて良いですよ!」
「はははっ! ジジイ扱いされてらあ!」
良い雰囲気だ。年上にこうやって囲まれたことなかった……いや、あったな。葬式の後の親戚との会議だ。
同じ年上でもここまで違うのかよ、しかも血も繋がってない他人の小僧なんだが?
際立つな……親戚のクズさ加減が。金が絡めば人は変わってしまうのだろうか?
俺も多少の金を手にして変わり始めていないだろうか?
少し心配になった。
それにしても、皆子供がいるんだな。自分の子供には見せられない父親の姿ってやつをこうやって見れるのは新鮮だな。
うちの父さんはどうだったんだろうか?
母さんにビビって怒られてばっかりで腰が低いのに日本で2番目のハンターって訳わからないな。
俺に対してどう思ってたんだろう?
もうその答えは聞けないけど、心配してたり俺のことを思って仕事してたのかな、なんて思うとちょっとばかり涙腺が緩みやがる。
……頑張ろう。
***
午後からも変わらずにガンガン掘る。
チームの連携練度も上がって、疲れはあるけど午前中よりも効率自体は上がっている感じがする。
うおっ!? デッカい『アッパーストーン片』が出てきたな。
サイズの差はあるけど、こりゃかなりデカい。直径が俺の足くらいあるぞ、ラッキーだ。
「皆さん、そろそろ疲れが出てきて事故なんかも発生しやすくなる頃です。体調に異変があったり、作業を進めるのにちょっとでも不安があったら報告してくださいッ!」
「へへ、大丈夫大丈夫ッ! と言いてえところだが、肩が痛くなってきたな。ちょっとトイレ行ってきていいかい、小西さん」
「本当に大丈夫ですか? 川口さん? ちょっと顔色が良くないですね」
「そりゃクソ漏らしそうな程腹が痛くなってきたからだって!」
「……分かりました、トイレ行ってきてください。他の方も体調はどうですか? 大丈夫? ちょっと他の班の班長と連絡する事項があるので、抜けますね。
何かあったらすぐに知らせてください」
川口さんはトイレに、小西さんは報告にいったので、俺含め4人での作業になった。
「川口さんおっそいなー」
「今頃気張ってるんだろうさ」
10分くらい経った頃だろうか、俺はふと作業を止めて遠くの方に顔を向けた。
理由はなかったが、何かが気になった。無意識だった。
しかし、その感覚は間違っていなかった。
「誰かー! 助けてくれえ! 穴からモンスターが湧いて出てきたッ! 」
「モンスター!? ハンターたちは何やってんだ!?」
そういうリスクはダンジョンなのだからある。だが、そのリスクを排除する為に戦闘専門のハンターを雇っているはずだ。
ここから出るモンスターなんて数が知れているはずだ。
「向こうから出てきて今全員で抑えてるが数が多過ぎる! 戦線が崩壊するのも時間の問題だ!
おお! あんたハンターだろ! 早く応援に行ってくれ!」
別の班の人が慌てた顔でこちらにやってきて、近くにいたハンターに声をかけた。
「くっそ、トラップゾーンでも掘り当てちまったか!? 危険手当もらわねえと割に合わねえぞ……」
ブツブツと文句を言いながらもハンターは駆け足で現場に向かう。
「ハァハァ……皆さん無事ですか!? 1、2……川口さんは!?」
やや遅れて小西も走ってこちらにやってくる。
点呼をとりながら、川口さんが居ないことに気がついた。
「まだ戻ってないですよ」
「……おい、あっちの方向ってトイレがあるんじゃ……」
嫌な予感がした。冷や汗が流れた。
「川口さんッ!?」
「あっ! シオン君! いっちゃダメだって!」
俺は気がつけばトイレのある方向……そしてモンスターの湧いている方向へと走っていた。
「間に合ってくれ……!」
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