第2話 パーティ結成
思っていたよりもハードそうだとか、面白そうだとか、反応は様々だが、インパクトはあった。
「説明の途中だから静かにしなさい」
担当の舟木先生に注意され、私語は止まるが全員どこか落ち着きはないまま、湯浅さんは説明を続ける。
「まず、今年は5人でパーティを組んでもらいます。50人と聞いてるので丁度10組出来ますね。
その5人で無人島の地図に記された宝を探してもらいます。
おっと、その時点で終わりではありませんよ? ダンジョンでは目当てのものを手に入れたからといって、はい終了とすぐに帰れませんからね。
自給自足の生活を1週間しながら、潜伏する現役のハンターの襲撃から身を守ってもらいます。まあ詳しいルールに関しては当日に発表となりますので、お楽しみに」
で、肝心の実習内容だが今年は戦闘よりも生存を重視したカリキュラムが組まれている。
近年、スキルの強さばかりが重視されてしまっていたが、俺の親の死や、スペインでのダンジョン発生による事故など、日本のハンター協会サイドでは、生存率を上げる、安全に注意する人材の方が将来的に優秀なハンターが増えると考えているようだ。
死亡率が最も高いのも新人の部類だし、それに関しては俺も同意する。
勝つよりまず、生き延びる。こっちの方が重要だ。
プロハンターの襲撃も正面から戦うのではなく、生き延びるような戦い方が求められるだろう。
普通に考えて経験豊富なプロに勝てるとは思えないからな。
将来有望、と言うが殆どはまだ実践を知らないガキなのだから。おっと、俺も偉そうなことは言えないな。あの程度の経験で本質を理解していると考えるのは傲慢に過ぎるだろう。
「それでは、以上で説明を終わります。ご清聴ありがとうございました。早速ですが、班を決めてください。
決め方は自由。人材の確保、交渉、バランスの調整などもプロの現場では重要な要素です。
どのようなパーティが出来るか私も楽しみにしています」
班決めか……氷室さんは……ああ、こっちに来たな。マジで俺と組むつもりなんだな。
「約束してたもんね?」
「それは別に構わないんだけど……後3人は? 言っちゃなんだが、氷室さんは良いとして、俺と組みたがる人なんていないだろうし、班決めに支障が出るぞ?」
「むしろ、曲直瀬君と仲良く……表面上だけでも協力出来るような人じゃないと、課題をクリアするのは難しいと思うよ?」
おっしゃる通りではある。ただ、肝心の俺がそんなに協調性のある奴とは言えないからな。耳が痛い話だぜ。
結局、氷室さんのお友達の女子2人が合流することになる。女3人か……正直、無人島での生活となると、同性の方がやりやすいと思うが、選べる立場じゃない。
別に俺に敵対的って訳でもなさそうだし、メンバーを集めてくれた点には感謝しかない。
問題は後1人だ。既にあぶれた者同士のパーティが出来つつあり、今からこのメンバーに入ろうという奇特なやつがいるかと思っていたのだが……。
「曲直瀬紫苑、俺と組もう」
「……五十嵐、冗談はやめてくれ」
俺のことをフルネームでわざわざ呼ぶのはこいつくらいなので、背後から話しかけられてもすぐに分かった。
おかしい、五十嵐は班を決めろと言われた瞬間かなりの人数に組んでくれと囲まれていたはずで、とっくにパーティは決まっていたと思ったのだが?
「悪いが、全員断らせてもらった! 誰かを選べば余計な不和を招くと思ったからな。君たちは1人足りないようだし、俺に入って欲しいとも言ってなかったから自分の意思で選びたい」
「俺は……良いんだが……俺だけじゃなくて他の人にも聞いてくれよな?」
「もっともな意見だ。五十嵐秀をこのパーティに入れてもらいたい! 構わないだろうか?」
皆顔を見合わせて動揺していたが、氷室さん目当てとかそういうややこしい奴ではなく、実力も確かで俺目当てっぽい五十嵐なら良いかと同意された。
こいつは、優秀で悪いやつじゃないんだが、どうにも腹が読めんというか不気味さがある。完璧過ぎて嘘っぽいと言うか……。
嫌いではないが、好きだと思えるほど仲良くもない。
マジで、何が目的か分からんのが不気味だ……。
「良かった! 体力テストの記録が伸びてることには気付いているぞ! 一体どんなトレーニングをしてるんだね、俺にも教えてくれ! ハッハッハ!」
……なんなんだこいつは。
ともかく、実習のパーティが決定した。
メンバーは以下の通り。
・五十嵐 秀 電撃使い
・氷室 凉佳 氷使い
・三枝 好実 後方支援系のバフデバフスキル持ちらしい
・富永 結弦 軌道を変えるスキル持ちらしい
***
メンバーが揃った段階で今日のところは一旦終わりだが、お互いの得意不得意を把握する為、親睦を深める為、まあ名目はそんな感じだが、テストも終わったことだし、遊んじゃう? 的なノリに近い。
実は俺、こういうノリに参加するのが初めてである。
現在は学校の近くのファストフード店に来て雑談をしている。
「何ッ!? では問3のあれの答えは4なのか……しまったな」
何を話せば良いのか、とりあえずは今日のテストの答え合わせ的な内容で五十嵐とコミュニケーションをとっていた。
「でもそれ以外は全問正解なんじゃないのか?」
「そこだけ、心配だったのだがやはり間違えていたか。世界史は今度こそ満点をと思っていたが、今回もダメだったか……っと、失礼。すっかり曲直瀬と話してしまった」
我に帰った五十嵐は話を本来あるべき方向に戻そうとする。
そして、当然ながら話題はスキルの話になってくる。
「曲直瀬、君は戦いに向いたスキルがないから勉強を頑張っている、と俺は思っていたのだが……?」
来た。これは聞かれても仕方ないことだ。
「ああ、そうだ……いや、『そうだった』だな」
「元々興味がなくて単に心情の変化、ということなら分かる。だが、過去形ということはスキルの解釈の問題だった、そういう話か?」
「察しが早くて助かる」
もちろんだが、五十嵐がこういう察しをしてくることは想定済みで、あえてそうなるように誘導した答え方をした。
たまにあることなのだ。本人すら自覚していないスキルの使い方や、スキルそのものの勘違いということが。
スキルは基本的に一人一つしかない。だが、効果が複数あるということはある。
例えば氷室さんだが、物質を凍結させるという効果に気がついていなければ、水を操るスキルとの認識していた可能性もある。
そして、水を動かせるし、温度も変化させられる、という複数の効果がある。
つまり、俺も効果の限定的な使い方しか理解しておらず、最近それが分かった。そういう変化が俺に起こったと言えば嘘ではない。
「やはり、そうか。それで? どう言ったスキルなんだ?」
「まず、初めに言っておくが俺自身スキルの全てを理解している訳ではないから、後から話が違うって文句はナシだぜ?」
「皆、大丈夫だな?」
五十嵐は他の女子メンバーに確認を取る。スキルってそういうもんだよねって感じで正直俺が一生懸命言い訳を考えて来た割には拍子抜けな反応だ。
「現状、分かってることだけ教える。これは確かに確認出来た現象であり、事実だが、それが本来どういったスキルの一端なのか、それは俺にも分からない。
まず、身体能力が向上している。去年との体力テストの結果からも明らかだ。多少トレーニングはしているが、それにしても効果が出るのが速すぎる。
そして、黒い鞭みたいな蔦が出せる。俺はこれを影蔦と呼んでいる……こんな感じだ」
俺は周囲の目を気にしながら目立たない範囲で影蔦を出して、机の上に乗ったポテトをつまみあげ、口にいれた。
「これ、修学旅行の時のダンジョンでは見なかったけど隠してたの?」
氷室さんにジトッと見られた。確かに、それ使えるなら使っておけよという言い分は分かる。
「いや、これは比較的最近使えるようになった。射程は今のところ25m前後で伸び縮みする」
「……全然身体能力の向上とそれって関係なくない?」
「三枝君の言う通りだ。一見結びつかないし関係がない、法則性が見られない二つの効果と言えるだろう」
三枝さん、赤茶系の髪色で思ったことを割とズバッと言う落ち着いた雰囲気の子の指摘に五十嵐は同意する。
「別に使えるんだから良いんじゃないの〜? ウチらは曲直瀬のスキルが本質的に何なのかを調べる必要ないでしょ〜? 何が出来るか分かれば〜」
気怠げに、あまり興味なさそうに言うのは背が高くて前髪を一房垂らしたポニーテールの富永さん。
「曲直瀬、分かってる効果はそれくらいか?」
「今のところはな」
「そうか……なら、このメンバーのバランスから考えると陣形を組むなら後衛だな」
「俺が後衛? おいおい、待てよ何故そうなるどう考えても前衛だろう?」
「いや、前衛は俺と富永さんだな。富永さんがタンクで攻撃を防ぎ、俺がダメージディーラーをやる。氷室さんは中衛で隙が出来れば攻撃かつ、支援。三枝さんは後方で支援する。
君は、氷室さんと三枝さんを守る。合理的だ」
「……そうか」
何故反射的に否定した? 俺が人を守るという責任の重さに対する恐れか?
……いや、違うな。与えられた責任に対して確たる自信がないからだ。前に出て俺が傷つくのはいつものことだ。
勝手に突っ走って、失敗して、反省して。今まではそれで良かったが、これはパーティによる活動だ。
俺の失敗が許されない。それにビビったんだと思う。
だが、五十嵐の説明は理にかなっているし、反論出来る材料がない。だから俺は「そうか」と同意するしかなかった。
「正直なところ、他の皆の実力はある程度把握しているが君は未知数だ。様子を見てみないことには判断出来ない不確定要素が多いからな」
「そのあたりは演習で把握してくれ」
としか言えない。お前が思ってるより俺はやれるぜ、なんて抜かす自信なんかない。
ダンジョンの経験が他よりあるだけ。実力で言えばこの班のメンバーは全員がその才能によりハンターを目指すことが最初から出来た日本の中でも有数のエリートたちだ。
これから成長する俺が将来的に実力が勝る可能性はあっても、現時点でそこまでの自信はない。
今は現実が見えている。グードバーンに手加減されながらもボコられているのだ、身の程というのは嫌と言うほど思い知らされている。
訓練の度に10回以上、毎度毎度、今実戦なら死んでたと言われるのだ。
そこに噛みついても仕方がない。むしろ、俺はこの程度しか出来ないから変に期待しないでくれって意味で言ったまでだ。
その後は気持ちを切り替えて、親睦会兼打ち上げを純粋に楽しんで解散した。
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