第15話 コンボ炸裂
ダンジョンが枯れ、崩壊が始まることを何かのシステムが察知したのだろう。
それを知った協会側が犠牲者を出さないようにと、腕利きのスキル持ちを派遣した。
複数の合わせ技によってダンジョンからの強制退場という乱暴ながら、やむを得ない措置を取ったと発表があった。
俺からすれば、スキルの合わせ技で大勢の人間を特定して、ダンジョンの入り口という決まったポイントに飛ばすことが可能だということの方が驚きだった。
どんなスキル持ちがいて、それが実現出来たのか考えられる答えはいくつかあるが、それにしても相当貴重かつ強力なスキルを持っている奴らが、知らないところにはいる。
そんな恐ろしさも感じた。
「ふざけんなよ!」
「戦利品の弁償してくれよなぁっ!」
「まだ崩壊してねえんだから俺は行くぞ」
ハンターたちの反応はほとんどが不満を持ったものだった。
それもそうだろう、リスクをとってやって獲得したものがすぐ先に戻ったらあるってのに入るなっていきなり言われちゃ納得は難しい。
安全の方が大事という運営している側の意見も分かる。むしろ助けてやってんのに、なんでキレられなくちゃならないんだ。なんて思っているかも知れない。
妥当だろう。
だが、俺としては非常に困る。文句こそ直接言わないが、内心は困るとしか言えない。
比較的近場で、難易度の低いダンジョンってのは俺的にも都合が良いんだ。
もう少し実力をつけたらダンジョン ・コアを制御して俺のものにしてやろうと思っていたのに……ん?
いや……待てよ……可能性として……俺と同じようなスキル、または似たようなスキルを持ってるやつがダンジョンに入ったら、枯れ始めるってあり得るんじゃないのか?
おいおいおい! もし、そうだったら困ったどころの話じゃないぞ、そんな存在は明確に邪魔だ。
俺が強くなる資源がなくなっちまう!
……調べるか? せめて、そいつの顔や特徴だけでも……いや、これが自然なものかどうかすら、まだ確定じゃない……原因だけでも確認するか……?
どうせ詳しい説明なんてしてくれないのは分かりきってるんだからな。
「マリン……俺帰るわ。また連絡するし、その時にあの研ぎ棒の分の補填の件は相談させてくれ」
「え? シオン君? じゃあ一緒に……あ、あれッ!? どこ行っちゃったの!? シオン君〜?」
悪い……。そう思いながらも俺は指輪を使って透明になり、人混みをすり抜けながらダンジョンに再び入った。
***
「誰も居ないな……」
まずは1階層の様子を見たが静かなものだった。朝に来た時はモンスターよりも人の方が多いくらいだったが、今では人は全くおらず、モンスターも時々見かける程度。
本当にダンジョンが枯渇して終わるのか……?
とにかく、先に進むしかない。今なら他のハンターからの攻撃を受ける危険もないし、透明なのでモンスターとの戦闘も避けられるから通常よりも高速で進める。
順にまっすぐダンジョンを進んでいく。
モンスターも完全に無視。何かあるとすれば一番奥だろう。
そして心配なのがボス戦だ。ボスモンスターが残っているのであれば、すぐには進めない。
すぐに5階の鹿のモンスターがいたエリアまで到達する。スクロールを使って転移して様子を見るとリポップしてやがった。
「てことは、10階、15階のボスと戦わないとダメなのか……いや、チャンスと考えるか?」
面倒だと思ったが、順番など気にせず、人目も気にせず戦えるという点ではダンジョンを貸し切っている状態にも等しい。
滅多に味わえる機会ではない。そういう考え方も出来るはずだ。
「最速でボス戦してあわよくば20階層で何が起こってるか確認する。タダでは帰らねえ、それで良いじゃねえか」
自分に言い聞かせるように方針を1人で呟いた。
本当に崩壊が始まれば、スクロールを使って脱出する。そう決めた。
俺はとにかく10階層までノンストップで直進する。中途半端に観光地かなんてしてるせいで案内表示まで立てられてるからな。迷うことはない。
「おっ、そうだ……ボス戦の前にダガーの確認するの忘れてたっと……」
一度立ち止まってダガーを振ってみる。……何も起こらない。
付与されるってマリンが言ってたから何か起こると思ったんだが、アテが外れた。
ならば、モンスターを切ってみるしかないだろう。
丁度デカい蛾のモンスターもいるし、試してみる。
「影蔦ッ! ……からの叩き落としッ!」
飛び回ってるモンスターに対して影蔦による拘束はかなり有効だ。巻きつけて地面に落としてしまえばこっちのもの。人間の子供くらいの大きさなので気味は悪いが、その分当たり判定は大きい。
腹のあたりを突き刺してみる。
「何も起こらない……いやっ!? 色が変わってるぞ!?」
少し離れて様子を見ていたが、刺した部分が黒く変色しているのが確認出来た。
「毒……? 違うか……」
毒かとも思ったが、もがき苦しむような感じの反応ではない。単に攻撃した分のダメージによるフラつきがある程度だ。
一旦、影蔦を解除して自由に動けるようにして様子を見る。
「何なんだよこれ……やっぱ鑑定してもらった方が早かったか……ッ!?」
ブンッとダガーを振って感覚を確かめるつもりだったのだが、驚かされた。ダガーから鹿が使ってたような石の礫が飛び出したからだ。
「ウォッ!? ビックリしたァッ! なんだよ、さっきは出なかっただろうが!?」
石の弾丸のようなものが蛾のモンスターに向かって発射されて俺はダガーに向かって文句を言うように声を上げた。
「……一回刺すことで対象にロックオンがされて、その後発射されるってことか……?」
仮説だが、そんな気配がした。試しにもう一度強めに蛾にぶつけるイメージでダガーを振る。
「さっきより速えッ! ってことはやっぱりそうなのか! ロックオン、からの振る強さによって発射される威力も変わる……か……分かるかぁッ!」
こんなん偶然だ。ロックオンいらないから振るだけで発射してくれよ。
待て待て、狙いをつけることまで考える必要がないって考えたら便利なのか?
いや、でも刺せる距離まで近づけてるなら、刺した後にわざわざ距離を取って発射する意味あるか?
ないな……これ、根本的に設計ミスじゃねえか……。
「つ、つっかえねぇ〜……」
ダガーが弱くなったわけじゃないからまだ良いが、かなり微妙な効果にガッカリした。
投げて刺すのも、武器が手元からなくなるんだから賢い攻撃とは言えないしな。
大体、投げて刺せる精度があるなら、石を飛ばす攻撃もそこまで需要がないし……。
「あ〜……先を急ごう……」
蛾を倒してマナストーンを回収して10階層のボスエリアまで走った。
***
「ふう……たどり着いたが……さっきの蛾の強い個体と雑魚が4体か。問題は鋭い刃物みたいな羽の攻撃と鱗粉の毒だが……逆を言えば羽に頼り過ぎだからな、そこを崩せばかなり脆い…….!」
完全なる不意打ち、先手必勝!
影蔦を使い4体の雑魚の蛾の羽を絡めとる。そして、バランスを崩しているところを一気に叩く。
まずは羽の破壊だけを意識。致命傷を与えるのは後でいい。飛べなくなり地面を転がっているだけにしてしまえば脅威はなくなる。
雑に片方の羽に穴を開けてやり地面に落とす。
「どうだ、手下はもう使えねえぞ!」
臨戦体制に入られる前に邪魔な存在は消してボスとの一騎打ちに持っていく。
虫なので表情は読めないが気分は良くないはすだ。
こちらに殺意を向けているのは分かる。
「突風かッ! 他の奴よりも威力は強いッ!」
回避は影蔦による引き寄せで行う。ゴウッ! っと強い風がダンジョン内に吹き荒れた。
まともに受けたらバランスを崩すだろう。だが、俺に向かって直線的な攻撃をすると予測出来ていたからな。避けるのは難しくなかった。
「お前もセオリー通りにいかせてもらう!」
影蔦を伸ばして絡め取ろうとした。だが、奴はクルリと旋回しながら俺に突風を浴びせながら、その風の力で蔦を弾く。
「って、そんな簡単じゃねえか……どうする? お互い近づけないってなると、決め手に欠けるな……」
お互い、攻撃を防げるが、ダメージを与える術がない。
影蔦の勢いはそんなに早くない。射出ではなく、伸ばしているだけだから、時速50kmくらいがせいぜいのものだ。
「ダガーを投げるのもなあ……叩き落とされたら俺は装備なしだからな……あ?」
突如、浮かぶアイディア。
投げる、切るの2択となっていた自身の思考に広がりがもたらされる。
「ダガーに影蔦をくくりつけたら落としても戻ってくるじゃんか……良いこと思いついたぁッ!」
この時、俺は物凄く悪い顔をしていたと思う。
ダガーの柄に蔦を巻きつけ……投げた。思いっきり。
自分に刃物が飛んでくるのだ、ボスは当然これを風で軌道を変えて叩き落とす。
しかし、それは想定の範囲内。命中すればラッキー程度のもの。俺に必要な情報は既に得られた。
「ダガーの重みで普通よりも素早くかけて影蔦を動かせるってのはデカい発見だぜぇ! お前どうやら攻撃と防御を同時に出来るほど器用じゃあないみたいだなぁ?
俺がこの後どうするか分かる? 分からないだろ!」
ダガーが巻きつけられた蔦を俺は握る。
そして──振り回す。
「鎖鎌作戦だコラァッ!」
ボスの周りをぐるぐると移動しながら、鎖鎌と化したダガーと影蔦のコンボ。
こうなれば俺の勝ちは固い。何故なら、蔦の張り具合と俺の力次第で蛾の背後からダガーで攻撃するすることが出来るからだ。
正面に対する攻撃は風で叩き落とせるが、それ以外は一度身体の向きを変える必要がある。風切り音がするほど高速で飛来するダガーに対応出来るほどの俊敏さがコイツには無いッ!
しかも、ダガーが当たらなくとも伸びた蔦を巻きつけることも出来る。風で地面に落とされる瞬間に縮めてから俺が腕をグルグルしてるだけで攻撃はほぼエンドレスだ。
そして、ついに羽の一部を切り裂くことに成功した。今試したばっかりで練習はしてない。だから精度が高く無いので多少時間がかかったが、肝心なのは『ダガーによって傷をつけられた』ということだ。
「おい……してるぞ……変色ッ! でもって……手で投げるよりも高速で石が飛ぶから投石器ってもんが発明されてるわけで……こんなにビュンビュン言ってるダガーからどんだけの速度で石が飛ぶだろうなぁッ!」
俺がダガーを振ってもそれなりの速度が出ていた。しかし、投石器と同じように紐を振り回す力が加われば腕よりもよっぽど速くダガーは振るわれるわけだ。
しかも、ロックオンまでされてるんだから、俺に当たる心配はない。
シュパァンッ! と空気が破裂するような痛快な音がする。
もはや、弾丸だ。連射される石の礫は一瞬でボスの羽や腹を穴まみれにして消滅させた。
「これ……きんもちぃ〜〜〜ッ! やべ、クセになるわこの感覚」
絶叫した。作戦が上手くハマったあまりの爽快感によって。
「と……叫んでる場合じゃねえ。ドロップアイテムの確認もしたいが、先を急がねえと。いやしかし良い攻撃法を思いついたもんだ、使えねえと思っても使い方次第で全然化けるから初見の印象は案外アテに出来ねえな」
その後、サクサクと進み15階層のボスである、巨大ネズミも倒した。
流石にボスを1日で3体倒すとレベルアップによる肉体の強化が実感出来る。
本当なら疲れが見える頃だが、むしろキレが増した気もするが、レベルアップするにはその上限を取っ払う儀式として、ダンジョンを俺のものにするというプロセスが必要だ。
だからこそ、ダンジョンが崩壊するのは困る。
いるとすれば、まず間違いなくここ。俺はとうとう最深部の20階層に足を踏み入れた。
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