第13話 ダンジョンのマナー
まずは入り口からそのまま続く1階層目だが、ゾロゾロと大学生くらいの集団がいて、まるで緊張感がない。
それに人が多いのでモンスターと遭遇するのも難しいくらいだ。
とは言え、順を追って進まないことには深い階層まで行くことは出来ない。
確か、5階層に最初のボスモンスターがいるんだったはずだ。
6階層以降なら人も減るだろう。
ボスモンスターとはダンジョンによって出現する階層に違いがあるが、倒さないことには先に進めない門番のような存在だ。
この御岳山ダンジョンでは、5階、10階、15階に存在しており、20階層にラスボスがいるらしく。20階層のボスを倒すとしばらくした後に強制的に入り口に戻されることになっている。
今日のところの目標は5階のボスを確認して勝てそうなら戦う、無理そうなら諦めて帰るといった具合か。
あまりに人が多くて移動しずらく戦ってもトラブルが起きる予感がしたので、ここはスルーしたい。
そんな時に便利なのがサグラダ・ファミリアのダンジョンでダチョウのモンスターからドロップした指輪だ。
こいつで姿を消して人、モンスターとのエンカウントを避けながらサクサクと進む。
他のハンターたちの戦闘を見物しながら4階層まで来た。
そして、一つ見落としていた点に気がつく。
俺が見えないということは、俺のいる方向への攻撃や誘導などを一切配慮してくれないということだ。
人に向けて攻撃してはいけないという基本的なルールも、姿が見えないのだから、誰も分からない。
俺が立ち回りを注意しないと危ないということが判明した。
透明人間もラクじゃない。街中で歩道を歩いていたとしても自転車に轢かれる可能性だってあるってことだ。人が多いところで使うのは考えものだな。
4階層にもなると、人はやや少なくなる。人数が多ければ移動にも時間がかかるし、多少慣れた連中がチラホラいるなという印象。このあたりで指輪による透明化は解除する。
武器はもちろん、サグラダ・ファミリアでの相棒のダガーだ。今のところ何の能力もないと思われるが、モンスターを殺せる程度の切れ味はあるので、市販品とは違うのだろう。
「タヌキ……いや、イタチかテンに似てるモンスターか……動物タイプはすばしっこいから気をつけねえと」
1匹のモンスタが俺を睨みつけ、牙を見せながら威嚇している。
まずは安全確認。敵が目の前にいるやつだけだと思い込まないこと。
……よし、こいつしかいないな。
俺は両足を開いて、少し腰を落とす。右手にダガーを構えて、左手で影蔦を操る準備だ。
「ッ! やっぱり四つ足で移動する獣は動きが速えッ!」
瞬間的な足の速さは俺よりも上であろう速度で一気に距離を詰めてくる。
対応がやや遅れた。
上体だけを逸らして回避は無理だ……! 足元を狙って来ている!
「噛みつけるもんなら噛みついてみやがれ!」
避けるのが無理ならむしろ、当てに行く。俺はモンスターの直進する勢いを利用して蹴りつけてやった。
インパクトの瞬間、重い感触が靴越しに伝わってくる。ジャストミートだ。
「ギャウッ!?」
「アバラでも逝ったかぁッ! ハハァッ! ざまあみやがれ!」
蹴り飛ばされたモンスタは着地するも、よろけて先ほどの機敏さはない。
そして、その瞬間を俺は見逃さない。動きがほぼ止まっているのなら……影蔦だ!
「オラッ! 死ねぇッ!」
拘束されたモンスタをズルズルと引きずり、無理やりこちら側に寄せていく。抵抗しても無駄だ、後ろ足を縛ったからな。そんな短い前足じゃあ、どうにも出来んだろう。
唸ってまだ油断の出来ないイタチみたいなやつの後方に周り、ダガーで滅多刺しにする。
「ま、こいつ程度ならこんなもんだよな」
ドロップアイテムは指くらいの大きさの石、マナストーンだ。
ハンターによっては、このマナストーンの呼び方はまちまちだ。やってたゲーム由来の名前で好き勝手に呼んでいたりする。
基本的には『石』と呼べば通じる。
これはしっかりと魔導士の袋に入れておく。弁当も水筒も入っているが、まるで重みを感じさせないこの袋のお陰で俺は他のハンターよりも身軽だ。
遭難してもしばらくは生存出来るだけの食事やカセットコンロまで用意してるからな。
マジで便利だぜこれ。
***
その後、チラホラと似たような戦闘があったが、今のところは危なげなく戦えている。俺が成長して強くなっているというのもあるが、サグラダ・ファミリアのダンジョンはここよりレベルが高かったんだなと分かる。
所詮は大学生が遊び気分で来るような場所だ。この段階では全然イキれるような成果ではない。
「さ〜て、思ってたよりサクサク進んで5階層のボスの前まで来てしまったが……どうしようか」
既に本日のノルマは最低限クリアしている。もう帰っても良いくらいだが、体力的にはかなり余裕がある。
「お……誰か先に挑戦してるから、ちょっと覗くか」
運動が得意そうな男子大学生の4人組のパーティが戦っていた。
どうやら、鹿っぽいモンスターが3匹いるようで、1匹は石みたいなのをぶっ放してくるやつみたいだ。
「複数いるタイプのボスか、ソロの俺にはちょっと都合が悪いか……」
見た感じ、1匹の強さは大したことがない。ただ、俺は1人だから同時に相手するのは厄介だ。
一気に攻撃出来るようなスキルがあれば、それも簡単なんだろうが、現段階ではそんなものはない。
「おッ!?」
1人が鹿のモンスターの角に横腹を刺された。
「ガァッ……!」
「大丈夫か!?」
「馬鹿ッ! よそ見してんじゃねえ!」
「痛えッ……!?」
大学生パーティの連携に綻びが見えた。仲間がやられたことによる動揺で、敵から目を離してしまったのだ。
「石川を守れッ……撤退した方が良さそうだ!」
「チクショーッ! こんな雑魚相手に勝てねえのかよ!」
「おいおい……結構血が出てるって……ヤバいって!」
ここはダンジョンなのだ。当然、起こり得るリスク。遊び半分で戦っていたらそうなってもおかしくはない。
モンスターではないただの野生動物だって油断してたら怪我するんだから、多少戦えるスキルがあっても人間は怪我には弱い。
だから、俺は回避の訓練を嫌と言うほどやっている。攻撃ばかりでその練習をちゃんとしていないのは、まだ素人の域を出ない俺でも分かる。
だが、手出しはしない。ダンジョンのルールとして勝手に戦闘に参加するのは御法度なのだ。俺は救援要請がない限りは動くことが出来ない。
ただ、事態の推移を見守るだけだ。
「……ッ! オイッ! お前……! お前だよ!」
指揮をとっていたリーダーっぽいやつが、俺に気がついて声をかけてきた。
「救援を要請する! 負傷してるこいつを移動させろ!」
「は? テメェ、なんで命令口調なんだ?」
お前呼び、乱暴な言い方、救援を要請する態度ではない。そもそも、ダンジョン内の救援は義務ではなく任意。あくまで自分の安全が最優先であり断ってもいい。
「そんなこと言ってる場合か! 何やってんだよガキッ! 早くしろ!」
「知るか、お願いする態度じゃないだろ。ガキ扱いしといて助けてもらえると思ってんのかこの間抜けが」
俺は戦闘エリアには足を踏み入れていない。つまり、ボスのヘイトは俺には向かない。そもそも、勝手にエリアに入ることがマナー違反だからな。
ぶっちゃけ、こいつらが死のうがどうでも良い。第一、俺が勝てる見込みも保証もない。そこまで驕っていない。
誠実な態度で頼まれても救援するか判断に迷う相手だ。
「なら、私が行きましょう」
「ッ! ……あんた、バスの隣にいた……」
そう、確か名前はマリンとか言うブカブカパーカーの女……彼女がいきなり現れて戦闘に参加した。
「助かる……!」
マリンが拳から衝撃波のようなものを出してモンスターの注意を逸らす。
その隙に大学生パーティは倒れた仲間を抱えて逃げ出した。
おいおい、助けもとめておいてあいつにお任せかよ、どんだけ無責任なんだお前らは。
「お前……マジで調子乗んなよ?」
「あ? 逆恨みしてんなよ。助けるかどうかはこっちの勝手だろうが」
すれ違い際で、大学生の1人が俺に捨て台詞を吐いて逃げていきやがった。影蔦で縛ってモンスターの中に放り込むぞ貴様。
まあ、馬鹿はもうどうでも良い。問題は1人で戦ってるあいつだ。3匹相手は初挑戦じゃ厳しいだろう。
「シオン君ッ! 私困ってますッ! まさか共闘ではなく身代わりにされるとは思ってませんでした……!」
戦いながら俺に話しかける程度には余裕があるようだが、それも時間の問題だろう。
俺はその可能性もあるなと考えて様子を見ていたんだが、まさかマジでやるとはな。あいつらどんな教育受けてんだよ……。
で、お前もお前だ。勝てる見込みがないなら戦っちゃダメだって……。
「でも、困った時は助けるって約束しちゃってるんだよな」
仕方ねえ、助太刀するか……マリンの火力なら動きを止めれば倒せるだろう。
「俺が遠距離攻撃して来る鹿を引きつけるからもう一方を頼むッ! 弱ってるやつは放置で良いッ!」
大学生パーティが1匹は弱らせており、他の2匹がそれを守るように立ち回っていたのは観察していたから分かっている。
見た感じマリンは攻撃力重視で敏捷さはあまりない。となると、飛び道具を使って来るやつの対応は難しいだろう。
他の2匹はパワータイプで角を振り回して突っ込んでくるだけだから、衝撃波みたいなやつで牽制出来るはずだ。
まずは角の色が違う飛び道具の鹿の射線からマリンを外す。
「こっちだ鹿ァッ!」
一度の攻撃で2〜3発の石礫を時速100kmくらいの速度で飛ばして来る。一発自体はそこまで攻撃力がないが当たれば痛いし、頭とかに命中したら流石に危ない。
何より、その攻撃に注意しながらは動きにくい。
「ウォッ!? 速えッ! 思ってたより速えッ!」
プロ野球選手の投げた球と考えるなら100kmはスローボールの部類。テレビで見るだけなら、やたらと遅く見えるが、いざバッターボックスに入ると想定以上の速さだ。
「だが……頭を振ってる瞬間は無防備だなあっ! テメェッ!」
石を飛ばす瞬間、頭を振って攻撃するのだが、隙がある。
近付くのは難しいが、その瞬間に影蔦を伸ばすことが出来る。
角に蔦を引っ掛けてやると、発動のキャンセルが成功した。
「やっぱり頭振らねえと飛ばせねえみたいだなぁ……ウォッと……力が強えッ……!」
絡まった蔦を取ろうと暴れる鹿に引っ張られて前のめりに転んだ。
「でも、これは自在に伸ばせるんだよぉ〜ん! 残念!」
鹿が角を動かそうとするタイミングで蔦の張り具合を変化させる。すると、バランスが崩れて攻撃がキャンセルされる。
これで、飛び道具による攻撃は無効化した。後はこっちが一方的に攻撃するのみ!
俺は鹿の周辺をグルグルと周りながら、影蔦を伸ばしたり縮めたりする。
そして──4本の足に複雑に絡まった影蔦を一気に引っ張るッ……!
ギュッと急に締めつけられた細い足は腹の下に1箇所にまとまり、バランスを崩してドシンと音を立てながら倒れた。
「所詮は獣ッ! 自分の足と影の違いも分からぬ愚かな種族よガハハハハッ!」
作戦が見事に決まり俺は上機嫌に笑う。
動けず、攻撃も飛ばせない鹿など、噛みつく手段の残るイタチに比べれば、大したことはない。
「よせよ……そんなつぶらな瞳で今更命乞いか?」
見逃して欲しい? ダメに決まってんだろ馬鹿がッ!
肋骨の隙間から横にダガーを差し込み、心臓の辺りでグリグリと掻き回していると絶命し、ドロップアイテムを落とした。
マリンの方も……お、今丁度倒したところだな。拳から衝撃波を出して牽制し、弱ったところを直接触れて内臓にダメージを与える系の攻撃か。あれなら硬い敵でも中から破壊出来そうだな。
「あんた、強いんだな……1人でダンジョン来るだけのことはあるか」
「いえ……結構ギリギリで……助けてもらわなかったら危なかったですわね……」
肩で息をしているマリンが他2匹のパワータイプの鹿のドロップアイテムを俺に渡してきた。
「そっちが倒したんだから、これは俺が受け取るわけには……」
「救援を要請した時、救援を受けたものがドロップアイテム等の成果物を受け取る権利がある。ハンターのマナーですから」
「いや助けたってか……臨時パーティじゃないのか?」
少なくとも俺はその認識だった。ただ、即席の連携はかえって危険であり、各個撃破の方が望ましいという両親の講義を実践しただけだ。
これがあの大学生なら容赦なくいただくが、俺も3匹同時は無理だと思っていたからな。
「……まあ、そういうことにしておきましょうか。ところで何を落としたんですの!?」
ハアハア言ってるけど、これ、息を切らしてるって言うか……興奮してんな?
ドロップアイテムマニアか……?
とは言え、俺も何かは気になる。初めてボスを倒した報酬だからな。
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えー……あとがきでこんな話したら読後感悪くなるし、殆どの人には関係のないことなんですけど、コメントの内容について一回周知させて頂きます。
コメントしないで読んでる方には関係ないのですし、あんまり楽しくない話なのでスルーでも大丈夫です。ちょい長いです。
流石に見ず知らずの人間に対しての言葉遣いじゃないだろお前ってくらいの態度かつ、揚げ足をとったようなコメントの連投、先読みとか、こうしたら的な聞いてもいないアドバイス困るんでやめてくださいって言っても聞かない方がいまして、ブロック&コメント削除致しました。
マジで、テレビに向かって独り言喋るのとは訳が違うので、思いついたことをそのままこっちに送ってくるのは勘弁して欲しいです……受け取る側が、どう感じるかって一旦想像してから書いて欲しいですね。普通にモチベ削がれるので。
誤字報告や感想いただける方、感想なしでも読んでいただいてる方々には感謝しております、ありがとうございます!
乱暴な言葉遣いは当然として、過度な先読み(続きが気になる的なのはOK)、話の提案などのアドバイス系はそのネタが使いにくくなるので(パクったとかトラブルの元ですし)やめていただければ全然大丈夫です! そこらへんは作者さんごとに対応違うとは思いますが、自分の場合はこういう方針です。
『ダンジョンのマナー』なんて、タイトルつけてたんで意味深な感じになっちゃいましたが、これは偶然です笑
以上、今後似たようなことが発生すればブロックなり、コメント削除なり、警告なり対応しますよ、という周知でした。書いてる方も読んでる方も楽しくない内容なので、こんな当たり前のこと書きたくないんですけどね……感想閉じると誤字報告とか普通に嬉しいコメントも見えなくなるので考えものですが……お目汚し失礼しました。
本当に、こういう話ってだけで、嫌だなって思う人もいると思うのであとがきに書くかも結構迷いました、申し訳ないです。
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