第10話 筆記試験
ハンターになるのに必要なもの、スキル? 装備? いいや、答えはもっとシンプル。
──免許だ。
極端な話、どれだけ才能がなくとも誰でも講習を受けて免許さえ取れば一応はハンターを名乗れる。
ダンジョンで取ってきたものを売り、それだけで職業とし、生活を送っていけるものがプロという扱いであり、ハンターの会社、ギルドに所属していなくとも個人での活動も可能だ。
うちの親も自営業という形でプロハンターをやっていた。
さて、免許取得に必要な講習だが座学しかない。これは18歳以下でも受講が可能である。
何故座学のみかと言うと、車とは違いハンターのダンジョンでの活動は人によってそれぞれであり、スキルも違う。もちろん、ダンジョンも場所によって全く違う構造もある。
つまり実技面での画一化したノウハウなど存在せず、現場では大して役に立たないからだ。
操作するのが自分の身体であり、結局のところケースによって対応を変える。それを自分で覚える。
それしか、ダンジョンで生き延びる方法はない。
講習では、ダンジョンやハンターに関する基本的な法律やマナー、保険制度など最低限知っておかなくては他のハンターに迷惑をかける。という内容が教えられる。
というか、これくらい知っておかないと死ぬ、またはヘイトを買い殺されかねないってくらい初歩中の初歩で、少し勉強すれば合格出来るようなレベルだ。
あまり難しいと、ハンターの人数が確保出来ず、それが資源獲得にも影響してくるので意図的に難易度がさげられている……と勝手に思っている。
将来的にハンターになりたい中高生が筆記試験の修了証を持っていることも珍しくなく、どこかの天才キッズが小学何年生で合格、なんてニュースも時々やってるくらいだ。
元々ガリ勉、そしてサミュエルのスキル『思考加速』により、オンラインで座学を受けて知識面の対策はバッチリ。
さて、前置きが少し長くなってしまったが、俺は4月下旬から始まった大型連休を利用して試験会場に来ていた。
「やっぱり、若いのが多いな」
試験会場の顔ぶれを確認すると、同い年か少し上くらいが最も多く、順当に年齢が上がっていくにつれて、割合も落ちる。
何人かおっさんの受験者がいて、それが目立っている。
「あれか、休日ハンターってやつか……」
社会人をやりながら副業として休みの日にダンジョンに潜る人のことをそう呼ぶ。
俺としては副業でやろうって意味が分からんが金なんだろうな。ただ、年齢的にも若いハンターよりは厳しいだろうし、単なるバイトじゃないんだ。命を落とすリスクのある危険なところに金欲しさにくるのは凄いなと思う。
それこそ、安定した収入があるのならば尚更だ。
席に座ると、丁度俺の隣が50代くらいのおっさんだった。試しに話を聞いてみることにする。
「いや〜若い人に紛れてって言うのは緊張しますね」
もみあげがちょっと白髪まじりの気の良い感じの人で話しやすい。ガキの俺にもわざわざ敬語使ってくるし。
「失礼ですが、なんでまた?」
「そんな大した話じゃないんですけど、あれですよ『穴掘り名人』って動画配信者分かります? あれ見て俺もやってみよう! って触発されて……まあ、ありがちな動機です」
「なんか聞いたことありますね……確かモンスターと戦わずに採掘ばっかりやって稼いでる人……ですよね?」
「そうそう、それです。別にモンスター倒す力がなくとも稼げるんだって知ってやって見ようと思いましてね……ダンジョンの石の稼ぎってコツコツやれば、割と馬鹿にならない額になるらしくて。
まあ、あの人は動画の広告収入とか自分で立ち上げた採掘道具の収入の方が大きいんですねどね」
金を掘るより掘る道具売った方が儲かるみたいな話をまんまダンジョンでやってる奴がいるんだな。
「となると、荷物がなかなか大変じゃないですか?」
「そうなんですよ、装備だけで結構重いし、ゲームみたいに重さを気にしないで運べたら良いんですけど、疲れた帰りは行きよりも収穫物の重みが増しますからね。
ギックリ腰にならないように注意しなくては」
「ソロだとそこが問題ですよね」
うちの親が実力の割に稼げていなかったのが、そこだ。
2人で持って帰れる量には限界がある。大手のギルドなんかは運搬担当の人員を確保しているくらいだからな。
一時的にものを小さくすることが出来るアイテムを利用して運んでいたみたいだが、親戚が憎きゼノフィアスに売りやがったから俺は使えない。
時間と回数に制限があるとは言え、かなり便利なアイテムだし欲しいのは分かるが、ムカつく。確か3000万くらいで売れてるからな。
試験が始まるので雑談も終わり、問題を解いていく。丸バツ形式だ、俺が間違えるはずもない。
午後にはすぐに結果が発表され、俺の受験番号も電光掲示板にしっかりとあるのを確認して、修了証を受け取った。
受験料一回5万円だぜ? 高えよ。落ちた時のショックデカ過ぎるだろ。
「ああ、君も受かってたんですね」
「君もってことは受かったんですね……えーと」
名前を聞いていなかった。
「小西と言います……おっと、今日は名刺入れ持ってきてませんでしたね」
「いやいや! こんなガキにわざわざ名刺なんて渡す必要ないですよ……曲直瀬です」
「あの、もしかして……」
「ああ……まあ、はい……」
「どこかで見たことあると思ったら……あ、いや……ご両親のことは残念でしたね、お悔やみ申し上げます……」
名乗った後、しまったと思った。反応的に騒がれる可能性もあった。しかし小西さんは驚いたのを抑えてすぐに周囲に目立たない範囲で挨拶をしてくれた。
「また、ダンジョンで会うこともあるかも知れません。その時はよろしくお願いします。いや、年の割になんて言っては失礼ですが、しっかりされてる。きっとご両親も誇りに思われるでしょう。
では、失礼します」
小西さんはそれだけ言って消えてしまった。なんか、親戚のクズさを実感してるからか、ああいうまともな大人見ると驚いてしまうな。
ガキだからって舐めない、曲直瀬の息子と知っても騒がない、礼儀正しくて良い人だ。あれが大人ってもんだよな。
ダンジョンで死なないことを祈ろう。
***
帰宅してブランカに合格の報告をしに、ダンジョンへ向かった。
「おぉッ! シオン元気してたかよぉ!」
俺をダンジョンで出迎えたのはブランカではなく、グードバーンだった。
「結構久しぶりじゃないですか、心配してたんですよ」
「ああ、挨拶もしねえで悪かったな。戦場が騒がしくてそれどころじゃなかった。お前が用意してくれた飯で団は息を吹き返して大活躍よ!
カァ〜見せてやりたかったぜ。俺の斧を振るう姿をよお!」
ミュリエルとノノンはその後もちょくちょく顔を出すし、サミュエルとは結構頻繁に喋っているので様子が分かるが、グードバーンは一度会ったキリだった。
契約が失効してないから、死んでないのは分かっていたのだが、それなりに心配はしていた。俺の強さの根源的なところあるしな。
元の身体に戻るんじゃなくて成長がストップするみたいだが、まだまだ強くなりたいしこの人に死なれては困る。
「じゃあ勝ったんですね?」
「それだけじゃねえ、でっけえ武功を上げて傭兵団の規模は300人ッ! 報酬もガッポリ頂いたぜぇ? 次に武功上げたら爵位が貰えるんだってよ! まあ、俺の代だけなんだがな」
名誉男爵とか、そういうやつか? 貴族制度は知らんが活躍したみたいで、デカい手のひらを天井に向けてニギニギしている。
儲かったことを示すジェスチャーらしい。
「おめでとうございます」
「お前もチッとは身体が出来てきたんじゃねえか? 鍛えてるの分かるぜ?」
「おお……グードさんに言われると嬉しいですね。それで今回は挨拶に?」
「ああ! 挨拶とお礼と支払いに来ねえとって思ってんだが、なかなか忙しくてな、やっと落ち着いたんで来たんだが……あいつら、美味い飯の味覚えやがって、これを何個買えだのってこの俺を使いっ走りにしやがるんだ」
「まあ……想像は出来ます。買い出しに行きますか?」
と言ったところで、前回の買い出しが結構大変なことを思い出し、若干うんざりした顔をしてしまった。
「ダハハッ! 面倒だって思ったんだろう? だからその辺はちゃ〜んと考えて来たんだよ。うちの中に頭良いやつがいてな、そいつがこんなものをライダーを商人に売って代わりに買って来やがった」
グードバーンが笑いながら服の内ポケットから取り出したるは、薄汚い……皮の巾着? なんだ?
「こいつぁ、これでも高級品だ。見てろ……」
巾着に手を突っ込むと、その中には絶対に入っていない、いや……あり得ない大きさの斧が出てきた。
マジックかよ!?
「ビビったろう! この袋には重さも大きさも無視して生き物以外なら何でも入れられんだよ!」
「うおおおお……凄えええ……欲しい〜〜ッ! 売ってくださいよおぉッ!?」
どんな通販番組よりも俺は興奮した。これ欲しいッ!
ダンジョンの荷物問題、丁度今日考えていただけにタイムリーだぜ!
「あん? 売るだぁ? 馬鹿かッ! 金貸して傭兵団救ってくれた恩人に、んなケチな真似するかァッ! 受け取ってくれシオン……マジでお前のお陰で助かった命がある……」
「うおおおおおッ! マジかあああああっ!」
「真面目モードな俺は珍しいってのに……だが、喜んでもらえたようでこっちとしても嬉しいな……あ〜早速で悪いんだが、買い出しに付き合ってくれ。さっさと買ってこねえと連中が暴動起こしかねねえからな」
大興奮の俺を見ながら、水を差して悪いがとグードバーンは俺に同行を願った。
良い良い、全然良い。この謎の巾着の効果も確認したいからな。しかも2個も俺のモノ!?
親切はするもんだぜ全くッ!
俺はルンルン気分でグードバーンを街に連れて行った。
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