第10話 成長の種


「こいつは凄えな……」


 グードバーンでも日本を代表する大型のディスカウントストア、ドンキには驚いたようだ。


 ここなら食べ物以外にも色んなものがあるし、売れそうなものも見つかるかも知れない。


「シオン、さっき食った米は売ってるか?」


「米ですか? あれ持って帰りたいんですか?」


「ああ、聞いた感じだと調理も簡単だからな。水なら魔法で用意出来るし、消毒に向いたキツイ酒も売ってるんならその分はメシに回せる」


「なら米袋が売ってると思いますけど……どれくらい必要ですか?」


「あるだけ買ってくれ!」


「払うのは構いませんが持って帰れませんよ。ちょっと待ってくださいお店の人に聞いて来ます」


 俺は店員さんに無茶なお願いをした。爆買いする外国人の為に荷台を後で絶対に返すから貸してくれと。車用意してるから外に運び込む間だけで良いからとお願いして許可をもぎ取った。


 利益の為ならそれくらいの融通は効かせてくれるらしい。安心してくれ、多分だが大口の客になるから。


 米の他にも酒、併設されたドラッグストアでアルコール、試しに痛み止めなんかもちょっと買った。


 あっちの世界にも薬はあるらしいが高級品だそうで、使えるなら使ってみたいと。

 日本製の薬は外国人にも人気なようでそう珍しくないと店員さんが言っていた。

 よく買われるものをオススメしてもらってそのまま購入する。


「シオン、これは何だ?」


「ライター……火をつける道具ですね」


「ほお? 魔法なしでか、火打ち石みたいなもんか?」


「もっと簡単ですね、でも同じ用途ならこっちの方が全然安いですよ」


 ショーケースに入ったジッポライターをグードバーンは見ていた。だが、100円ライターの方がコスパは良いと思う。


 俺は近くにあった100円ライターを見せて使い方を教える。


「確かに便利だが……この透明の素材、プラスチックか? 見慣れない素材過ぎてそっちが注目されちまうだろうな。だが、こっちは金属で分かりやすいし高級感もある。こっちだ、こっちが欲しい。これは売れる」


「そういうもんですか……何個必要です?」


「取り敢えず10個だな、高級品は数がない方が価値が高いと思われて売れる。模様が違う奴がいい。一つ一つ手作りって分かる」


 プラスチックはダメか。ガラスよりも透明感があって色もついていて、割れにくいとなると、騒ぎになり過ぎる可能性があるか。


 しかし、思ってもみないところに気がつくな。火を扱える実用性とデザインの洗練された美術品として見てるのか。


 店員さんにショーケースを開けてもらい、ライターそれに換えのオイルも購入した。


「この酒はもっとまとまった量が欲しいな」


「じゃあ箱で買うしかないでしょう。これ一つが24個入ってる箱がありますよ」


「なら取り敢えず10箱買う。俺が持ってもいいのか?」


「良いですよ……って軽々と持ち上げて凄いな。それ、炭酸入ってるから揺らすと開ける時に吹き出しますよ、丁寧に扱ってくださいね」


「大丈夫大丈夫……この瓶に入ったやつも欲しいな……値段は量に対してちと高めってことはいい酒だなぁ?」


 この短時間で値札に書いてるアラビア数字を覚えてしまった。何となく相場や値段を把握している。

 普通に賢いぞ、この男。


 しかも、箱を両手に抱えて4つも持ってる。どんだけ力強いんだよ。500ml×24×4って、48kgあるんだぞ。


 俺なら腰が死ぬどころか、持ち上げるのも無理だ。


 結局、米、調味料、薬他医薬品、酒、服など爆買いして、合計30万以上のお会計となった。


 一度ATMで金引き落として来た。俺のデビットカードがあると言っても、高校生の俺がこのおっさんに見えるグードバーンの支払いをするっておかしいからな。


 彼の金だが、日本語が分からないので俺が代わりに会計するという建前を取らないと怪しまれてしまう。


 何度か荷台を使って外に運び、路地裏でダンジョンに転移して戻り、これでお買い物は終了となる。


「お帰りなさい、マスターシオン……随分と買いましたね」


「マジで大変だったよ途中で喧嘩の仲裁とかしちゃってさ。金も結構使ったんだよな」


「家賃とは別で請求すれば良いでしょう。戦争で活躍すれば報酬はそれなりにもらえるはずですから……彼が強ければお金もそれなりに持っていると思います」


「ああ。んで、日本のものを商人に売って金にするんだとよ、ジッポライターが売れるって言うんだ。どう思う?」


「未だにこの世界の戦場でも使われているものですから、傭兵にはウケると思いますが商人に売れるかどうかは、グードバーンさんの世界のことを知らないとなんとも……私には別の世界を見通す力はないですからね」


「今回は儲けが出なくても、まあ投資の勉強代ってことにしとくか……」


 荷物をグードバーンが契約する部屋にどんどんと運び込む。もうこれ自体が結構な筋トレになっているだろうというくらいの量だ。


 ビールの箱ってこんなに重いのかよ。


「ハハハッ、シオンなんだそのへっぴり腰は? 重いものはこうやって腕じゃなくて下半身を使うんだよ」


 グードバーンに笑われながらも手伝って部屋に運んでいく。


「これ、金さえ払えばいつでも来れて俺のもんか?」


「ええ、金さえ払ってくれればですが」


「いくらだ? ここに来れる通行料と思えば金貨や宝石くらいなら積めるな」


「じゃあ例えばこの量の酒買うならどれくらい必要ですか?」


「俺を雇ってる国なら……そうだなあ、銀貨30枚、金貨なら3枚くらいか? だが、そりゃここよりもマズイ酒ならって話だ。この味ならもっとするだろう」


「ブランカ、日本円に換算したら25万円くらいを家賃とすると金貨は何枚いる?」


「金貨30枚くらいですね」


「金貨30枚でこんなに良いもの買えるってか? ガハハ安い安い、傭兵団の維持にはもっとデケエ金がかかるが、ライターを捌いたら余裕で払えるな」


 家賃月25万って結構高いと思うんだが……女王であるミュリエルはちょっと規格外としても。

 年単位なら家賃だけで300万だ。新卒の給料より多いくらいだ。

 そう考えるとその3倍、しかも遠慮して下げさせての値段だからあの女王頭おかしいって。


「ちなみにいくらで売ろうとしてるんですか?」


「そうだな、1個で金貨300枚くらいか」


 たかっ!? 日本円で250万くらいの値段で売りつけんのかよ。


「最初はそんなもんだ。だが話題になったら物珍しいものが好きなやつはもっと金出しても払うだろうよ……試しにまずは使ってみるか」


 俺はライターにオイルを入れてこうやって使うとグードバーンに教える。


「ちょっと待ってろ、タバコ持ってんだ試しに吸ってみる」


 部屋に置いて来たタバコを持って来て火をつけた。

 ここは禁煙とかそんなルールないしヤニで汚れてもすぐに復帰出来るから好きにしてもらって構わない。


 父さんも吸ってたからちょっと懐かしい匂いだと思ったくらいで不快感はない。


「面白えな……油の匂いか? 口に入れた時の味わいがちょっと違うな、こりゃ下手したらオイルも売れるか……定期的に入れるだけで良いんだろ?

 俺たちの特別製の油だって言って交換の手数料も取って更に儲けられるな」


 タバコをふかしながら、物凄く悪そうな顔をして頭の中でそろばんを弾いているのが手に取るように分かった。

 傭兵なんかやらないで商人やったら良いんじゃないか、本当に。


「じゃ、そろそろ契約しますか」


「握手でいいのか?」


「ええ……って! 痛い痛い痛い! 折れるって!?」


「おおっと、嬉しくてつい力入れちまった。これで終わりか?」


「いってぇ……次やったら出禁にすんぞ!」


「おいおい悪かったよ怒んなよ、傭兵団の連中基準にしてたらシオンが弱過ぎんだよ。今は戦争してるからあれだが、時間が出来たら鍛えてやるよ。お前もハンターとかのになって戦うつもりなんだろ?」


「その時はぜひお願いしますよ、これどこでもここに繋がる鍵ですから持っててください。

 無しくても頭の中で戻ってこいって念じたら手のひらに戻ってくるみたいなんで、紛失の心配は必要ないですけどね」


「戦ってる時に落としたら笑えねえと思ったが、そんな魔法があるんだな。武器に使えたら便利だろうに」


 ふとした時に出る言葉は、やはり傭兵なのだと思わせる。


「じゃ、行くか……また来る」


「と言っても俺がしばらく家を空けるんで、1週間くらいは会えませんよ? まあ、ここに来ることは出来ますが買い物は無理です」


「1週間か、いやそれくらいなら問題ないな。大丈夫だ。世話になったな、シオン」


「いえいえ、そんな大層なことはしてませんよ」


「……いや、お前は俺だけじゃなくて団員にとっても救世主みたいなもんだ。これで命を繋がる。不思議な縁だが、本当に感謝している。ありがとう、ブランカもな」


「……はい、気をつけてくださいね」


「全てはマスターのお力ですので」


「おう! んじゃ!」


 グードバーンは大量の荷物と共に自分の世界に戻っていった。


 俺が命を繋いだ……か、あんな明るい感じだが戦場にいるんだもんな。

 最後の最後に見せたグードバーンの顔は真剣だった。


 命を預かる立場の人間の責任の重さを俺まで背負わされたようで、ズッシリと来るものがあった。


「マスター、かなり良いスキルが手に入りましたよ?」


「おっ、マジでか?」


 そうそう、これが本命だったんだ。あれだけ強いグードバーンから何かスキルがもらえるなら俺も強くなれそうで期待がデカかった。


「どんなスキル?」


「『成長の種』ですね。すぐに強くなるものではないようです。ただ、鍛えれば鍛えるほど強くなり、普通に筋トレしても得られる限界のようなものが実質無い……無限に強くなれるスキルと言っていいでしょう」


「よっしゃああああ! キタキタキタァッ!」


「ただし、消費カロリーがその分増えるので、いっぱい食べる必要があるようですよ、というか食べないと弱体化します」


 ……まあ、それくらいのデメリットは甘んじて受け入れよう。強くなれるのなら頑張って食べまくろう。


 でも、楽して強くなれるわけじゃなくて、それ相応の努力が必要か。


 全然良い。


 努力しても強くなれないと諦めていたんだから、努力が身を結ぶなら構わない。


 今すぐの効果はないが、後からジワジワ効いてくるはずだ。来るべき日に備えてトレーニングを積み重ねよう。


 ああ、明日は修学旅行だトレーニングしたいが早く寝ておかないとな。別に旅行中でも筋トレやランニングは出来るだろうし。


「早速トレーニングしてスキルの効果を確認したいところだが、明日朝早いし俺はそろそろシャワー浴びて寝るわ」


「はい、おやすみなさい……それとマスター、口臭ケアした方が良いですよ。かなり臭いですので」


「だな、ブレスケア系のやつ買っておいたし、寝る前に牛乳とかも飲んでおくよ」

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