第7話 買い出し
朝7時、まだ少し肌寒い季節だが気合を入れて布団から出る。
トレーニングを始めたからか、体力がついたのか、以前より睡眠の質が上がり、起きるのも楽になった。
時々酷い悪夢で起きることはあるが、時間と共に消えると信じたい。
顔を洗い、歯を磨き、ランニングウェアに着替えて家を出る。
日課となりつつあるランニングを行う。
ジョグとダッシュを交互に行い、短距離と長距離両方出来るように心がける。
今日は天気が良いし、走っていれば春の陽気すら感じるくらいだ。家の中は少し寒いが、暖房も使わなくなってきた。
時々、ブランカの投げる石を避けるイメージでダッキングなんかもしてみる。まるでロードワークをするボクサーだな。
「買い出しか……思えば用事があれば父さんが車に乗せて連れて行ってくれたけどそれはもう出来ないもんな。失ってありがたみが分かるって馬鹿だよな」
これからは全部自分でやらなくてはいけない。誕生日の5月で18歳になるから、車の免許を取りに行くべきかと考えながらランニングを続ける。
「キャリーケースに、充電の変換器、盗難防止グッズとかも必要だな」
必要なものをリストアップする。新しい服なんかも用意しておいた方がいいだろう。よれよれのみっともない服を着て旅行なんてしたら天国の両親も悲しむだろうし。
なんだかんだ、有名人の息子だ。流石に落ち着いてきたが時々マスコミが家まで来るからな。
あいつらはいつか潰す。人の不幸を飯のタネにするなんて許さねえぞ。名前と顔は覚えてるからな。力を手に入れたら逃すわけないぞ。
ああ……サングラスも必要かな、日光が違うらしいからな。
ランニングを終えてシャワーを浴びてから朝食にする。
パンとベーコンとサラダ。
「プロテインとか使った方が効率良いかもな、買い物リストに追加だ」
スマホのメモにプロテインと書き込んでおく。
***
「ブランカ、行ってくるぞ。欲しい物あったら言ってくれ」
「メモにしておきましたので確認してください」
「何々……着替え、下着……俺に女性用の下着買えってか?」
「代謝があるので、普通の人間に必要なものは必要です。洗濯は自分でするので買ってください」
「服はともかく下着は通販で勘弁してくれ、俺にはハードルが高い」
「分かりました、それはまた後にしましょう」
下着屋に男一人で入るのは流石にタブーってか、俺よりも他の客が迷惑だろうしな。外に連れ出せたら簡単なんだが。
「ああ、陛下の下着のサイズが分かるなら彼女の今後の為にも購入しておくべきか」
あの人、ノーブラノーパンでそのまま服着てたからな。定期的にこっちに来るなら服はちゃんと用意しておいてあげないとだ。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、お気をつけて」
「ありがとう」
行ってらっしゃいと帰りを心配してくれる相手がいるのはいいな。そろそろ出ないと日が暮れてしまう。
一定ではないが、ダンジョンは時間の進みが早い。
逆ならダンジョンに篭って修行しまくり、なんてことも出来たんだが、中々上手くはいかないもんだ。
俺は用事をしませてさっさと家を出た。
「電車か……ちょっと時間かかるな」
家から近くの大型ショッピングモールに行くつもりだが、荷物を持って帰るにはやや不便な距離だ。やはり免許は必要だな。
教習所に行く金はあるし、通った方が良いだろう。夏休みを利用して行くか。
今後のことも考えて予定を立てる。
***
「キャリーケース……キャリーケース……お、ここか」
旅行、アウトドアのグッズなんかを揃えているフロアでキャリーケースが並ぶエリアにたどり着く。
「3泊5日となると、これくらいのサイズでいいのかな」
大きさもかなり、種類があって迷う。荷物の扱いが海外は雑だと聞いたから出来るだけ頑丈で盗難されにくい鍵のものが良いだろう。
黒くて頑丈そうなものを選んだ。
「後は……お、結構便利そうなものが色々あるな」
海外旅行者向けのグッズが目に留まった。
「ダミー用の財布に、ベルト式の服の下に仕込めるポーチか」
「修学旅行ですか?」
俺に声をかけたのは男性の店員だった。まあ、この時期にキャリーケースなんかを選んでいたら修学旅行の準備をする高校生だと分かるだろう。
「はい、色々あって迷っちゃって」
「海外でしたら、リュックは後ろから切って開けられてしまうこともあるので、こちらの防刃性能のあるものなんかオススメですよ。ハンターの方もダンジョンで使用してることがあるくらいですから」
「へえ」
「万が一となったら防具としても多少は使えますからね、無いよりはマシってレベルですけど」
ダンジョンでも使えるリュックか、確かに道具を持ち歩くにしても手ぶらで行くことは無理だからな。
考えてなかった視点だ。
「じゃあ、これ買います。キャリーケースとポーチも」
「ありがとうございます、カウンターでお待ちしておりますので、他にも気になることがあれば声をかけてください」
「ありがとうございます」
結局、色々と買ってしまった。初めてだし用意し過ぎるってことはないと思うが、若干無駄遣いのような気もする。
ダンジョンで使えるとの売り文句にすっかり流されてしまった。上手い商売してやがるな。
だが、リュックは機能性が高そうだし機能性に振ってダサ過ぎるってこともないから、今後も使えそうだから良しとする。
スリなんかを防ぐ気配察知みたいなスキルがあれば良いのだが、俺は無力な高校生だからな。スペインのプロスリ師からしたらカモにしか見えないだろう。
気をつけなくては。
***
旅行に必要なものは今回でほぼ揃った。何か必要だと思えばまた買いに行けばいいだろう。まだ時間に余裕はある。
「それよりも余裕がないのは俺の手と筋力だ……」
帰りにスーパーで食料品を買い込んだせいで、持てる限界量に達してフラつきながら帰宅した。
「おーい戻ったぞ……なあ、管理人用の家、俺とお前用のやつ、建造出来ないか?」
「可能です、リソースを使用しますが」
「何ポイント?」
「1000ポイントです」
「なら良いだろ。てか、受肉ってめちゃくちゃ高価なのな」
家より人間の身体の方が全然リソース使うのか。1000ポイントならそこまで痛くない。食材の保管や調理、ゲストを招く用の部屋は必要だと思ってたからな。
「そうですね、人体は複雑なので」
「じゃ頼むわ」
一瞬にして、部屋が生まれた。ダンジョンって凄い。
2LDKの部屋がポツンと建ってるのは奇妙だが、ダンジョンコア、ここの心臓部が剥き出しなのもどうかと思っていたので部屋で隠してくれてホッとした。
「早速食い物とか、服はここに入れておくぞ?」
「手伝います」
買い込んだ食料を家の中に入れた。家具一式はデフォルトで用意されているようなので必要ないらしい。
これから住むであろう住人も好みがあるだろうから都度欲しいものを買って快適な生活を送れるように整えるべきだろう。
あ〜ミュリエルの為にテレビとか科学系の知識が書かれた本なんかは買っておいた方が良いのか。
まあ、こういうのが本来の管理人の仕事だよなおそらくは。
「さて、やることも終わったしまた修行すっか。今日こそは一発当ててやる」
「その前に攻撃を全部避けれるようになってください。マスターは結構好戦的な性格ですので、感情のコントロールなんかもした方が良さそうです」
「言うじゃねえか、だが戦う時にビビるよりはマシだろうよ」
「恐怖とは危機を避ける為のものですからね、そのセンサーが壊れているのは致命的かと思いますよ」
「別に恐怖感じないわけじゃないからな?」
「というよりは、真の恐怖を本質的に理解していないだけかと」
「確かに、生ぬるい守られた生活してたからそれを言われたら返す言葉がねえが……御託はいいさっさと石を投げやがれ!」
「では今日は少し本気を出しますか……昨日は軽めでしたので」
「何ッ!?」
「だって怪我しない程度の速度で投げてたでしょう? 今日は当たったら血が出ますよ、ちゃんと避けてくださいね? マスター?」
こ、こいつ……! 受肉してから変な個性が出てきてないかッ!?
ドSのメイドにならないようにちゃんと注意しなくては……!
俺は今日もまた、動けなくなるまで回避の訓練を続けた。
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