第3話 調査


「鍵がかかってるのか……」


【マスターキーを管理人権限で作成しますか?】


「作ってくれ」


 コアのマスターキーの作成を頼むとすぐに目の前に鍵が出て来た。


 一番左端の部屋を開けて入ってみる。


「結構広いぞ……」


 まず、玄関がそれなりにスペースのある空間だった。見た目はかなり普通の現代的なマンション。電気のスイッチもあり、トイレ、風呂、部屋、家電も揃っており機能している。


 マナを電気や水道として変換してるのか? 問題なく生活出来そうだな。


 都心なら結構良い値段のしそうな部屋だった。


「これ、自宅の地下って言う問題大アリの立地じゃなければ家賃収入で安泰なレベルだろ」


 風呂トイレ別で、2LDKの部屋。この世界の住人募集したらすぐに希望者が出そうな良い場所だ。


「コア、家賃って異世界のやつからとっていいのか?」


【それは管理人と住人の間で行われる契約であり、ダンジョンコアには関係がありません。ただし、部屋を借りるには管理人が許可する必要があります。これは家賃などの対価を必要とするものではありません】


「力を所持出来るってのは?」


【それはこのダンジョンのシステムであり、管理人に与えられる恩恵です。部屋を借りた者への損失にはならず、自動的なものです。ただし、契約が終了した時点で力は管理人から失われます】


「あくまで管理人としての間の恩恵か。つまり、力をもらえるのは別に言う必要はなく、俺が別に家賃を請求しようが管理人である俺の勝手な訳だな?」


【はい】


「いや待て、貨幣が違うからもらったところで役に立たないのか……」


 異世界ならば流通している貨幣も日本円とは違うはず。それを渡されても換金に困るか。


【管理人のスキルにより、同等の価値でこの世界に流通するあらゆる貨幣に換金が可能です。また、管理人マナセ・シオン名義の口座に振り込むことも可能です】


「それは税務署に怪しまれないか? 確か脱税したらマルサとかいう組織が家に乗り込んでくるんじゃねーの? それは嫌なんだが」


【結論から申し上げますと怪しまれません。ダンジョンの管理人がこのダンジョン内で得た利益はダンジョンの力により因果律の変動が起こり、第三者による感知が不可能となります。

 ただし、管理人がこの世界、この国における人同士の結んだ契約、つまり法律により定められた納税の義務を怠る場合は保証出来ません】


「じゃあ、俺が得た金はちゃんと申告して税として納めてる限りは怪しまれないってことか」


【その通りです。また他にもダンジョンの管理人に与えられる恩恵はありますが全て説明しますか?】


「今度で良い。あまりいっぺんに詰め込まれると俺も混乱する。というか既に混乱しているからな。当面の問題がないならそれで良い」


 意外とダンジョンの管理人による恩恵が凄い。一番厄介だと思ったのがここを他の者に知られて奪われることだが、普通に使っても大丈夫らしいというのが安心だ。


 正直、信じて良いのか分からないが取り敢えず様子見で分からないこと、疑問に思ったことは都度コアに質問していこう。


 俺が聞かないことには答えてくれない傾向にあることも、しばらく話してみて分かったしな。


 今は地下からモンスターが溢れる恐怖に怯える心配がなくなった。それに満足してひとまず落ち着こう。


 気になることが多いが、後2週間で春休みだが、それまで学校もあることだし、今日のところは一旦切り上げる。


「今日は一旦帰りたいんだが……管理人はここから離れられないとかないよな?」


【管理人は定期的にコアと接続しなければ権限を失いますが、一時的に離れることは可能です】


「で、そのリミットは?」


 数分とか数時間なら考えものだ。閉じ込められてるのと同じだからな。そう考えると迂闊なことしたもんだ。


【管理人の時間から換算すると168時間後、1週間後までに再びダンジョンコアに触れる必要があります】


 なんだ、結構余裕あるじゃないか。これなら普通に生活出来るな。

 ……ちょっと待て、俺が不慮の事故で入院して意識がなかったりしたら管理人権限失われてしまうってことだよなそれ。


「例えば、俺が長期の旅行などの理由でダンジョンに帰ってこれないと、権限は剥奪されるのか? その時ここはどうなる?」


【ダンジョンの管理人はいつでも、ここに転移することが可能です。ただし他のダンジョン内にいる場合は不可能です。

 権限が剥奪された場合、ここは消滅します】


「いつでも戻れるだけマシか。事故なんかには気をつけないとな。ここに転移する前の場所には戻れるのか?」


 そうじゃないと何か用事で家を長期間空けていた時、戻ってはこれても、またその場所に向かわなければならないじゃないか。結構面倒くさいぞそれって。


【可能ですが、マナのリソースを消費します】


「そのマナのリソースを使って出来ることってなんだ?」


【他の管理人不在のダンジョン等は初期設定のままモンスターや、モンスターが所持するアイテムを決定しています。

 このダンジョンでは管理人が存在しているので、管理人の差配でアイテムを生成可能です。

 現在GからEクラスのアイテムを作成可能です。Gが最低ランクでSSSが最高ランクです。

 ランクが低いと使用するマナのリソースも低くなります。

 作成可能なアイテムのリストを表示しますか?】


「へえ、ダンジョンのランクとはまた別の指標か。人間が勝手に決めたもんだから当然だな……う〜ん、長くなりそうだし今度で良い。知りたいことは知れたしな」


 ここを離れても大丈夫なことは分かった。そしていつでも戻れるのは便利な機能だ。


 学校の帰りなんて一瞬で帰宅出来てしまう。俺は学校が嫌いだから、1秒でも早く帰れることに一番感動したかも知れない。


「また来る」


【ご帰還をお待ちしております】


 コアに挨拶をして、地下室に戻った。


 振り返ると穴がある。夢ではないようだ。


「あ? 夜の11時!? 馬鹿な、そんな長い時間居なかったはずだが……って、ダンジョンは現実と時間の流れも空間も歪むって常識じゃないか。

 マジでダンジョンなんだなあ……勉強で得た知識と経験は別か。こんなことで慌てるとは。今日のところはさっさと寝よう。

 明日から調べたらいいや」


 コアに質問すると現実とうちのダンジョンの時間の流れは同一かつ、一定ではない。ダンジョンの方が、ややゆっくり流れるようで168時間のリミットはダンジョンから見た時間とのこと。実際はもう少し余裕があるようだ。

 しかし、ダンジョンに篭り過ぎると現実が恐ろしい速度で進んでいくから注意しなければ。


 ***


 翌日、教室に入ると八島と世良は居なかった。本当に停学になったらしい。ざまあ見ろ。


 放課後、担任の鷹村先生に呼ばれて指導室に来た。別に怒ったりしないから安心しろと言われた。


 多分、昨日の顛末の報告と確認だろう。


「流石に現行犯で胸ぐら掴んで、殴ってるの見たからな。放置はしない……が、あいつらを挑発するのはやめとけ。俺が見てないところで何されるか分からんぞ。その時は止められないからな」


「そりゃ親の遺産寄越せって言われたら怒るでしょうに」


「それも周囲からの聞き取りで分かってるから停学にしたんだ。だが、家に火つけるって脅しは流石にやり過ぎだな。脅迫罪になりかねんから気をつけろ」


「分かりました。絡まれない限りは俺からは何もしません」


「おい、絡まれたらまた言うってことだろそれ。あいつらはお前を簡単に殺せるだけの力があるから、揉めるのは本当にやめた方が良い。殺すつもりがなくて弾みで取り返しのつかない怪我を負う可能性だってあるんだぞ?」


「気をつけますよ。いつまで停学なんですか?」


「取り敢えずは春休み明け、新学期までだ」


「ってことは、来月末の修学旅行も無し?」


「ああ、暴力沙汰起こした生徒を修学旅行には連れて行けんからな。ましてやご両親を亡くした曲直瀬にたかるような真似など許されるはずもない。正直退学にさせたいくらいだが……」


「推薦組のエリートだから、ですか?」


「俺の口からはそこまでは言えんが、最終的な決定権が理事長が握ってるからな。守ってやれなくて済まないと思っている」


「先生は先生のやれる範囲で動いてくれたんだから別に文句はありませんよ。まあ、理事長に関しては思うところはありますが……」


「頼むからあいつらを退学にしないなら理事長の家に火つけるとか脅したりするなよ?」


「はは、まさか。そこまで無茶苦茶言いませんよ」


「……分かってくれたら、それで良いが。ともかく、しばらくは安心して学校生活を送れるはずだ」


「ありがとうございます。では失礼します」


 鷹村先生、あなただって雇われてる身で生徒より権限があるからって何でも出来ないってことは分かってますよ。


 だから、あなたに対しては怒ったりはしない。それぞれ出来ることが違うのは当然だから。


 過度にあなたに期待や信頼はしませんよ。精々担任の出来る範囲のことしかね。


 両親の財産を奪った連中と同じで、立場でコロッと行動が変わる人間の薄汚さは思い知った。今更何とかしてくださいって泣きついたりはしない。


 自分の身は自分で守るしかない。もう俺を守ってくれる存在はいない。

 強くならなくては……もっとダンジョンやコア、管理人の力を知る必要がある。


 トイレの個室に入り、そのままダンジョンに転移して帰宅した。


 ***


 改めてダンジョンやハンターについて調べたいと思い、自室に向かい、パソコンを立ち上げた。


 力もないくせに憧れたくないという心理から、ハンターに関する情報は避けていたせいで学校の教科書、常識レベルでしか知識がなかった。


 最近の動向などはあまり知らない。


「ランカー……か。日本ランク、世界ランクがあって父さんと母さんは2位と3位……いや、改めて考えたらかなり凄いな。それでも世界ランクになると100位内には入れないって競争が激しいんだな」


 大抵のハンターはもっと大所帯のパーティとかクランで活動する。18歳になるとダンジョンに入ることが出来るから高校卒業後の進路として、そういったパーティなんかに就職するハンターが多い。


 うちの親は2人で活動出来るってこと自体がそもそも、相当に強いことの証明だ。


 八島や世良も大手のクラン狙いだったからこそ、停学は痛いと知ってて挑発してやった。


 ある程度強くて経験を積めば独立するって方法もあるみたいだけど、最初から1人で活動はハードルが高いし、リスクも高い。よっぽど事情がない限りは仲間が必要だ。


 俺のスキルは知られたくないから活動するとしてもフリーランスのハンターってことになるんだろうが、厳しいかもな。


「って……まだ住んでるやつが1人も居ない現状じゃあ取らぬ狸の皮算用もいいところだな。

 見落としてることがないか、今一度基本的なところから確認していこう」


 そうして、定期的にダンジョンに足を運んではコアに質問をして、異世界人が居ないかを確認しているうちに2週間が過ぎて、春休みになった。

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