第23話 最強賢者、非力だとバレてしまう
治癒院で地図を書いた翌日。
俺はテストの時と同じパーティーで、迷宮へとやってきていた。
これだけ強いパーティーなのだから、もちろん今日も最深攻略階層の更新――と言いたいところだが、どうやら今日は違ったようだ。
それどころか、80層台ですらない。
73層。
それが今、俺達がいる場所だ。
こんな階層の魔物なら、俺が魔法を使わずに殴るだけで倒せてしまう。
だが、ラケルは攻撃魔法を使った。
「エクスプロード」
ラケルの魔法の先には、何の魔物もいない。
そこにあるのは、ただの壁だ。
「おお、壊れた」
ラケルの下級攻撃魔法で、壁はあっさりと崩れた。
大きな岩が、ごろごろと転がっていく。
迷宮の壁は基本的に、人間に壊せるようなものではないのだが……ごく一部、こういった柔らかい壁がある。
そして迷宮の壁は大量の希少金属を含んでいて、冒険者パーティーにとって重要な収入源なのだ。
「おお、軽く感じる!」
「持ったまま走れるね」
カリーネとルイーネが、大きな岩を軽々と担ぐ。
岩の大きさを見る限り、1個数トンはあるはずなのだが……このまま持って帰るつもりのようだ。
さすが『栄光の導き手』の主力部隊、それも戦士系ともなると、やはり腕力が違うな。
「……一周回って、狭い道で引っかからないか心配になるな」
そして、さらにパワーがあるのが、タンクのガドランだった。
盾系の職業は戦士系に比べて、素早さや攻撃力には欠ける代わりに、筋力には優れている。
それにしても、人間に持てる大きさの岩には見えないのだが……。
などと考える俺の視界に入ってきたのは、目を疑う光景だった。
ラケルとルビーが、岩を持っているのだ。
カリーネやルイーネに比べればだいぶ小さいが……それでも1トンはありそうな大きさの岩だ。
二人はそれなりにレベルは高いと言っても、非力な魔法系のはずだが……。
「何で持てるんだ……?」
「なんか、持てた」
「『マジック・オーラ』のお陰だと思うよ」
俺の言葉に、ラケルとルビーがそう答える。
……そんな訳はないだろう。
『マジック・オーラ』なんかで魔法使いが1トンの岩を持てるようになるなら、とっくに補助職最強の座は付与術師ではなく賢者のものになっているはずだ。
となると……もしやこの岩、見た目の割に軽いのではないだろうか。
そう考えて俺は、二人が持っている岩に比べて5分の1ほどの岩に手をかけた。
普通の岩なら200キロ……持ち上げるのは厳しい重さだが、もし岩の中身がスカスカだったりすれば、何とかなるはずだ。
「う、うおおおぉぉぉ……!」
だが……岩は、ピクリとも動かなかった。
他のメンバー達を見ていると軽そうに見えるのだが、やはり岩は岩のようだ。
大きさからすると重さは数トンあるのだろうから、当然といえば当然だが。
やはり、魂の
今の俺は、あのスキルを使って筋力を削っている。
あれさえやめれば、レベル分くらいの筋力は出せるはずだ。
「……強化魔法を切って、荷物を運んだほうがいいか?」
「いや、絶対にやめてくれ」
「こんな岩を背負っている途中で急に魔法を切られたら、潰れて全滅するぞ」
残念ながら止められてしまった。
こんな強化魔法は切っても大差ないと思うのだが、命令に違反するわけにもいかない。
重いものを背負っている途中だと、少しでも筋力が変わるのは危ないしな。
たとえ筋力不足には陥らないとしても、バランスを崩す可能性がある。
「ぐっ……!」
ソウル・リコンストラクトを切れない俺は、10キロほどの岩をなんとか持ち上げて、両手で抱えた。
だが、この状態で歩けと言われると……残念ながら、厳しいと言わざるを得ないだろう。
「……アレス、いつもそんな力なのか……?」
「ああ。魔法出力を稼ぐために、『魂の
そういえば、このパーティーに入ってから、今の状態での筋力を見せる機会はなかったな。
俺に筋力なんかあっても仕方がないので、普段はこのくらいまで削っているのだが……こういった力仕事があると、足を引っ張ってしまうのだ。
まあ、力仕事がなくても足は引っ張るのだが。
「92層の時も?」
「92層の時にはもっと削ってたぞ。少しでも魔法出力が欲しかった」
「それは、もはや動けないんじゃないか……?」
「武器も防具も持つのをやめて軽量化したんだ。市場に売ってた麻の服が軽かった」
俺は普段、気休め程度だと分かってはいるが、弱点などを守るための防具を身に着けている。
服の心臓にあたる部分だけ鉄板を埋め込んだり、少しくらい重くても革製の防具を身に着けたりとかだ。
だが90層台の場合、それらを全て諦め、一撃食らったら即死という覚悟で挑んだ。
強化魔法というよりは、回復魔法の出力を稼ぎたかったからだ。
仲間たちが次から次に怪我をするので、それを支えるので精一杯だった。
「……いや、92層でそれは死ぬだろう……」
「攻撃が当たれば死ぬが、当たらなければいいんだ。頑張って避ければいい」
「『ソウル・リコンストラクト』は防御力も削れるって聞くが……当然そっちは残してるんだよな?」
「いや、防御力は最初に削る項目だぞ。どうせ急所に当たれば死ぬんだ」
俺の言葉を聞いて、カリーネとラケルが顔を見合わせた。
「エコーが賢者の育成を諦めた理由が、これ以上ないくらい納得できたよ」
「賢者を雇う案が却下された理由もな」
どうやら彼らにも、賢者という職業のひどさが理解できたようだ。
もし俺が他の職業だったら、この84レベルのステータスで、パーティーの役に立てたのだろうな。
残念ながら、この職業のせいでお荷物だ。
「アレス、岩は下ろして、強化魔法に専念してくれ。これは私達だけで運ぶ」
「申し訳ない……」
「いや、気にしないでくれ。アレスの強化魔法のおかげで、私達は5人で15人分の岩を運べるんだ。実質10人分の働きだぞ」
無理のあるフォローが、逆に物悲しい。
最初から分かっていたことではあるが……これは間違いなく、1ヶ月でクビだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます