第25話 プレゼント

水道管が凍った。

北側に面したキッチンは一年中、日は差さない。

最近は暖冬傾向だったので油断した。

数年前は水道管にタオルを巻いて対策していたが、すっかり忘れていた。

ポットの湯をかけて溶かすと、チョロチョロと水が出た。

「超ー冷てぇー顔が凍る、顔がいてぇー」と大騒ぎである。


12月20日の43歳の誕生日が近づいていた。

トーストを頬張りながら、カイが言った。

「誕生日のプレゼント、何か欲しいものある?バイト頑張ったから遠慮しないで言って」

「何でもいいよ、でも指輪とかやめてね、そういう重いのダメだから」

「なんでだよ」

「なんか、この年になると考えるだけで面倒なの、あんま先のこと考えたくないと言うか、いろんなもの背負しょいたくないし」

「どうしたの、だれかに何か言われた?」

「ううん、ずっと思ってたこと。本心だよ、なんか約束事って自分にも相手にも重荷になるじゃない。あれもこれも考えると疲れちゃうの」

「俺だって、いっぱい考えたよ。ずっと目を逸らさずに、ゆりっちだけを見て来て、この人なんだって、この人じゃなければって決めたんだよ」

「あのね、いま一緒にいるだけで充分幸せなんだ。結婚や家庭というものに実感ないし、もしプロポーズしてくれても受けない。これからお医者さまになって、暖かい家庭を築いて子供も作って、カイには輝かしい未来が待ってるじゃん。その隣に私がいるなんて想像もできないよ。もし他に好きな人が出来たら正直に言ってね。私、カイの幸せなら絶対祝福できるから」

「そんなこと、なんで笑って言えるんだよ、バカだろ、、、」

お湯が沸いたのを知らせるヤカンのピーという音に席を立ったので、ヘンな泣き笑いの顔を見られずに済んだ。

「ほんとだよ・・・」

それは声にならないくらいの呟き。

本棚の奥に隠してあった、指輪の箱を見つけてしまった。

なんか現実を思いっきり見せつけられた気がして怖かった。

彼の本気を受け取れない。それはね、君を本当に愛してしまったから。

君の隣に相応しいのは、私じゃないんだよ。


「わかった」

カイはその一言で、その場をお開きにしてみせた。

答えはどっちなんだ。

いろんなものを天秤にかけ、どっちに傾いても、ぼんやりとした風景しか思い浮かばない。

果たしてカイの思い描く未来に私はいるのだろうか。

何がわかったのか、わからない私に<レベル30>


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