第21話 痴女

「ねぇ、痴女ってどういうの」

その質問、難解です。

「きのう電車であそこ触られて、発車のベルに合わせて発射しそうになった」

まさか笑うと思ってるの。

その話、爽快な朝の食卓に相応しくないです。不快です。

なぜ、抵抗しない、なぜ反応してるんだ。

「触るだけでいいのかなぁ?顔を見て楽しんでるのかな」

「やめなさい」

まるで子供を叱るように声を荒げてしまった。

たぶん嫉妬。痴女に嫉妬する束縛陰険女ソクバクインケンオンナ

「いつもの電車、ずらすわ」

そう言ってカイは席を立った。

あなたを虎視眈々と狙ってる女豹はいくらでもいる。

狼と女豹だったら、女豹の勝ちだよね。心配・・・


会社に行ってからも、そのことが頭から離れなかった。

触られて満更でもないのか、その女は美人なのか、、、

一日中、仕事が手につかず失敗ばかりして落ち込んだ。

家に帰ってからもモヤモヤは続いていた。

夕飯を済ませ、珍しく見たいテレビ番組が一致してソファーでM-1を見ていた。


「今度はなに?」

「へっ?」

「四六時中、俺のこと考えてるのはいいんだけど、いま大事なこと言ったから」

「・・・・」

「聞いてなかったでしょ、まっ、いいや、先にそっちの聞くから」

「何もないよ」

「何もなくて、そんな顔しないでしょ、めんどいから早く言って」

「はぁ~、めんどくさいなら、聞かなきゃいいでしょ」

「それがめんどいの、気分下がるから」

「いいよ、もういい、、、」

「今朝の話でしょ。気になってるんでしょ。怒らないで聞いてよ、痴女の話」

続きがあるとは予想もしなかった。

「捕まってた。被害者は俺だけじゃなかった。男の痴漢はすぐ突き出されるのに、女は許されるのかって、ちょっと疑問だったけど。この人、痴女ですなんて言う勇気はなかった」

「だよね」

「あいつ、何なんだろうね、被害者面したあの男、女晒して勝ち誇った顔して・・・殴りたい」

君は誰にでも優しい。その優しさに何人の女が絆されて来たんだろう。

でも、今は私だけを見ていて欲しい。

「殴っちゃダメでしょ・・・」

サラサラの髪をかき分け、手を頬に添わせ唇に触れてみる。

エビフライのカスが付いてるよ。しょっぱくてジャリジャリで柔らかい唇。

重ねて感触を確かめる。

唾液が混ざり合い、静かにのどぼとけが上下に動いて、唾をのみ込む音。

君の何もかもを私の身体に刻んで欲しい。

甘美な果肉でも、鋭利なナイフでも、私は喜んで享受する。

すでに発車オーライです <レベル90>


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