第20話 幼馴染
ドン、ドン、ドン、「宮下さん、書留です」
なにもそんなにドアを叩かなくてもと思ったが、後付けのインターホンの電池が切れてたことを思い出した。
鳴らしても反応がないので、叩いたのだ。
再配達が面倒なのは理解できる。
「ありがとうございます」
受け取った、書留の差出人は
中には額面300万の振り出し小切手が入っていた。
振出人の名義は坂出晃と明記されている。
ちょっと混乱???裏、表と確認したが、どうやら本物のようだ。
そこへ電話が鳴った。
「電話番号、変わってなかったのな、良かったよ。金返しに行って持って帰って来ちゃったから、書留で送っといた。倍返しだ、先払いのご祝儀として受け取っておけ。まっ、お幸せになんて言わねえよ。おまえを幸せに出来るのは俺だけだからな。それと、金に困ったら裏のドブ川を
早口でまくし立てると一方的に電話を切った。
相変わらずの自信家で高慢ちき。
コイツにはいつも振り回されてきた。
親の敷いたレールの上を疑問も持たずに歩いてきた私は、破天荒で我が道を行くコウに憧れた。
この人について行けば、違う世界を見せてくれる気がした。
コウとは家が近所で、幼稚園、小中学校と高校も一緒だった。
親同士も親しくしていたので、子供が仲良くなるのは必然だった。
彼の最初の躓きは大学受験に失敗したことだ。
2浪して3流の大学に入った。
「大卒の肩書があればいいんだろ。どこ行っても一緒さ」
たぶん、そこから転落の人生が始まったのだ。
大学は4年で卒業したが、運悪く就職氷河期にぶつかり正社員での就職を断念。
近くの工場でパートとして働いていたが、工場長と折り合いが悪く、派手な喧嘩をしてクビになった。
コンビニ、本屋、ラーメン屋と職を変えたが長くは続かなかった。
そんな時、気まぐれで入ったパチンコ屋で大当たりした。
「おれ、たぶん素質があるんだよ」
「なんの素質?」
「パチプロ、プロのパチ士になる」確証もないままに、そう宣言した。
宣言しただけではなく、しばらくはプロとしての仕事もこなしていたらしい。
戦利品を持って来ては自慢していた。
それが、ある時からぱったりと見かけなくなった。
ちょうど、いまのアパートに越してきた頃だった。
私も仕事が忙しく、気に掛ける余裕もなかった。
3か月ほど、音沙汰がなかったが、青白くやつれたコウがふらりと訪ねてきた。
「ヤバイ、東京湾に沈められちゃうよ。おれ泳げないし」
うーーん、沈められる時点で泳ぐ必要がないのでは、と思ったが口には出せなかった。
いつになく、深刻な顔で口数も少ない。堰を切ったように、一気に捲くし立てた。
「俺、一人でやってたんだけど、同じパチプロでも5~6人でグループ作って店を回る組織があるんだ。入らないかって誘われて、最近リーダー格になったもんだから調子に乗って、集金とか下の奴らに任せておいたらトンずらされた。明日までに150万用意しないとヤラレちゃうよ」
その日のうちに銀行で定期預金を解約して足りない分は普通預金で補った。
それまでの定期の利息分と預金で、手元にのこったのは4万少々だった。
来月の給料日まで節約すれば、なんとかなると思った。
まさかとは思うが、「けさ、東京湾に・・・」のニュースを見るのも後味が悪い。
でも、その軍資金でコウの人生を軌道修正出来たのなら、友達冥利に尽きます、グッジョブ!
詐欺師から幼馴染に昇格のアイツに<レベル75>
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