第14話 カラス
誰もいないはずのベランダからカサコソと音がする。
出し忘れたゴミの袋に顔を突っ込んで、一心不乱に中の物を取り出している。
然したる収穫はなさそうだが、夢中なのか私の存在には気が付いていない。
ふと身を隠していたカーテンが揺れた。
小さな茶色い塊を咥えて振り向いたヤツと、確かに目が合った。
ほんの数秒、いや一瞬だったか。
ヤツは何事もなかったように、前を向き直した。
そして、いくつか吟味した物を咥えて飛び去った。
警戒心の強いカラスにしたら、随分と肝が据わっている。
すぐに枯らしてしまうからと断ったのに、大家さんから無理やり押し付けられた南天の鉢植え。
『難を転ずる』って、縁起がいいのよ、と言っていた。
その日、ベランダの日当たりの良い場所に置いて出社した。
帰宅して水をあげようとしたら、赤い実が一つ残らずなくなっていた。
枯らしてしまった花鉢を、そのまま放置していて片付けようとしたら、なぜか土の中から竹輪が出てきた。
みんな、おまえの仕業だったんだね。
アパートの前に桜並木がある。
花を落とすと濃い緑の葉を茂らす。
カラスはその込み入った枝に巣を作っていた。
子育ての時期は気が立っているのか、下を通る人を威嚇していた。
しばらくすると、街路樹に巣を作るという理由で枝が落とされた。
寝床を撤去され、長い間幼鳥が甲高い声で鳴いていた。
巣立ちは出来たのだろうか。たぶん、親鳥は警戒して遠巻きに見ているだけだろう。
『♪カラスなぜ鳴くの~』じゃないんだよ。
鳴くには、ちゃんと理由があるんだよ。
時々、思い出したように植木鉢の中に残飯を入れておく。
ヤツの好みは知らないので、蒲鉾とか唐揚げとかが多い。
しばらくすると、中の”ごちそう”がなくなっていることがある。
ヤツと私の秘密の私書箱だ。
言葉の通じない者どうしの内通って、ちょっとドキドキして面白い。
記憶力のいいカラスに<レベル92>
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