第13話 おめでとう

会社の昼休みは1時間なので、人気の店だと並ぶだけで時間を取られてしまう。

最近は主にキッチンカーを利用することが多い。

日替わりメニューで飽きないし、休み時間を浪費しないで済む。

だが、今日はOPEN記念ということで、チラシを配っていた同じビルの定食屋に入った。

1人なのでカウンター席が空き、早めに天ぷら定食を食べることが出来た。

事務所に戻り、ランチについていた10%引きのクーポンを机の引き出しに入れようとして、忘れていたことに気が付いた。

昼休みの前に係長から書類を渡すのを頼まれていた。

慌てて、書類を抱え課長の元へ向かう。

ところが、あろうことに昼休みにコンビニで買った週刊誌を渡してしまった。

「この雑誌、頼んだっけ?」

そう言われて、うっかり笑ってしまった。

「へぇ~宮下さんって、そういう風に笑うんだ」


同期の岡部聡。部署は違うが肩書は課長なので上司である。

入社当時は同じ部署だったので、優秀な彼のサポートに何度も助けられた。

「ごめんなさい、間違って持ってきちゃったので取ってきます」

岡部の気まずそうな顔が、ちょっと懐かしくて昔に戻った感覚に襲われた。

いつも、この困ったような曖昧な笑顔に救われた。

私の失敗を自分のことのように上司に報告し、庇ってくれた。

たぶん、仕事として割り切って、不出来の同僚をサポートしていたと思う。

でも、この笑顔がなかったら仕事を続けていたかどうか自信がない。

「きっと会議の議事録だと思う。急がないから後でもいいよ」

「でも、わすれちゃうと困るので取ってきます」

「相変わらず頑固だね。あっ、ごめんごめん、生真面目っていうか、昔から全然変わってないね、でもそういうところ嫌いじゃないな」

「嬉しいです。なんか認められたみたいで、課長にはいろいろ助けて頂きましたし、今となってはいい思い出です」

素直にそう思った。

「最近、元気そうだね。遠くからだけど見ていて、頑張ってるなって安心した」

心の広い気遣いが嬉しかった。

聡明で理知的で、彼を伴侶にすれば幸せが約束されているようなものだ。

同期の中でも、大半の女子は憧れていたと思う。

バディを組む私に、あからさまな嫌がらせをしてきた者もいる。

でも浮いた噂がほとんど立たなかった。

やっかみで男色なんだと言われた時期もあった。

「ありがとうございます、そしておめでとうございます」

噂で結婚するって聞きました。お相手の方も偶にお会いします。

とても美人でお似合いです。

岡部さん、20年間の思いの丈を込めた”ありがとう”です。

受け取ってくださいね。

「ああ、ありがとう」私も嫌いじゃないです、その笑顔。

幸せ偏差値<レベル97>

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