第9話 台風一過
台風一過。
屋根どころか部屋ごと吹き飛ぶかと心配したほどの、
勢力の大きい台風が過ぎ去った。
音がするたびに、何が起こったのか確かめたかったが、
疲れ果てて眠ってしまった。
目覚めると、外の様子が気になりベランダに出てみる。
事前に片隅に寄せておいた植木は無事だった。
色んなものが飛んできて、ベランダの端にかたまっていた。
ふと気配がして振り返ると、ぽっかりと開いた空間。
隣室とを隔てる仕切り板が外れている。
「なんか、すごい音したけど、これだったんだ」
隣人は倒れて床にへばりついている仕切り板を持ち上げていた。
すごい轟音は、一晩中鳴りやむことはなかった。
このくらいの被害で済んだのが奇跡だ。
階下の駐輪場の屋根は見事になくなっていた。
元々、穴だらけで屋根があっても、野ざらしと変わらなかったけど。
異次元の世界に誘う案内人のように、微笑みながら隣人が言った。
「僕的にはOKなんだけど、宮下さん的にはダメですよね」
あぁ~なんて甘美な誘惑。
そちらはワンダーランド、市井の人間が住む世界ではありません。
結界が必要です。
「大家さんに言って直してもらいましょう」
現実に戻って、最善策を提案。
「これって何かあったときに、バァーンって蹴破って隣に行くヤツですよね。この枠にハメ込めばいいんじゃない」
金属の枠は残っている。はめ込むだけなら簡単にできそうだ。
「修復が可能ならそれも最善です」
冷静に答えてみたが、隣人がバァーンって壁を蹴破る姿を想像して胸が高鳴った。
またもや、妄想、妄想、大暴走。
彼が隣に引っ越してきてから、この手の妄想が止まらない。
現実に目の前にいる彼は、決して手の届かない高嶺の花だ。
でも夢想の中でなら脚本は私次第で変えられる。
少し、手を貸したが難なく壁は修復された。
「応急処置だけど、これで良いじゃん」隣人は満足そうに笑っている。
立ちはだかる壁。何かって言ってたけど、何もないし何も起こらないし。
これまでも、これからも。
器用な隣人に<レベル75>
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