第8話 手作りカレー
決算時期の月末ほど忙しいことはない。
普段、残業はしないが9月は例外である。
これで何日目だろう、コンビニ弁当にも飽きた。
そうかといって、この時間に帰宅して夕飯を作る気力はない。
帰って風呂入って寝るだけ、くたびれたサラリーマンの親父状態。
アパートの階段を上ると隣人に来客。
たぶん、引っ越しの手伝いをしていた女だ。
「帰れよ」
「せっかく来たのに、なによ!」
痴話喧嘩かよ、勘弁しておくれ。私はとても疲れているのだよ。
そこのけそこのけ、お馬が通る。
軽く会釈したら、隣人が女の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。
「ちょっと、邪魔」
その手を振り払って女が叫んだ。
「カイのバカ!」
私に気を使ったのが気に入らないのか、女は腹を立てて帰ってしまった。
「追いかけないでいいの」
余計なお節介だと思いながら訊いた。
ドラマだと、ここは追いかけるでしょ。
後ろからハグして仲直り、一件落着。
「カレー好きですか?」
「へっ?」
突然の脈絡のない意味不明の質問。返答に困る。
「カレーを作ったので、いっぱい作っちゃったので一緒に食べませんか」
とても有難いお申し出だけど、理解不能、バグってます。
「この間の、パイのお礼です」
「ああ、だったら頂いて自分の部屋で食べます」
「ダメです、僕の部屋で食べてください」
なに?なにがどうなったら、そんな断定的な物言いができるの。どうしたの。
部屋に入ったら、いきなりバズーカ砲が発射されるドッキリですか。
部屋をお化け屋敷に改造したので、見てください的なもの?
???わかんないよ。
「最近、帰りが遅くて大変そうだなぁって、うちで食べれば洗い物しないでいいし」
そうですよね、生活の一部始終は手に取るようにわかるのですから。
でも親切の押し売りです。私には必要ありません。
「僕の部屋がイヤだったら、カレーを持って押しかけるっていうのはどうですか、洗い物は持って帰るし」
いやいや、それも押し売りの常套手段です。
私はとても疲れているのです。解放してください。
結局、私の希望は聞き入られず、彼の部屋で手作りのカレーを頂いた。
全ての具が異常に大きい以外は合格点。
強引だけど、腹の足しにはなったので<レベル78>
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