第4話 冤罪

満員電車。

見ず知らずの人と肩を寄せ合い、し合い無表情で時をやり過ごす。

こうやって変化のない日常が、また始まる。

会社に不満はない。女で勤続20年は表彰ものだ。

そこそこの給料で仕事も難なくこなす要領も覚えた。

だが、このシチュエーションには慣れない。

身動きも出来ない状況で20分は長い。

目的の駅まで、あと5分くらいと時計を見て確認した。

その時、背後に違和感。

痴漢か、いや待て早まるな、冷静に判断しろ。

以前に痴漢の誤認を見たことがある。

好奇の目に晒され、犯人とされた男は潔白を証明する前に、すでに社会から抹殺されていた。

見ていたとはいえ、男の無実を証明する勇気など私にはない。

やはり背後から尾骨あたりにゴリゴリと硬い物が当たった。

電車が揺れるせいか、恣意的に動かしているのか、

その突起物は私の尾骨を執拗に擦っている。勇気を振り絞れ。

「痴漢」

その声で一瞬、私の周りに僅かな空間ができる。

背後を振り向くと、傘を持って呆然と立ち尽くす中年の男。

傘、傘の、、、ゴリゴリの硬い傘の柄。

「じゃないです」

小さな声で否定して、私に注がれた視線を跳ね返す。

謝りもせず、ひたすら3分くらいの地獄に耐えた。

あれから、8:12の電車には乗れない。

30分ほど早く家を出て、会社近くのスタバでコーヒーを飲んで出社する。

余計な散財だが、これは冤罪に言葉もなく立ち尽くした男に対する贖罪だと思ってる。

あの時はごめんなさい。

自分に最低の<レベル25>


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