第3話 壁をドン

朝から、容赦ない太陽が照りつけている。

カーテン越しに、強い日差しが顔を射す。

春夏秋冬、暑い夏も寒い冬も嫌い。花粉の飛ぶ春は最も嫌い。

選ぶとしたら秋なのに、なぜか季節の中では期間が短い。

下手をすると、知らないうちに終わっていたりする。


「おはようございます、昨夜はすいませんでした」

玄関のドアを開けた途端に、隣人に謝まわれた。

「えっ、なんですか」

きのうの壁ドン(使い方間違ってます)のことを言ってるのは推測できたが、

冷静に惚けてみせる。他に手はない。

「ぼく、寝る前に腕立て伏せ50回を日課にしてるんで、ちょっと勘違いさせちゃったかなと思って。壁叩かれるまで気づかなかった」

勘違いって、Hな想像してたって思ってるよね。

実際、御名答なんですが、本人を目の前にして言うか。

<レベル50>に引き下げ


「ああ、あれね、最初はビックリしたけど、先日ベットを移動したので気になりませんでした。洗濯物が乾かなくてドライヤーを使ったので、それが壁にドンって当たったかも」

「それにしても壁の役目果たしてないですよね。あんなに聞こえるものなんだ」

いやいや、大人の対応したつもりが、暗にドライヤーの音なんか聞こえなかったって言ってるよね。

もういい、隣りの優しいお姉さん終了。

「ここ気に入った、引っ越しも面倒だし、ここでいいや」

どういう基準で気に入ったのか、甚だ疑問ではあるが、隣りの優しいお姉さん復活。

「遅刻するので、失礼します」

まだ時間には余裕があったが、早くその場から離れたかった。

「あっ、行ってらっしゃい~」

良かった、あまり深く詮索するタイプじゃなくて。

行ってらっしゃいなんて言われたの何年ぶりだろう。

しかも、あの顔面に言われて至福の境地。

何気ない一言が、こんなにも人を高揚させるなんて

アイツはわかってないんだよな。

それって誰にも真似のできない生まれ持った才能なんだよ。

大事にしなきゃバチがあたるよ。

<レベル70>ありがたやイケメン隣人に感謝

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