ご褒美

時無ロロ

ご褒美

 なんだか疲れている。目眩がする訳ではないけれど、ずっと気分はゆらゆらしている。


 社会人になってから、人生のときめきが薄れた気がする。定期的に休みがあるし、特別嫌な業務は無い。人間関係はとても良くはないが悪くもない。今の社会の中ではホワイトな方だと思う。

 ただ日々仕事をして、帰宅後は家事を済ませたら就寝時間、休日はどことなく気怠くだらだらと過ごしておしまい。その繰り返しはら学生時代の眩しい思い出との落差が激しくて、やるせない気持ちになるのだ。


 今日は帰宅前に百円ショップに立ち寄る。職場で使う備品の買い足しだ。退勤後も会社のために動くのは不本意だが、上司からの指示だから仕方ない。


 ボールペン、付箋、インデックスシール……。スマホに写した買い物メモと照らし、目的の品をカゴに入れていく。その時、不意に、メモにはない商品が目に入った。それはスマイルマークやハートの柄のシール。縦に長い透明なシートに、所狭しと並んでいる。

 気分がゆらゆらしていた私は、そのシールもカゴに入れた。もちろん、会計は別だ。


 帰宅してから、つい買ってしまったシールをぼんやりと眺める。すると、小学生の頃の担任を思い出した。プリントを提出すると採点と一緒に、「よくできました」や「がんばったね」のスタンプを押して返してくれていた。いつもはスタンプだが、たまにシールを貼ってくれていたのだ。

 私はそれが妙に嬉しくてそわそわしたものだった。


 スマイルマークのシールを一枚、シートから剥がした。呼ぶ友人も居ないからと、部屋の雰囲気なぞお構いなしに掛けた会社の名入カレンダー気目をやる。

「今日もよく頑張りました」

 声に出しながら、今日の日付の位置にニコニコと笑うシールをペタリと貼ってみた。

 少しだけ心がぬるく温まった気がした。漠然とだけれど、明日も頑張れると思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ご褒美 時無ロロ @tokimuroro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ