第2話 九条基子

 九条 基子。兼人の姉。35歳。兼人とは歳が離れている事もあり、弟というより母親のような目で見てしまう。今日も、先日の進路相談から、大して間を空けずに相談に来た。論文の提出時期や学生の採点など、机の上同様に頭の中もゴチャゴチャしている時の突然の訪問に多少のイラつきもありながら、ついつい許してしまう。


 私は、天才だなんだと言われて、持て囃されていた時期もあるが、学生時代には同じように成績の良い子は他にもいたし、特別、自分の頭がいいと思ったことはない。おそらく、将来の道を定めるには割と早い中学生の時分から自分の興味がある分野を絞って勉強し、特殊な分野の専門知識があったり、論文を書いたりしていたから、周りからは変わり者に見えたのだろう。しかし、今思えば、もうちょっとこっそり勉強して、ちょっと勉強ができる可愛げのある女の子を装っていればよかったかな?と思う時もある。


 ウチは裕福な家庭ではあったけど、母親だけの片親で、母は仕事で忙しかった事もあり、私が兼人の母親のような気持ちでいたから、同い年の男の子たちにあまり興味も持てなかったし、アプローチして来る子もいなかったから、いつの間にか青春時代といわれる時代が終わっていた。


 さらには、急に思い出したが、兼人が小学校の時に妖怪の本を持って来て、「お姉ちゃんは、これに似てる時があるね!」って唐突に言われたことがあった。その妖怪は「九尾の狐」だった。その時は九尾の狐は美女に化けていたりするから、悪い気はしていなかったような気がするが、もしかしたら、本当は怖いという印象を周りに与えていた可能性があったのでは?と思う。男性に縁がない人生なのはそのせいなのかもしれない・・・?


 妖怪といえば、この前、本物の妖怪みたいな先生から名刺をもらった事を思い出した。なんとなくだが、その先生は人ではない何かのような雰囲気を醸し出していた。


「あ!それなら、いいところがあるよ!場所は横浜で、知り合いに会うような事は無いところがある!ちょっと待ってて、名刺があったような気がする。」


 ゴチャゴチャと本や書類が積まれている机の上や中をゴソゴソと名刺を探した。


「あった! なるべく早くここに行ってみて。連絡もしておいてあげる。」


「水亀カウンセリングルーム?」


「みずがめではなくて、みなかめって読むみたいだよ。私も以前に行こうと思ったのだけど、近くまで行って道に迷ってしまって辿り着けなかったんだ。兼人は頑張って辿り着いてね」


 さあ、水亀先生が何者か、確かめて来てちょうだい。私の勘だとあの先生は普通の人ではない。兼人、あんたもたまに人ではない雰囲気がある時があるけどね・・・。

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