第4話 入学式①

 真央学校。かつてあった真央国、現ナバナ国真央県で新たに建てられた学校である。真央学校はフローツ連合の優秀な学生はもちろん、アニモル連合側の学生も積極的に受け入れ、これから大きな戦争が起こらなくなるように、クレイニアム大陸の平和の象徴としての働きを期待されていた。

 

「ここに来るのも久しぶりだな。にしても戦争が終わってから2年しかたっていないのにこれほどの学校を造れるのか。……道理で戦争に負けたわけだ」


 ざっと見て高さ200メートル、幅400メートル、奥行き300メートルほどであろうか。校門の正面には、大きな建物があった。かつての真央国にはこれほどの建造物はなかった。造れなかったわけではないが、金がかかりすぎたし、必要も感じていなかった。逆にこんな大きな建物があれば、敵に狙われすぐにでも壊され、大きな被害が出ていたであろう。


(確か入学式があるのはあの建物だよな。どれだけでかい式典なんだ?獅子王代理に学校の規模を聞いてくるんだった)

 

 そんなことをブツブツ考えながらキテンは正門をくぐり、大きな建物に近づいていった。あたりをよく見渡すと正面の建物以外にも細長い建物や、本屋、飲食店、服屋、武器屋など普通の学校にはないようなものまで幅広く展開していた。まるで学校ではなく、一つの町のようである。


 大きな建物の直前まで来ると、美しい女が話しかけてきた。

「そこの君、学生証を見せなさい。一号館には学生証がないと入れないよ」

「わかった。これでいいか?」

「そう、それそれ!じゃあ入っていー……、おいおいマジかよ。

ごっほん。私の名前はモニカ。真央学校生徒会長よ。あなたのような名の知れた戦士がやってくるのを待っていたわ。伝説の体現者、いや、キテン。歓迎するわ。さあ、入ってちょうだい。中に案内板とか、案内担当の学生がいるから困ったら頼って見てね」


 キテンは言われるがまま中に入っていく。

(やばいなーくっそかわいい。これが学校ってやつか。来て正解だった。獅子王代理、ありがとうございます)

 モニカがいっていたことなどほとんど覚えていない。彼の記憶にあるのは、モニカの顔と胸、そしてなんといってもあのエロい尻であった。だがまあ、案内担当がいたので迷わずに入学式の会場までたどり着けた。


「案内の方。助かった。あなたがいなかったら私は時間通りにたどりつけなかっただろう。感謝する」

「いえいえ、なんてことはありません。では、入学式を楽しんでください」


 キテンは自分の学籍番号に合った席を探し始めた。だが、ちょうど自分の番号になったと思った時に自分の番号がなかったのだ。なぜだ?彼はよくわからずうろうろしたのち、考えるのがめんどくさくなって会場を後にした。


(まあ、入学式に出ないと入学できないというわけではないし、出席する必要はないよな。元々式典は好きではないしな。椅子がなかったのは神様の導きだろう。暇だしどこに行こうか)


「ん?」



 キテンがどうでもいいことを考えていると、遠くで誰かの騒ぐ声が聞こえる。けんかしているのだろうか。もしそうならば止めた方がよいだろう。


「これはいくしかないな」


 戦争をしていた頃の血が騒ぎ、キテンは躊躇することなく走り始めた。彼の足は非常に速い。筋肉の戦車のような見た目をしているので、鈍足な戦士なのかと思われるがそんなことは一切ない。彼の鍛え上げられた足腰は自らの体重により、スピードが落ちるようなものではないのだ。走り始めた彼のスピードは初速にもかかわらず優に時速100キロメートルを超える。あたりの人々は彼が一瞬でかき消えたように見えただろう。


 彼がたどり着いたとき、あたりには多くの人が集まっていた。人だかりの中心には彼が思ったように二人の男が争っていた。二人のナバナ国民の男たちが殴り合い、いや、取っ組み合いをしている。これは思っていたとおりだな、かっこよくこの場を納めるとするか。そう思って近づくとこんな声が聞こえた。


「ふたりともやめて!私のために争わないで!私は貴方たち二人にそんなことをしてほしくはないわ」

「いいんだクレオパドラ。君が気に病むことはない!これは俺たち二人で決めたことなんだ」

「そうだぞクレオパドラ!俺があいつをあいつが俺を気に入らないから始まった戦いなんだ。君は俺たちの、いや、俺の雄姿をみていてくれ!」

「ちがうのよ、二人とも。あなたたちは何もわかってないわ。あなたたちが何をしようとしても私があなたたちと結ばれることはあり得ないのよ。えーと、ほらっ私はもう好きな人がいるの。だから、あなたたちの気持ちには応えられないの!って聞いてないし!?二人とも都合のいい耳をしてるわね。もうやめっててば!」


 なるほどな。キテンはそう思った。一人の女を取り合うとき、己の力を誇示するのは当たり前のことだ。そしてそれを邪魔することは野暮ってもんだろう。というかこの様な人の集まる場所で求婚の戦いをできる男たち二人の勇気に彼は惚れたのだ。女がなんかいってるがそんなの彼の耳には入っていなかった。

 

「やれーー!やるんだおまえたち!己の力をっ!女に示せっ!」

 彼は無意識にそう吠えていた。心が熱かった。こんなの久しぶりだった。あの戦い以来ではなかろうか。これほど熱い戦いは。あれはいつだっただろうか。確か5年ほど前だったな。大昔、強すぎて封印されていた化け物が彼の前に現れたのだ。

そんなことを思い出しているとクレオパドラという女が近づいてきた。


「ちょっとあなた、彼らをたきつけるようなことはやめてください!本当に彼らと結ばれるつもりはないんです。というかあなた止めて来てくださいよ。ものすごいがたいがいいじゃないですか」

「む?クレオパドラだったか。そんなことはいうもんじゃないぞ。奴らの覚悟を見ろ。死ぬ覚悟を持って戦っている戦士の目をしている。二人の男があれほどの気迫を見せているのだ。あなただって女冥利に尽きるだろう」


 クレオパドラは言いにくそうにこう言う。

「いや……まあ、そうなんだけど、私夢があって。

いつか私がピンチのところに王子様が現れるんです。その王子様は私よりもちょっとだけ年下で、少し可愛らしいんですけどとっても頼りになるの!そしていつか彼が困ってる時に私が助けてあげて、それから仲良くなり始めるんです。一緒に冒険しに行って盗賊を倒したりとかして、両思いになって結ばれて……。いや、待て待て。結ばれるのはもっと後でいいな。両思いだけど告白できない間が一番楽しってみんな言うものね。だから…………、…………、」


 キテンは察した。この女現実が見えてねえやつだ、と。この調子ではいつになってもあの二人のどちらかがクレオパドラと結ばれることはないだろう。ならば、俺は鬼になろう。彼らのために。彼らはこのクソ残念な女に振り回されていい奴らではないのだ。そうして彼は動き出した。


「チョットマテーイ!オレヲワスレテハイケナイゼ!カノジョトムスバレルノハコノオレダ!」


クソ下手な演技をして、失礼、彼のできる限りの演技をして突っ込んでいった。


「クソっ!何者だ!ブペッ」

「なんだ貴様は!この俺を誰だと思って、ゴハッ」


 一瞬で彼らを倒したキテンは心の中で謝った。

(すまない。君たちの覚悟を台無しにしてしまって。だが、仕方ないんだ。君たちがあの女に縛られ続けるのは我慢ならなかったんだ)

そうしているとクレオパドラが話しかけてきた。


「あなた、ありがとうございます。助かりました。これで厄介なこともなくなりましたね。ああそうそう!お礼をしないといけませんね?何か欲しいものはないですか?」

「いや、いらないです。あなたのためにやったのではないので」

キテンはあまりの申し訳なさに泣きながらそう答えた。

「あなた、なんでいきなり泣いているんですか!?そしてなんで敬語になったの!?」

おっと申し訳なさのせいで素が出てしまったらしい。涙まで流してしまうとは情けない。彼は気を取り直してこう言う。

「なんでもない。気にしないでくれ」


「まあ、なんでもいいです。お礼がいらないと言うならお言葉に甘えることにしますね。困ったことがあったら是非私を頼ってください。私は普段、スッパイーダ酒場ではたらいでいますから。ではさようなら」

クレオパドラはそう言ってどこかにいってしまった。


(一件落着か……)

キテンは暇になったので、あたりの人に話しかけることにした。そうだ、腹も減ってきたことだし、飯屋を探すか。そう思った彼は近くにいた男に話しかけた。


「なあ、そこのお前。ここら辺で美味い飯屋知らないか?」

「ん?ああ、あんたはさっき最後に乱入して行った人か。めちゃめちゃ強いな。

えっと、飯屋だっけ?なら真央学校内にたくさんあるぜ。好きな料理作ってるところに自由に入ればいいさ」

「なるほど。情報をありがとう」


確かに飯屋もたくさんあったな。キテンは学校に戻ることにした。






 







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