入学式編

第3話 入学式前

 ナバナ国。

その国は10年前に終結した戦で勝利したフローツ連合の実質的なトップ、

そう盟主である。それは戦争が終結したこの世界でナンバーワンの国力をもつことを意味する。一見すると世界中から羨望の眼差しを受けていると思うかもしれない。確かに彼らは種族レベルが高く、見目も麗しい。だが、彼らがそのような扱いを受けているかといえばそうではない。彼らは問題を抱えているのだ。


「おいあそこにいるのは誰だ?すんごいべっぴんさんがいるぞ。

声かけてみようぜ」

「うーん、あの服装は確か……。

ハッ!バナナがぶら下がっているぞ!ナバナ国民だ!」

「何!?逃げるぞ!戦略的撤退だ!」


 このような有様らしい。ナバナ国民というだけで避けられるレベルなのだ。

ではなぜこのような有様になるのだろうか。理由は単純明快だ。

 

 こんな事例があった。当時フローツ連合のナンバー2だった男がナバナ国民の女に惹かれ付き合うこととなった。彼は最高の女を手に入れて幸せだった。だがしかし、一緒に住むことになったことで女の家族、いや、ナバナ国民の異常性に気づいてしまった。彼らは仕事や食事など以外の時間は全てバナナに祈りを捧げているのだ。そして、それを彼にも強要してくる。最初はなんとか耐えることができたのだが、一ヶ月がたつ頃には彼はもう限界だった。バナナを見ることすら苦痛になり、逃げ出した。


 この話が広まると、すべての種族の男がナバナ国の人間と付き合おうとするのを嫌がるようになった。とはいうもののそのようにバナナ祈祷が強制されるのは家族になったららしいので、ナバナ国は現在でもフローツ連合の国民たちとは仲良くやれている。



 そんな国にある男がやってきた。

「なんでいあいつは?バカやべーな。ものすげえ体してんぞ」

「たしかにすげえなー。あんなやつめったに見ねえぞ。ん?おいっ!やつの胸をみてみろ!」

「おいおいマジかよ。あの国旗は獅子王国のものだぞ!」

「ってことはつまり今年ナバナ学園に入学する予定だっていう獅子王国最強の戦士はあいつだってーのか!?」

「確定って訳ではないがその可能性はかなり高いな。あの国は従者をつけるとかいう文化を持ち合わせていないしな。一人でここにいても不思議ではねえ。」



 その男の名はキテンという。あまたの困難に打ち勝ち、戦争を生き抜いた男。彼は終戦の頃には強く成りすぎていた。新人だった頃からの友達はほとんど死に、生き残ったものはすべて余すことなく軍の上層部である。そんな中、彼だけが一兵卒をやっている。それはなぜか? 


 ここで昔の話をしよう。現在とは違い、戦争終結前、獅子王国の軍事力は世界で最強とされていた。彼らに特別な兵器を扱う力があったのではない。純粋に種族としての能力が高かったのだ。フィジカルのごり押し、時には敵を罠にはめて一網打尽にする知力、それらの両方が高水準だったのだ。


 だが彼はそれに当てはまらない。彼は元々は獅子王国の国民ではないのだ。彼の出身国は真央国といい、ちょうどアニモル連合とフローツ連合の境目に位置していた。そのため、戦争で最も被害を出した国の一つである。戦争が始まったとき彼は5歳であったため、そのときのことをほとんど覚えていないだろう。しばらくして転機が訪れた。


 それまで優勢に戦えていたアニモル連合が押され出したのだ。そう、フローツ特戦隊の決死の大作戦の成果である。指示が届かなくなった真央国は、いきなり苛烈になったアニモル連合の攻撃になすすべもなく、敗戦に次ぐ敗戦。彼の両親もそのときに亡くなってしまった。そのときすでに彼は12歳であったため、状況をつかむことができるようになっていた。彼は両親のほかに親族を知らなかったため、生活に困ってしまった。これからどうしようか。そんなとき、こんなチラシが彼の目に飛び込んできた。


 「なんと食事は軍負担で食べ放題!優しー上官が君のことを英雄にそだててくれるかも!?15歳以下で徴兵の年齢に成っていない君も大歓迎!一緒にフローツ連合を消し炭にしてしまおう♡」

 

 大人なら怪しむようなこのチラシも彼にとっては神の声のようなものだったのである。そんなこんなで軍に入隊し、半年間の訓練を受けた後、死ぬような目に遭いながらいくつかの戦場を駆け抜け、彼は15歳に成っていた。その頃にはすでにほかの兵士と比べると頭一つ抜けたような強さであったため軍から昇級の勧告は来ていたのだが、今の生活に満足しているからと昇級を断り続けていた。


 「……真央国民よ。きけ!この国はもう時期敵の手に落ちるだろう。そこで獅子王国に移民の受け入れ依頼をした。彼の国は60歳以下の国民は受け入れるといった。生き残りたければ獅子王国にいくのだ。自分達の未来を考えろ!60歳を超える者にはひどいことを言う。戦え!若者の未来のために。私と共にこの国に心臓をささげるのだ!」

 

 連敗が重なっていった真央国はついに地図から消えた。この時彼は17歳であった。彼は国王の言ったように獅子王国に行き、獅子王国軍に入隊した。その頃には彼はもう敵なしではないかというほどの力を手に入れており、軍人で彼の名前を知らぬものは敵にも味方にもいなかった。彼に遭遇した敵のほとんどは死に、生き残ったものは皆彼を恐れた。悲しいかな、そんな彼の奮闘むなしくアニモル連合は降伏宣言をして、責任をとるということでアニモル連合の盟主であった獅子王の親族が皆殺しにされ、戦争が終わった。


「猛々しき英雄キテンよ。其方の活躍見事であった。その功績に報いるため何か一つ願いをいってみよ。まあ、我が国は敗北国だがら出せるのもは少ないがな」


 戦争が終わって2年。国内の状況が安定してきた後、彼を呼びつけた獅子王代理はそう言ってきた。しかし彼は夢を持ち合わせいいなかった。今まで生きるために必死で生きてきただけであるから当然のことである。


「とてもありがたいのですが、私は欲しいものを持ち合わせていないので褒美は別のものにあげてください」


「そんなのは許さん。我が国のメンツのために何か申してみよ。ではそうだな、其方はしてみたかったことはないのか?」

 獅子王代理はなんとしてでも褒美を与えるつもりだった。このままではこの気まずい時間が続いてしまう。そう考えた彼は彼は頭をひねって答えを絞り出した。


「私は小さい頃から戦争に参加していて小学校以降の学歴がありません。だから学校に行ってみたいです」


こうして彼の学園生活は始まっていく。

 

 




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