第11話 ソドム王とナイトゴモラ

3人は先生に中央棟の個室に連れてこられていた。そこは白い壁の殺風景な部屋で窓ひとつない場所、テーブルと椅子が教室の様に並べられている。

ジュエルは車椅子に座らされ、その隣にサクラテスとカシマが座る。先生がホワイトボードの前で話し始める。

「天井の修理は今やって貰っているから、心配しなくても大丈夫だ。問題はジュエルの今の状態だ」先生が両の腕を腰に当て、何やら思案げな顔をする。

「私…どうなっちゃうんですか…?」ジュエルが極力動かないように気を付けながら、心配そうな顔をする。

「君が心配するのも無理は無い…今、ジュエルの身体は新しい身体に、作り変わっていっている…」カシマとサクラテスが立ち上がる。

「どういう事ですか!そんな事が起こるとは思えません!」カシマの瞳が赤くなり、テーブルを叩く。

「やっぱり何かしってるのね!?」サクラテスも同じく赤くなり、珍しく大きな声を出す。

「君達に話すか正直迷った…この話は我々船内でも、ごく一部の人しかしらない…」先生が眉根を寄せて、メガネが光る。

「歴史の授業で、我々が宇宙人に出会った話をしたのを覚えているかね?」カシマとサクラテスは頷くがジュエルが首を捻り、それを見た先生が頭を抱える。

「張本人の君が覚えていないのか…ジュエルは確か、歴史は苦手だったね。復習をするか」先生がホワイトボードに年号を書き始め、ジュエルがうげーっと顔をするとサクラテスとカシマが横目で黄色い瞳を向けてくる。

「この年代に、我々が初めて宇宙人に接触する事になる。この時、彼らの星は滅びる寸前だった。我々は彼らに、船に乗るように説得したが断られ、彼らは結局絶滅してしまった…」先生が淡々と説明をし、3人は黙って聞く。

「だが、この歴史には本来は補足がある。その星の一部の者たちと、その王族が船に乗る事を了承したのだ」

「それってこの船に宇宙人が乗ったってこと?」サクラテスが白い瞳を先生に向ける。

「しかし、宇宙人が乗っていた痕跡なんて残っていませんよ?たしか、その宇宙人はニヴェネフという種族で、身体に鱗を持つ身体能力が高い、温厚で誇り高き種族だったと…」カシマが先程より、落ち着きを取り戻し席に着く。隣でやはり首を傾げているジュエルに、カシマが少々呆れる。

「痕跡は残っている。君達のその瞳だ」3人が驚き「そんな馬鹿な!」「それってつまり…」「どういう事…?」3人がそれぞれ話し出すが、先生は続ける。

「我々の御先祖はニヴェネフ人との間に子を儲け、次第に今の瞳の特徴を得ていったのだ。つまり、少なくとも我々は宇宙人との血縁者になる」先生がホワイトボードの年号を消す。

「何故そんな大事な事が、ごく一部の人しか知らないのですか!?」カシマの瞳がまた赤みが刺していく。

「それは…我々がニヴェネフ人の特徴を引き継いでしまった事に関係する…」先生が3人の前に椅子を向け座り、声のボリュームを落とす。

「ニヴェネフ人は過酷な環境での生活に適用する上で、高い身体能力を得た。そして…」先生が一息着き話す。

「統率を取るために王族の後継者、王は種族を操る事が出来る…」3人が絶句する。

「王は全ての年齢層の種族を操れる訳ではなく、一定の年齢層、自分の年齢前後の人達を操る事ができる。その王の子、後継者も自分の年齢前後の人達を操る事が出来きた。そのうえ人々は自然と王を敬愛し、忠誠を誓う。こんな事を船の皆が知ったら、自分は王に操られているのではないかと、混乱してしまうから伏せられていた…」3人は顔を見合わせ、唖然とする。

「その話はひとまずわかりました。しかし、それとジュエルさんの身体の変化はどう繋がるのですか?」カシマが冷静さを取り繕い聞く。

「その王には必ず、守り人が近くに居る。君達に話した物語を覚えているね?」サクラテスとジュエルがハッとする。

「ソドム王とナイトゴモラのお話!」サクラテスが言うと、先生が頷く。

「あの話は実話だ。ニヴェネフ人の星で、実際にあった王とその守り人の話しなのだ」先生が眼鏡を外し続ける。

「ジュエル、君がノアのナイトになったんだ…」3人が驚愕し、言葉を失う。

「あの時、君はノアが危ないと感じた。ノアに近しかった君がナイトに覚醒するのはおかしな話では無い」先生が目をつぶり、眼鏡を付け直す。

「それって…ノアが王って事…?」サクラテスが青い瞳で聞くと先生が頷く。

「その通りだ…彼の両親は王族に連なる家系、彼が王になる事はわかっていた」カシマが眼鏡を上げ、真っ赤に染まる瞳を隠し、何も喋らなくなる。サクラテスは青い瞳を背ける。

「私がノアのナイトに…」サクラテスが赤い瞳からピンクに染まる。

「君がナイトとして力を発揮しているという事はノアは確実に生きている。ジュエルとノアの間には目に見えない繋がりがあるんだ。ノアが帰ってくるまでに、力の制御を覚えなければならないよ?」ジュエルは頷き、再び赤い瞳になる。

「私、ノアの為に頑張る!力の制御出来るようにならないと、帰ってきたノアが驚いちゃうもんね」ジュエルが笑顔で言う。

その時だった。中央棟全体に警報が鳴り響く。ブゥオオオ!ブゥオオオ!っと鳴り、赤い警告ランプが回り出す。

「ヤハさん!至急、管理室まで来て下さい!」セムルスの声がスピーカーから響き渡る。

「君達はここで待っていなさい!」そう言うと先生は部屋を飛び出していく。3人は部屋に残され、ジュエルは「どうしたのかな?」と呑気な事を言うが、サクラテスとカシマは何の返事もしなかった。



先生が管理室にやって来ると、たくさんあるモニターにはガラスの塔が映っていて、凄まじい光の柱が遥か上空まで塔の先から出ている。

「これはどういう事だ!?」先生がセムルスを見る。

「分かりません…ただ突然、ガラスの塔から高エネルギーが放たれ初めました。恐らくですが、我々の使う反物質エネルギー技術と同じ様なものかと」顔色は変えないが、瞳の色が青い所を見るとこれでも怖いのだろう。

「ドローンは出せるか?」先生が言うと、セムルスが頷く。

「はい。既に何台かのドローンを現地に飛ばしています。今、映像出します!」出た映像にはガラスの柱が高くそびえ立ち、天へと光を放ち続ける。塔の足元、大きな入口に光が集まっているように見える。

「これは一体…」先生が呟くと、集まる光の中から何かが出てくる。それも1つ2つでは無い、たくさんの何かが出てきている。

「生体反応は!?」先生が白衣をきた男に聞く。

「ありません!生物ではありません!」

「では、あれは…」映像の中に映る、たくさんのそれは人間に見える。その中の一体が、ドローンを見つけたかのようで目が赤くなる。その光り方は人工的で、機械的、腕をこちらに伸ばすと緑の閃光が走り、映像が砂嵐になる。他のドローンの映像も次々と砂嵐になり、最後の映像には人型の機械的な何かが移り、映像が途切れる。

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