第6話 そして出会う
永遠にも思える時が経つ。実際どれほどの時がたったかもわからない。もうこの空間も限界だ。いつ瓦解してもおかしくない。自分ひとりじゃナノマシーンを使って修復も出来ない。このまま1人で孤独に死んでいくのだ。怖い。
「何を考えているのじゃ!わしは通路管理program AI noah's arkじゃ!恐怖も孤独も何も感じないのじゃ!良かった!良かった!まったく!1人で居るとつまらんのう!あーあ誰かこんかのう」誰も来るはずがない。この星にはもう人間は残ってないのだから。最後の何人か前に来た馬鹿が馬鹿な事をしたせいで人間はほとんど死に、残った人間も星を出ていったらしい。
「何か歌でも歌うかのう。ワシが作った曲は8千曲を超えるのじゃ!全部歌えば幾分か暇が紛れるじゃろう」アークは歌い始める。あまり上手ではない歌が虚しく部屋に響く。一体何曲目だったろうか、生体情報がスキャンされる。何かのバグだろうか?博士の血が反応する。「また博士の血液パックか?」時の権力者達は博士の血をカギにしてここに来ていた。しかしパスコードは言わないようだ。「なんじゃ?言わんのか!つまらんのう!」アークは吐けないため息をつく。だが博士の血を持つものが言う
「私ノア…ノコトガ…ス…」
ノア…ス?何か発音が変だがパスコードか?ゲートを開きかける。
「あ…くっ…わ…わー凄いね!」
「ノア…ス…あ…くっ…?少し発音が変な気もするがまーいいじゃろう。わしに選ぶ権利はないわい」ゲートを開く。中に入って来たのは2人の男女。
「あの娘…博士の子孫か?どういう事じゃ?」生体情報がそれを告げる。
「博士の子孫がわしを迎えに来たのか!?」きっとそうだそうに違いない。
「おーい!こっちじゃ!下の階じゃ!」だが2人に声が届かないらしい。2人は帰ろうとしている。
「そんな…待つのじゃ…わしを迎えに来てくれたのではないのか?!頼む待ってくれ!」博士の子孫が出て行く。
「嫌じゃ…助けてくれ…もう1人にしないでくれ…こんな所で孤独に死にとうない!…頼む…いかないでっ!」アークは泣く。泣かないはずなのに泣く。その声に男が足を止める。
「おーーい!誰か居るのかー?ここ危ねぇーかも知んねぇってよ!?」男は階段を降りる。
「ここじゃっ!わしを助けてくっ…」何を考えているのだろうか。あの男を下に呼んだら大変だ。男が元の時代に帰れなくなってしまう。いや、最後にタイムマシンを使えば男を帰してやれる。だがこの空間はあっという間に消滅するだろう、私と共に。
「コレでいいのかもしれんのう…最後に小僧と話をしてこの部屋と最後を迎える。わしにピッタリじゃないか…」いつまでもここに居るくらいなら最後に誰かと話をしよう。男が部屋に降りてくる。
「ここじゃ!ここ!」
「取り乱してすまんかったの…長い話に付き合ってもろて。結局、わしは博士のアップデートで感情を取り除いて貰ったと思い込んでおったのじゃ。博士のせいにしたかったんじゃろうな」そう言うアークの声は少し落ち着きを取り戻していた。ノアの瞳が真っ青になり鼻水まで垂れ流し胡座をかいて泣いている。
「なんじゃ?泣いておるのか?」アークは少し驚き聞く。
「泣いてねぇよっ!!」ノアは目頭をゴシゴシ服の裾で拭く。
「全く!よく他人のましてやAIなんかに感情移入できるの。じゃが、聞いてくれてありがとうのう」アークは感謝をのべる。
「これで心置き無く逝けるわい」アークの言葉にノアは立ち上がり言う。
「おい!アーク!俺と一緒に来い!俺達の船に来いよ!」ノアが手を差し出しながら言う。
「な…何を言っておるのだ!?ここからワシが出たらこの空間が消えるぞ?どうやってわしを出す気じゃ?無理じゃろうて」アークがまた驚いたように聞く。
「簡単じゃねぇか!俺が出た後直ぐにお前が出れば完璧だろ?」そう言うとノアは準備体操を始める。
「何をする気じゃ?」アークが恐る恐る訪ねる。
「俺はこう見えてラッツの最強プレイヤーなんだぜ!?自分の投げたスローボールを自分でキャッチする事なんて御茶の子さいさいだっ!」そう言うとノアはアークを掴み思いっきりジャイロをかけ出口に向かって放り投げる。アークは急回転しながら飛んでいく。
「ぬぅわぁぁぁぁ!」目が回る、目は無いが…
スローボールとは名ばかりの豪速球が入口に向かって飛んでいく横を目にも止まらぬ速さでノアが出口から出る。出た瞬間、分厚い膜を破る感覚、急激な疲労感が一気に押し寄せる。
「んだ?気持ち悪いなこれ!」そう言ってる間にアークが出口から銀の砂を纏いながら出てくる。その瞬間、出口が勢いよく閉まる。空間がえぐれる様に渦を巻き砂が周りを回る。アークを無事にキャッチするがノアは一気に脱力し気を失った。
あれから身体が変だ。コップも加減しないと割れてしまうし、ラッツの試合もコントロールが難しい。内から力が湧いてく感覚、漲るような活力が身体に巡っている。だがその感覚とは反対にジュエルの気持ちは暗い。
「私どうしちゃったんだろう?ノアが居なくなってからすごく変…」ジュエルは手をグーパーしながら手を見る。ノアが居なくなってからジュエルの身体は人の何倍もの力が出る。カシマ達とラッツの練習してる中でサクラテスが投げた高いボールをジャンプしキャッチする。普通の簡単なキャッチだったがそれは反重力ブーツを履いていたらだが。その時は上手く2人を誤魔化せたがバレるのは時間の問題だろう。先生に相談してみなくてはならない。
「ノア会いたいよ。早く帰ってきてよー」そう言いジュエルはゆっくりとベットに横になろうと手を着くがガクンとベットの足が折れる。
「もうイヤっ!何で私がこんなめにあうの!?私はただノアと一緒に居たいだけなのにっ!」そう言いながらベットを殴る。するとドガンっと煙が上がり気がつくと1階のリビングに粉砕したベットと共にいた。サクラテスやカシマと目が合う。2人は大きく穴の空いた天井を見上げる。
「ジュエルさん…一体これは…?」カシマがあんぐりと空いた口で聞いてくる。
「こっコレは…そう!老朽化が進んでたんだよ!いやーびっくりしたよ」ジュエルは頭を掻きながら誤魔化す。
「あんた老朽化って…そんな訳ないでしょ!?怪我はないの!?」サクラテスが近ずいて怪我がないか見ようとする。
「来ないでっ!」ジュエルは大きな声が出てしまう。サクラテスに怪我をさせてしまうかもしれない少し下がる。
「ジュエ…いい加減なにを隠してるか喋ってくれない?先生も何か知ってる様だけど喋ってくれないし」サクラテスが眉をさげ瞳を青くし聞いてくる。もう限界だろう。私はあの日の事を包み隠さずに話す。記憶がないが丘をクレーターに変えたこと。人よりも何倍もの力が出せる事、日に日に力が増していることだ。
「それってつまりナイトの覚醒みたいな事?」サクラテスがソファに足を組み座りながら聞いてくる。
「あれはただの物語だよ…」ジュエルが向かいのソファに体育座りしながら言う。そこには2人に手を借り座らせて貰った。
「そうだけどあれって一族の王がピンチになったら覚醒して王を助けるのよね?他の人達の何倍も力を出せるって」サクラテスがショートパンツから見える肉付きの良い太ももを組み替えながら言う。
「それって今のあんたそっくりじゃない?ソドムの王の物語のナイトとさ?」ソドムの王の物語は先生が私達によく読んでくれた物語で一族の王を守るナイトゴモラは王の常に傍に居て王の為に戦うのだ。王がピンチになると力を発揮し王を助け王の盾となるヒーロー的ポジションだ。
「一族の王なんて居ないでしょ?」ジュエルが眉を寄せ黄色い瞳を向ける。
「あんたにとってノアが王なんじゃない?」サクラテスが青い目を向ける。
「そ…そそそんな事は無いんじゃないかな??物語ではナイトは男で王様は女だったでしょ?」ジュエルが口篭る。物語の最後2人は愛し合い結婚し、子供達と幸せに暮らす話だ。自分がノアと2人で幸せに暮らす事を考え熱くなる。サクラテスの瞳がさらに青くなり黙る。
「テス?」ジュエルがどうしたのかと聞く。
「何でもないわ。それより先生にこの事を相談しないとね!」サクラテスがいつもの調子で言う。
「うん…そうだね…」ジュエルが抱えた膝に顔を埋める。
「掃除終わりましたよ?サクラテスも手伝って下さいよ」カシマが頭の三角巾とマスク、エプロンを外しながら文句を言う。
「あんた掃除になると厳しいんだもん!それなら1人でやった方が早いでしょ?」サクラテスがソファから頭を後ろに向け言う。
「そういう問題ではありません。誠意って物があるでしょう?」カシマがむっとし言う。
「わかったわ。ごめんね。ありがとう」サクラテスがニコッと笑う。
「分かればいいのです」カシマがメガネをあげ顔を隠す。
「連絡したので先生がもう少しで帰って来ます。事情を説明しましょう。それに…」3人は天井に空いた大きな穴を見上げため息を着く。
「ごめんなさい…」ジュエルがさらに顔を膝にめり込ます。
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