第4話 通路管理program AI noah's ark

「おーーい!誰か居るのかー?ここ危ねぇーかも知んねぇってよ!?」ノアの声が階段下まで響き帰ってくる。その声と一緒に確かに誰かの声が聞こえる。

「おい、マジで大丈夫か?動けなくなってたらまずいぞ」嫌な想像が浮かび身体が階段下へと向かう。下の方まで光はきているようだがどうも薄暗く少し肌寒い。階段を降りて行くと直ぐに下まで着く。道はまだ先まで続いている。

「やっべ!冒険らしくなってきたじゃないかっ!人を助けて宝物もゲットだぜっ!」両の拳をあげ鼻息を荒らげる。ノアの瞳が赤く輝く。だが冒険は直ぐに終りを迎える。直ぐに奥の部屋に着く。

「ここで終わりか?」部屋は広くなく壁や床、天井にびっしりと知らない文字が掘られている。それでもおどろおどろしくはなく何だか神秘的で落ち着く印象だ。

「なんだここ?誰かいっかー?おーい!」辺りを見ながら呼んでみる。

「ここじゃ!ここ!」部屋の中央の青い玉?から女児の声がする。玉は宙に浮いておりよく見るとブルーボールのようにも見える。

「何だボールにスピーカーかよ!心配して損したぜぇ!」こんなイタズラすんのはあのメガネか?それともバッシュか?どっちも有り得るが手が込んでやがる。さっきの腹癒せか?ならどっちだ?くっそ!わかんねぇー!!!

「お主、何を言っておる?」玉が喋る。

「うっせー!人をおちょくりやがって!カシマか!?それともバッシュか!?んがー!」ノアは頭を掻きむしりながらブーツで床を何度か踏み叫ぶ。

「さっきから何を言っておるのじゃ?」いまさらだがノアはこんな年寄り臭い喋り方をする女児の声をしらない。誰だコイツ?

「何か勘違いをしておる様じゃのう。ワシはここの通路管理program AI noah's arkじゃ!」玉が訳分からんことを言い出す。どういう事だ?

「ふむ、どうもようわかっておらんようじゃな。お主、ここが何だかわかってて入ってきたのではないのか?」玉が質問してくる。

「あ?洞窟に冒険しに来ただけだよぉ!人の声がすっから誰か動けなくなってんじゃねーかと思ってきたんだ!」ノアは勘違いした自分が恥ずかしくなり少し瞳が赤みがさす。

「そうかいそうかい。お主はお利口さんじゃな。ほれ飴ちゃんをやろう」…何も差し出されない。沈黙。飴ちゃんってなんだ?

「すまんすまん。今は飴もなけれ身体もなかったわい。ふっふふ…」玉が少し寂しそうに笑ったような気がする。

「おめぇはずっとここに1人でいんのか?」ふと気になったことを聞いてみる。

「そうじゃよ。もう何百年になるか…もっとかもしれん。忘れてしもうたわい。」玉は静かに答える。

「昔は沢山人が出入りしておったんじゃがもうここを通れる者はいないのじゃろう。地球人にはすぎた力じゃったのじゃ。」

「地球人?どっかで聞いたことがあんるようなぁ」ノアが頭を捻るが思い出せない。

「何言っておるのじゃ。お主は間違いなく地球人の末裔じゃぞ?」ノアは思い出す。昔、先生の授業で習った気がする。自分達が船で宇宙を旅するずっと前は地球に住んでいたらしい。だが天変地異で人が住める環境じゃなくなったとか?

「はぁ?んじゃここは地球って事か!?」ビックリしたノアは瞳が目まぐるしく色が変わる。

「いかにも。じゃがどうもその瞳…別の血が混ざっているな?おおかた、旅するうちに別のもの達と番いになり今の瞳と耐性を得たのじゃろう。でなければここに入って来れるはずがなかろう」

玉がまた訳の分からない話を始めたノアの頭は爆発寸前だった。

「ちょっと待てよ!?さっきから訳分かんねーぞこの玉!確かに大昔、俺達の先祖は宇宙人に会ったって授業で先生が言ってたが直ぐに絶滅したって習ったぞ?」

「ムムっ!玉とは何じゃ!さっき名は名乗ったぞ。私は通路管理program AI noah's arkじゃ!」玉が少し怒った調子で喋る。全く迫力はないが。

「つぅろぅかんりぃプロ…なんだって?」ノアが何とか発音しようと頑張るが難しい。

「そうか。すまんかった。これはワシのミスじゃな。発音の弊害が出たか…」声色から申し訳なさを感じとる。

「いや、俺が悪かった!出会ってそうそう確かに玉呼ばわりは良くねぇな!自己紹介が遅れたな!!俺はノアだ!よろしくな!」ノアが水色に変化した瞳で白く歯並びの良い歯と犬歯をニッと見せ親指をたてる。

「そうか…そうか…ノアか…こんな事もあるのだな……長く生き続けるのも悪くなかったようじゃな…のう、岡村博士や…」しみじみとした声色だ。

「何浸ってんだばーさん?」

「ば、ばーさんじゃと!?えーい、ワシのことはアークと呼べい!」バーさんと言って怒ったのだろうか声を荒らげる。サクラテスが言ってたな女に年齢弄りは嫌われるって。やっぱこいつ女か。それにしても。

「アーク…アークか!何かしっくりくるな!いい名前だ!改めてよろしくな!」

「じゃろう。よろしくのう我が主様よ」彼女に表情はないがニヤッと笑っている様な気がした。

「な…名前名乗っただろ?何だ主様って!ばかにしてんのか?それともさっきの仕返しか?」ノアが赤い瞳で言う。

「仕返しもあるがのう、儀式的なものじゃよ。それに最初で最後じゃ。それよりノアはこれからどうするのじゃ?」アークが聞いてくる。

「どうするって結構経っちまったし、ジュエルが心配してっかもなぁ直ぐに帰んねぇーと」ノアが頭を掻きながら来た方の道を見る。

「やめておけ。今帰ればお主の友人達とは2度と会えなくなるぞ」アークが今までで1番の凄みで喋る。どういう事だ?2度と会えなくなるって?

「おいおい…脅かすなよ。そんな訳ないだろ?ジュエルとはさっきまで一緒だったんだぜ?」

「こことあちらの時間軸は全く違うのじゃ。最初の部屋辺りだったら数分で数日のズレで済むじゃろう。しかし、ここの部屋での数分は…数百年にもなる」コイツはなにを言っているんだ?

「ノアが今この部屋を出て行ったら後戻りは出来ん。数千年先の未来で一人ぼっちじゃぞ?浦島太郎じゃな」そんなはずはない。そんなはずはないがアークが嘘を言ってるようにも思えない。俺はどうすればいい?それに浦島太郎って何だ?

「そんな顔せんでも大丈夫じゃよ。その為にワシがいるのじゃ。お主を必ず友人達の元へ帰してやるわい。」

「どうすればいいんだ?」ノアが唾を飲み込む音がする。

「簡単な事じゃ。先に進めば良いだけのこと」

道がある。先程まではなかった道が先に続いている。

「ここを通っていけばジュエルとか言う小娘の元に行けるはずじゃ」そう言うアークの声は何故か暗い。

「そっか!ありがとうな!俺が勘違いした上、冒険心に火がついちまったせいで…面倒かけんな!」

少しの沈黙後アークが喋る。

「よいよい。ワシが最後に誰かと喋りたかっただけじゃよ。話しかけてしまいすまんかったのう」

「は?最後??どういう事だ!?」ノアが声を上げる。

「ああ、時空間移動とは容易なものでは無いんじゃよ。ここの空間のメンテナンスを何百年も怠っていたのじゃこんな状態で時空間移動を行えば空間事ネジ切れるじゃろう。だから最後なのじゃ」コイツはまたこ難しい話をしやがる。俺のわかるように言えよ。

「わっかねぇーよ!つまりどういう事なんだ!?」

「つまり、わしはここで死ぬんじゃよ」アークがサラッと言った。

「は?死ぬ?おいおい勘弁しろよ!俺が無事に帰る為に死ぬ?んな事したら寝覚めが悪ぃだろうがよ!」ノアが怒鳴り散らす。瞳が真っ赤に染る。

「別に良いじゃないか。会ったばかりのこんな玉ごとき、無くなったってなんの問題もないじゃろ」アークは淡々と語る。

「嫌に決まってるだろ!こうして話をしてわかった!お前は良い奴だ!お互いに自己紹介だってしたんだからお前はもう俺の友達だ!友達が自分の為に死ぬのがいいと思う奴がいるか!?」ノアが熱くなる。

「友達じゃと?…わしがお主の友達になる資格があるのか?」アークは喋り続ける。

「あの時お主に声を掛けたのはわしじゃ。声を掛けなければここから出て、数日間のズレだけで済んだのじゃ。こんなふうに騙してお主をおびき寄せ、わしはお主に友達になってくれと言える訳がなかろう。それに遅かれ早かれこの空間は消滅してわしは死ぬ!だから!だから最後に入って来たお主と喋ってみたかった!それだけの為に部屋に呼び入れた!どう考えてもわしが悪いじゃろうて!!」アークも声を荒らげ叫ぶ

「こんな寂しい場所で一人ぼっちでいたんだろ?!誰かが来るのを何百年も待ってたんじゃないのか!?誰かと喋りたいって話かけんのは死ななきゃいけないほどの罪なのか!?んな訳ねぇーだろ!!誰だって孤独は辛いんだ!どんなに贅沢な飯食ったり、テストでいい点とったりしても…1人は…1人は寂しいんだ…」ノアは昔の自分を思い出す。

「お主はなにを言っているのじゃ…?」

「俺には聞こえたぞ!!お前の声が!!最初にお前は俺に助けてって言ったんじゃなかったのか!?」

「っ…」アークが黙る。

「死にたくないってひとりは嫌だって!泣いてたんじゃないのか!?」ノアが叫ぶ。

「だっ黙るのじゃ!!」アークも叫ぶ。

「わしは泣かない!孤独を感じないっ!そういうふうに出来てるのじゃ!!!!そういうふうに博士がしてくれた!!!だから今までも孤独に耐えて来れたんじゃっ!!」声に強い悲しみと怒りが伝わる。

「なぜじゃ!!なぜ博士はわしを置いていってしまったのじゃぁ!!!!わしはおぬしの為に…わぁぁぁぁ!!!!」アークは泣き出す。そして遥遠い昔をおもいだす。

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