第2話 洞窟

「んにしてもすげーな!」ノアが土をいじりながら言う。

「これだけ土があればどんだけデカい農園が作れんだ?リンゴだって毎日食べ放題だぜ?」

その言葉にカシマはため息をつく。

「あなたって人は食べ物の事ばかり。地熱エネルギーや風力発電、水力発電の方が先ではありませんか?私達はいつも反物質エネルギーに頼りきりなのです。事故の事をお忘れではありませんよね?」そう言うと私達の顔は曇る。私達の両親は反物質エネルギーの事故で亡くなっている。そして先生に引き取られ育てられたのだ。

「私の両親は優秀な研究員でした。必ず両親が目指した安全で優秀なエネルギー元を開発してみせます!」彼の瞳が赤く燃えているのがメガネ越しにもわかる。

「わかったわかった。それじゃアンタの研究に役立つ物でも探してみるわよ!」カシマをグイグイ押しながらサクラテスが黄色い瞳でウインクしてくる。急に気恥ずかしくなる。

「ね…ねぇちょっと歩かない?少し話そ?」心臓が肋骨を押す。

「んだなぁ」ノアが手に着いた土をパンパンとはらいそう言う。2人は並んで歩き出す。

少しの時間、大きな湖の畔を無言で2人は歩く。ノアは何を考えているのだろうか?何でいつものように喋ってくれないの?心臓がうるさい。恥ずかしくて瞳が見れない。

「なぁ俺の両親ってさどんな人だったんだろうな?」ノアが遠くを見つめながら言う。

「ノアのご両親は確か偉い人だったんでしょ?」

ノアが頷く。

「A地区の人間だったのは知ってんだけど、ほとんど覚えてねぇーんだよなー」ノアは腕を頭の後ろに回し空を見ながら言う。確か私達の両親が亡くなったのは7歳頃だったはず、覚えてないとはどういう意味なのだろう。

「両親はほとんど家に居なかったし、喋った記憶もほとんどないんだよ。育ててくれたのはほとんどメイドさんだな」ノアが目を閉じ歯を見せながらわざとらしく笑う。

「だから多分俺の両親は俺の事とか何とも思ってなかったんじゃないかなーだから少しお前らが羨ましよ。あのカシマのメガネも親の肩身だってよ。どんだけ好きなんだっての!」ノアがハハッと笑う。

「そうだったんだ。ノアは…今も寂しいの?」

「いーや、寂しくないね!今の方が楽しいさ!だから俺はA地区には戻らないし、お前らと一緒の方が幸せだ!それに俺の親は先生だけだ!あ、もう地区とか関係ないか!俺たちは船を降りてこの星に住むだろうし、なっ!?」

赤い瞳で見せる笑顔はいつものノアのものだった。気持ちを伝えるなら今なのではないだろうか?今しかない!

「あ…あのねノア…私…」気持ちをつたえるんだ!

「なんだ?」ノアが聞く。

「私ノア…ノコトガ…ス…」言葉が詰まる

「何だあれ!?おい!見てみろよ!少し見ずらいけど洞窟か?」ノアが指を指す。

「あ…くっ…わ…わー凄いね!洞窟なんて初めて見たよ!」見ると霧がかかった向こうに洞窟が見える。多分私の瞳は真っ青だよ。泣いちゃダメ!まだチャンスがあるよ!頑張れ私!そう心に誓いノアに着いていく。近くに寄ると霧は晴れ洞窟の様な入口がある。

洞窟の中はかなり広くどうも人工的に造られたようだった。床はピカピカにひかり鏡のようで壁や柱には何かのレリーフ?が掘られている。思ったより中が明るいのは外からの光が床や天井に反射してだろうか。

「凄いね。ここも向こうに見えるガラスの柱を作った人達が創ったのかな?」ジュエルは人差し指をあごに当てながら考えるように言う。

「どうだろうな?向こうに階段があるぞ!行ってみようぜ!」ノアが駆け出す。

「危ないよ!先生がガラスの柱は老朽化が進んでるって言ってたでしょ?ここもそうかもしれないよ?」ジュエルも慌てて着いていく。

「大丈夫だって!先生達がこの辺は安全だって言ってたろ?センサーとかでこの辺一帯スキャンしてんだろ?」ノアがそう言い手招きをする。

「そうだろうけど…絶対安全とは言いきれないよ?」ジュエルが心配したような青い大きな瞳をノアに向ける。

「う…わかったよ」ノアが1歩下がる。

「じゃあこうしよう!カシマとテスに連絡して先生にも確認してもらってから探検だ!」名案だと言わんばかりの顔をノアはする。

「それなら…」

「決まりだな!」そう言うとノアは手首に着けたデバイスバンドを操作する。

「あり?調子悪ぃなー繋がんないぞ?」ノアが何度かバンドをタップする。

私も自分のバンドにタップするが繋がらない。操作はできるが繋がる様子は無い。

「やっぱりおかしいよ!私ちょっと外に出て連絡してくる!」ジュエルが入口に駆け出す。ノアも入口に戻ろうとするが足が止まる。

「何だ?声が聞こえる?下からか?」




外に出たジュエルがバンドを操作してサクラテスに連絡をする。

ノイズ音と共に「ジュエル!!?」サクラテスの声が聞こえる。

「もしもし良かった!繋がった!テス今、船の近くに居る?先生に見てもらいたい洞窟があって…」すると堰を切ったようにサクラテスが喋りだす。

「ジュエっ!!アンタ!!今どこに居るのよ!?心配したんだから!今すぐ場所を教えなさい!!」声が震えている。泣いているのだろうか?

「ど…どうしたの?そんなに取り乱して何かあった?」ジュエルは心配になる。

「どうしたのじゃないわよ!あんた達3日間も行方不明だったのよ!?」

「3日間!?」どういう事だろうか?私達が洞窟にいたのはほんの数分だったはずだ。ジュエルが嘘をついてるようにも聞こえない。

「私…うっ…心配で……あなた達が…し…死んじゃったんじゃないかと思ったのよ!うっ…」サクラテスの悲痛な声が聞こえてくる。こんなサクラテスの声は聞いた事がなかった。

「ジュエルか!!テス変わりなさい!」先生の声が奥から聞こえ近ずいてくる。

「どこに行っていたんだ!怪我とかはないかね!?今、君の位置情報を確認している!今すぐ救護班と共にそちらに向かう!ノアも近くに居るのか!?」今頃になって私は何か大変な事になってしまったと怖くなる。

「はい…今ノアと一緒に…」ノアが居ない。さっきまで一緒にいたノアが居ない。まだ洞窟に居るのだろうか。目をやるとそこには洞窟は無かった。あるのは小さな丘があるだけ、洞窟に入る為の穴が無くなっていた。洞窟が崩落した…?ノアが中に…私の頭の中で何かが弾けた。



ジュエルが目を覚ますとベットの上にいた。起き上がろうとベットに手を着くと指先に激痛が走る。痛い。涙が出る。包帯が巻かれた指先が赤く染まる。

「つっ…」痛みと共に最後の記憶を思い出す。ノアは?

「目が覚めたかね?」先生の声が聞こえる。右を見ると少しやつれ、目の下にクマが出来た先生が座っている。顔に無数の傷が出来ている。

「大丈夫かね?体調が優れないところがあったら言ってくれ」声色は優しいが酷く疲れているようだった。

「はい。指の怪我以外は何ともないみたいです。それよりノアは…?」ジュエルは恐る恐る聞く。先生がゴクリと唾を飲むのがわかる。

「ノアは見つからなかった…」先生が項垂れながら言う。

私は絶望する。なぜノアが消えてしまったのだ?

「ジュエル一体何があったのか詳しく説明してくれないか?私達が駆けつけた時君は一心不乱に近くの丘を掘っていた。いや、掘っていたと言うのは正しく無いかもしれないが…」そう言うと先生はデバイスバンドから映像を映す。そこに映っていたのは丘ではなく小さなクレーターだった。丘などないただの穴だった。どういう事なのだろうか?

「これは君が素手で掘ったものだ」先生はメガネを上げ話を続ける。

「衛星からの映像を確認し、君たちの動向をおった。4日前にあの丘に君たちが入りその3日後に君が出てきた。その後、君は私達と連絡を取った直後に錯乱し穴を掘り出した。私達が到着する頃には丘は無くなり、クレーターのような穴ができるほど掘っていた。君を止めるのにとても苦労したよ」そう言う先生は苦笑いしながら顔の傷を指でなぞる。

「ごっごめんなさい。私何も覚えてなくて…」

「洞窟?…の中の事もかい?」先生が優しく質問する。

「いえ、洞窟の中の記憶はあります!」

洞窟の中のわずかな時間の出来事を全て話す。

「それだけかい?」

「はい…」先生はほうけた顔をする。それから難しい顔になる。

「おそらく君たちが入ったのは洞窟では無いだろう。1種のワームホールだろうか…」

「ワームホールですか?」ジュエルは聞き覚えがある。私達が宇宙を旅する間に開発された技術で反物質から生み出す膨大なエネルギーを放出しワームホールを開くのだとか。そこを通って長い距離を一瞬で移動出来るらしいがどういう事だろう?

「我々が使っているものとは全く違う原理だろう。君たちが穴に入ってる間にあの丘あたりはできるだけ探した。スキャンも何度もしたからね。何かしらの痕跡が残るだろうし、君たちは穴に入ったあとも入口が閉じたりはしなかったのだろう?だが、こちらからは入口すらなかったんだ。それに時間のズレ…これは一体…」するとメガネの間から先生の瞳が虹色に輝いてるように見えた気がした。先生はハッと顔を上げメガネを上げる。

「ノアは無事のはずだ!ズレがある分帰ってくるのが遅れるだろうが必ず戻ってくるさ!我々もノアが帰ってくる為に全力を尽くす。」そう言うと先生は席を立つ。「大丈夫だ。ノアは帰ってくる。君は安静にしていなさい。私は捜査隊にこの事を伝えてくる。」入口に手をかけた先生は立ち止まリ振り返る。「それと君が素手で掘った穴の件に付いては黙っていなさい。」先生の瞳の色はメガネでわからない。

「わかりました……それと…先生…」ジュエルがつぶやくように聞く。

「何かね?」

「人に…あんな事ができるでしょうか…?」人が短時間であれだけの穴を掘ることができるのだろうか。素手だけで。

すると先生は静かに笑顔を浮かべ言う。

「人はね。愛する人の為なら時に途方もない力を発揮することがあるのだよ」先生はそれだけ言うと扉を開けて出ていった。

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