EP02-09 遭難者のサプライズパーティ

私たちはケイタさんの家の近くの公園のベンチにいた。

私は魔法を使っている間に気絶しても大丈夫なようにベンチに座って魔法を使う事にした。


「時間ですね」

「それじゃぁ行くわよ」

『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、我が魔力を糧にこの者の魂を支配する力を与え給え『支配する操り人形』!』


「おお、なんかそれぽいな……」

「魔法陣が光った……魔法使うときは場所考えないと駄目ね」


私はケイタさんに『支配する操り人形』の魔法を使って操作をする。おお! できた……成功ね。背が高いから目線が全然違う。おもしろいわね。


(あれ、女神様……僕の意識あるんですが……)

(それはそうよ、あなたの上から操作しているようなものですもの。さぁ、行きましょう!)


「それでは……いってきます」

「あ、口調もなんかそれっぽいね」

「だめだよ、アギー成分出しちゃ!」

「わかってるわよ! 任せておいてっ!」

「……だからだめだって!」

「その見た目と声でその口調だと……きついな……」


私はケイタさんの記憶をのぞき見したので迷うことなく家の玄関の扉を開けて中に入る。気配察知で中の様子が手に取るようにわかっていたので、部屋は暗かったが物陰に隠れる複数の人間の気配を感じ取ることが出来ていた。


(……あの……すごいですね……UIが……頭の中に……位置まで分かるなんて……)

(WODFでは当たり前のことでしょ? 何をいまさら……)

(そうなんですが……仕事しすぎですね……こんな明晰夢。まるでフルダイブ型のVRを体験しているみたいだ……)

(そうね。プレイヤー達はよくフルダイブ型だったらいいのにとか言っていたわね)

(女神様がおつくりになられれば……)

(無理ですよ。私はただのプレイヤーサポートAIですもの。準備は良い?)

(プレイヤーサポートAI……あ、やっちゃってください)


私は電気の消された部屋になるべくいつも通りに入る。とはいえ、ちょっと暗い。盗賊のスキル『暗視』を使うか……

そう思っていると突然暗い部屋が明るくなると同時に隠れていた人間たちから爆発音がする何かが放たれる!

パン! パン!!パン!!!


やばい! これは発砲音?? 遠距離攻撃?? 私は思わず僧侶の『結界』のスキルを使用するために手を前に掲げる。煙と同時に何やら蜘蛛の糸の様なものが?! からめとる気か!?


(女神様!! 敵の攻撃ではありません!!)

(へ?)


私は手を前にした状態で全ての攻撃を受け止め……あれ?


「「「誕生日おめでとう! ケイタ!!」」」

「「パパおめでと!!!」」


小さな男の子と女の子が小さい花束を持って接近してくる。私は慌てて『結界』をとく。良かった間に合った……


「ありがとう!!」


私は花束を受け取ると二人をやさしく抱きしめる。あまりに可愛く思ったので二人の頬にキスをする。

(あ、あの……僕はそんな素敵な行動……出来ないんですが……)

(そうなの? サービスよ。サービス)


なんか子供たちも驚いて照れている様に見えるな。

ケイタさんの奥さんが近づいてきて私に……ケイタに話しかけてくる。

「ありがとう。いい演技よ! もう満点!!」


ケイタの奥さんが抱きしめてキスをしようとしたので、私は『支配する操り人形』の魔法を解いた。


私の心は何かに満たされたような変な感じがした……



§ § § §



私は薄暗い場所にいた。

どうやら公園のベンチの様だった。


「あ、起きた」

「どうだった?」


「ああ……なんか……すごい幸せな気分だった……」

「サプライズパーティだもんね」

「やる人はやるんだねぇ……」

「家ではやらないな……」

「うちも」


【ミッションクリア!!】


私たちの頭の上にミッション達成の文字が浮き上がる。


「おお!!」

「これで達成!!」

「うん。何かよかったわね」

「私もサプライズパーティの様子見たかったなぁ……」

「魔術師のレベルを上げれば……『覗き見の瞳』の魔法を使えば……」

「そんなのもあるの?」

「地味過ぎでWODFじゃ使わない魔法が……現実だと有効なんだな……調べておかないと」

「確かに……今日アギーとケイタさんが言ってた魔法全部知らないかも……」


確かにWODFのプレイヤーは魔獣退治ばっかりやっているので使う事は少ないかもな……と思っている間に頭上に【レベルアップ】の文字が浮かび上がる。


「来た!」

「やった!!!」


二人がものすごく喜んでいる。

私もその様子が見れてうれしい。心なしかミサキの魂も喜んでいる気がする。


ウキウキしながら二人はステータスをふっていた。最初の時とは打って変わり迷わずにステータスポイントをふっていく。相当考えていたんだろうな。かくいう私もミサキの魂が嫌がらない限りは体力系にポイントを振らしてもらう。今回の山登りも結構きつかったからな……


それから私たちはテレポートストーンで自宅まで戻った。


「相変わらずすごいなぁ……府中から一瞬……」

「なんか行くところまで行って戻る……なんて遊びが出来ちゃうね」

「日帰りで旅行できるね……」

「ほんとに」


私が登録できるポイントは七つしかないんだけど……課金すれば増える……うーんどうしよう。ミサキのお金を勝手に使っていいのだろうか?



§ § § §



私は部屋に戻ると、今日あった事を配信ネタにできないか考えていた。

WODFでプレイヤーが使わない魔法に焦点を当てた配信だ。インターネットのWODFのWikiにのっている魔法を片っ端から調べ、覚えていない魔法を購入して覚える。

『物騒ぎな妖精』なんて地味な音を発生するだけの魔法なんて……現実だと色々できそうだものね。購入……っと。

その他にも面白そうな魔法がたくさんあるわね……


ミサキの魂がこれで配信数爆上げ! と唸っていた。


……私はこのネタで配信数が稼げると思ったが……WODFの世界ではあまり使用しても意味のない、経験値もスキルも熟練度も上がらない魔法ばかりだったので、「へー、そんな魔法あったんだ」で終わってしまった。

NPCの反応が少しあるくらいで……現実世界の様な驚きに満ちた反応はなかった。


あれ?

現実世界にあると良い魔法ばかりなのに!


WODFの世界は便利すぎるんだ!!!


カメラが自由に動かせるとかおかしいじゃない!!


何よ! 火力が全て片付けるなんて! もう少し頭使わせてよ!



……私は配信数が全然伸びなかったので疲れてそのまま寝てしまった。


§ § § §

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