EP02-08 遭難者の勘違い

私たち三人とケイタさんはバスに乗って府中の駅前に到着した。

道中もいろいろと変わったものを見てテンションが上がったが、クレオとユズラちゃんのおかげで無事になんとかなった。と思う。

道中ケイタさんが私の行動を見て怪訝な顔をしていたが……まぁ、気にすることは無いわよね。


「ついたわね。フチュウ!」

「テンション高いなぁ……」

「バスの中ではもう少し静かにね……今度は出来るわよね?」

「は、はい出来ます……」


ユズラちゃんの目がちょっと怖かったので素直に謝っておいた。感情モジュールだけでは現実では対応できないなぁ……情報量がどう見ても多いもの。それにしても目が怖かった。笑っていても怖く見えるのを初めて知ったわ。


ケイタさんが不思議そうに私たちに話しかけてくる。ん? 私にか?


「なんというか……女神様はこの世界に来てから時間が……余りたっていない感じですかね? そういう設定とか?」

「この世界に来てから……一週間くらい?」

「まだそんなんだっけ?」

「濃かったもんな……この数日」


ケイタさんは口が開いたまましばらく固まっていた。

「……不思議すぎて何を突っ込めばいいのかわからないですね……」


クレオがスマホを見ながら私たちを案内してくれる。

「あ、こっちですね」

「ちょ、ちょっとまってください……心の準備が……」


しぶるケイタさんを押しながら私たちは、ケイタさんの家の方へと向かおうとしていた。すると後ろの方から声がかかる。

「あれ? ケイタじゃん? もう着いたのか?」

「あら? ケイ君! もう! 来る時間をちゃんと……あ!」


二人は何やら買っていたものなどを後ろに隠していた。なにかしら? 


「えーっと……」

「その……」


ケイタさんはその様子を見てみるみると表情を変えていく。これは悲しい表情なのかな? すごい複雑な表情だ。


「……うわー!!!」


ケイタさんが何やら叫びながら走り出す。その場に居合わせた人間だけでなく、通行人も何事かとこちらを振り返ってみていた。


「え?」

「ケイ君??」


私はケイタさんが逃げ出すのは得策でないと思い、迷わずにストレージから『拘束用ボーラ』を取り出した後に、ハンターのスキル『投擲』を使って彼へ投げつけて足をからめとる。あれ? なんかすごい綺麗に紐が……中間アニメーションがしっかりと描写されている。さすが現実。素晴らしい表現だ。


「ぎゃっ!」


変な声をあげてケイタさんが見事につんのめって転ぶ。あれ? なんで踏ん張らないんだ?


「「「え?」」」


ほら、みんなも踏ん張らないのにびっくりしているじゃない。転んだら相手の思うつぼだから耐えるのが基本だと思うわ。それにしてもきれいに転んだわね。


「困ったわ……まさか転ぶとは」


クレオが慌ててケイタさんの方へと走っていく。


「……大丈夫ですか!?」


「あ、アギー、いきなり転ばすのは良くないわ!!」

「だって逃げるんですもの。思わず……」

「逃げるからって獲物じゃないんだから!」

「だから思わず……って……プレイヤー達は逃げる獲物には迷わずに拘束具を使うくせに……」

「えっと……あっちではそうだけど、現実世界でやっちゃダメ!」

「わかったわよぉ……」


クレオが私たちがやり取りしている間にもボーラのひもを解いていく。少し不思議そうに色々考えている様に見えるけど……なんでだろ?

「怪我はなさそう。大丈夫ですよね……本物は初めて見たな……」

「大丈夫……ちょっと痛かったけど……女神様は過激だな……ボーラでからめとられると、最後は重りが当たって痛いんだね……今度はダメージも少しは通るようにした方が良さそうだな……」

「……さすが開発者……」


私たちの後ろからケイタさんの奥さんと、浮気相手(仮)が近づいてくる。

「ケイ君? どうしたの? なんで突然走ったの??」

「……どうしたんだ? 一体??」

「……あい、いや……その……」


ケイタさんが挙動不審ね……悩み事が解決しているようには見えないわね。

私は念のため二人を『鑑定』してみる。平均的な……あれ? なんだろこれ? 奥さんのところに

【「サプライズパーティ」を企画中。旦那の40歳の誕生日を祝いたい。】って出てるわね。何かミッションに関係ある事柄かしら?


「ねぇ、ユズラちゃん。『鑑定』に「さぷらいずぱーてぃ」をするため……って出てるんだけど、「さぷらいずぱーてぃ」ってなに?」


ユズラちゃんに聞いたつもりが、ケイタさんの奥さん達が反応をする。


「え? 何で知ってるんですか?」


成り行きを見ていたケイタさんが驚いた表情でこちらを見ている。ユズラちゃんもきょとんとした後に答えてくれる。


「えっと……驚かせるためにお祝いの準備して……驚かせるのが目的? ごめん上手く言えない……」

「なるほど、それでケイタさんが勘違いして浮気していると……」


ケイタさんは驚きながらも反論をする。

「そんな、僕は見たんだ……二人が……その……ラブホ街にいくところを……」


「あ……そういうことね。歓楽街にあるドンキに行くのを見られてたのか……」

「ちょっと待ってくれ、俺たち浮気なんて……早とちり野郎め……」


「え? 違うのか?」


「違います!」

「するわけねぇだろ!」

「だって、裏でこっそりと……」

「お前の誕生日と結婚10周年をみんなで祝う予定だったんだよ!」

「……はぁ……バラしちゃうか……なんかもう、グダグダね……」

「へ? あ……そうか……もう10年か……」


あ、ミッションログが更新されたわね。【遭難者の悩みを解決してあげよう】にチェックが入った。これでミッションは終わりになるのかな? あれ?【遭難者のサプライズパーティを成功させよう!】が出た。何かしらこの連続ミッションは?


「あ、どうしよう……ケイタ……演技できるのか?」

「無理よね……だからサプライズパーティにしたのに……」

「……僕に演技求めるなんて……無理じゃないかな……」

「だよなぁ……演技できる性格じゃないもんな」

「子供たちもばあちゃんも、妻もノリノリで準備してくれたのに……」

「んだなぁ……」

「……え? 子供たちも……じじばばも巻き込んでたの?」


クレオとユズラちゃんがいつの間にか私の両脇に来て、私だけに聞こえる様に囁く。


「ねぇ、アギー。いい方法ない?」

「一時的に記憶が無くなる魔法なかったっけ?」

「……そうね『一時的な忘却』の魔法はあるけど……『魔法』が一定時間つかえなくなるだけよね?」

「……」

「現実世界で使ったら普通に記憶を一時的に消せそうね……」

「あとは私がケイタさんを一時的に操作するとか?」

「出来るのか?」

「『支配する操り人形』って魔法ね。相手の行動を一定時間操作できるわ。問題は私が彼らの家族の事を全く知らないからどういう振る舞いをすればいいかわからない事ね」

「うーん、もう少しない? 設定した記憶だけを抜き取る魔法とか……」

「あとは『酩酊する妖精』の魔法……酔っぱらう魔法ね。あとは『幽体離脱』の魔法で後ろからこっそりとおどろかせるとか……」

「……サプライズ……驚くことになるけど、それは幽霊的なびっくりね……」


クレオがしばらく考えた後に発言をする。

「……『一時的な忘却』をかけて『支配する操る人形』をかける。んでアギーが操作してビックリしたら魔法を解除……でいけないかな?」

「魔法の重ねがけはWODFでもできたから……いけるわよね?」

「多分」


「あの……女神様……」

「うわっ!」

「びっくり……」


「WODFの魔法が使えるなら『記憶の現身』を使って僕の記憶を見てください。そのあと女神様が演技していただければ……」

「わかったわ。話が早くていいわね……」

「さすが開発者……」


ケイタさんを見守る二人は何やら変な顔をしていたが、今は無視ね。

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