EP02-07 帰りたくない遭難者
私はするすると木に登ってボディバッグを手に取る。なぜか展望台のかなり先の木にひっかかっていた。クレオの話だと落ちていたものを誰かがふざけて投げたんじゃない? と言う事だったが……
「アギーすごすぎね……」
「そうだな。おそらく『レンジャー』とか『盗賊』系のスキル使ってんだろうけど……現実で見るとすごいな」
「はぁ、はぁ……私からみたら……あなた達も化け物なんですけどね……はぁ、はぁ……あれだけ動いても息切れしないなんて……しんどい、運動不足か……若さか……」
私は木の下で感心してこちらを見ている三人の元に木を伝って降りていく。
「これで最後かしら?」
「はい、ありがとうございます……あ、やっぱり現金はないですね……クレジットカードはそのままだ……良かった……免許もキャッシュカードもある」
「金は抜き取られてますか……あ、スマホはどうです?」
「あ、こっちは大丈夫ですね。足が付くのでもっていかなかったんでしょう……バッテリーはないですが……」
「電波悪いとすぐにバッテリー無くなるって言いますからね……あ、それでか」
クレオがバッグから予備のバッテリーを取り出す。マザーAIから持っていけ! と言われていたやつね。ここで役に立つ感じだったのね。って、マザーAIは未来を予測していたのかしら??
ケイタさんがバッテリーをつなぐ。しばらくするとスマホが使えるようになる。
「さぁ、家族に連絡を!」
「……」
「……やっぱりしないと駄目ですよね?」
「え?」
「はぁ……憂鬱だ……」
「家族は心配されているのでは……」
「浮気現場みちゃったんなら……」
私はケイタさんを『鑑定』してみる。パラメータなどはこちらの世界の人より高い感じだが……補足コメントの「浮気と勘違いして自暴自棄になっている」というところに注目していた。これは勘違い系というやつだろうか? 確か証拠を集めないと本人が納得しないタイプのクエストかな? ん? 誕生日が今日になってるわね。
「とりあえず連絡をしてください。ミッションが進まないわ」
「わかりました……女神様の言う事には従わなければ……くっ」
「アギー」
「もう少し落ち着く時間を上げようよ……」
二人は同情する目でケイタさんの事をみる。視線を嫌がったケイタさんは後ろを向いてスマホで連絡を始める。奥さんをコールするとすぐに出てくる。あちらの声が大きすぎて丸わかりだった。
「ケイ君! 大丈夫なの?! 連絡が付かなくて……どこいるの??」
「すまない。ちょっと……スマホの電源が無くなってて……飲みすぎて……その……今起きたところ……」
「はぁ……よかった。捜索依頼を出さないと駄目じゃないかってみんなと話をしていたの。なるべく早く帰ってきて。あ、いまどこなの?」
「……えっと……高尾?」
「タカオ?? 高尾山? の高尾?」
「……そう……すぐに戻る……」
「何でそんなところに……みんなありがとう……見つかった。そう高尾山だって……1時間くらいかも……大丈夫みたい! 間に合うわ」
「それじゃ移動するから……切るね」
「あ、はい、気を付けて。急いで帰ってね!」
クレオとユズラちゃんは疑問を口にする。
「あの……浮気しているような感じじゃなかった気がするんですが……」
「なんか、色々な人が探している感じが……」
「そうですね……何やらおかしいですね……」
「あ、家はどこなんです?」
「府中ですが……ここからだと……京王線ですね……」
「下山して……電車乗ってって、3時間コースですね」
「あ、連絡しなおした方が良いですね……一時間じゃつかない……」
クレオが何やら思いついた様で、興奮した感じで私の肩に手をかける。
「なぁ、アギー、ケイタさんをパーティに入れられないのか?」
「ん? 出来るわよ?」
私はちょいちょいっとUIを操作して近くにいるシンシツ・ケイタさんをパーティに誘う。
「え? なんですかこれ? 突然光った……え? WODFのUI??」
「あ、それをクリックして……あ、そうです」
「はい……え? えええ?? 何が起きて???」
ケイタさんが何やら混乱をしているみたいだけど……WODF開発者なら直ぐに馴染むだろう。
「入れたわよ?」
「それじゃ、ホームポイントに転移を」
「えっと……家と学校……だけしか登録してないんだけど……フチュウとやらは違うんじゃないの?」
「あ、そうか……学校の方が駅に近いか? 駅からバスの方早いかな?」
「そうね」
「……あの、一体何の話を? 京王線に行けば……」
「それじゃ『転移』するね」
「えっ?」
風景が一瞬にして高校の前へと切り替わる。私たち四人は登録先のポイントまで一気に飛べた。こちらの世界でのテストはあまりやっていなかったけど、あれくらいの距離でも大丈夫みたいね。
「……な、なにが……すごい……夢だ……って気持ち悪い……めまいが……」
「やっぱりそうなりますよねぇ」
「あ、駅はこっちですね。あとは一人で大丈夫ですよね」
「もう……なんというか……ついていけない……本当に夢なのか……情報が多い……」
私はミッションログを見てみる。【遭難者の悩みを解決してあげよう】に解決したチェックマークがついていない。多分ついていく必要がありそうだ。
「ねぇ、クレオ、どうやらついていかないと駄目みたい。ミッションがクリアになっていないわ」
「え? あ、ほんとだ……悩みを解決って……浮気かぁ……」
「浮気しない様に説得するとか?」
「それか離婚調停するのか? すごいドロドロだな……」
「あの……いったい何を??」
「あの、ケイタさん、悩みってなにかありますか?」
「悩み……やっぱり……妻と……」
ケイタさんの目に涙が浮かぶ。どうやら同行して説得する選択肢を間違えない様にするとクリアになるミッションのようだな。ケイタさんのメンタルももうボロボロに見えるわ。
「それじゃ行きましょう。ここからは……どう行くの?」
「あ、すみませんが住所を……あ、そこですか、検索しますね」
私とクレオは教えてもらった住所からルートを検索していた。
こちらの世界でもルート検索はあるんだね……ってか、家多いな? ずーっと都市なの? この世界?
ケイタさんは手持無沙汰のユズラちゃんにだけ聞こえる様に声をかけていた。
『聞き耳』スキルで聴力が強化された私にとっては丸聞こえだけどね。
「あの……一体何が起きているんでしょうか?」
「えっと……WODFでは離婚しそうな人の依頼クエストだとどうなりますかね?」
「うーん。証拠を集めて説得ですかねぇ……」
「今はそれをやろうとしているんじゃないですかね……多分ですが……」
「ゲームではそうですが……もう訳わかりませんね……」
「はい、私も頭が付いていかなくて……」
クレオが最適解を見つける。Googleってすごいわね。バス……って、あの大きな自動車の事かしら。ミサキの記憶だと良く乗っている感じね。小さいときに……
「それじゃ行こう。割とすぐだ。駅前に行った方が良さそうだね」
元気なクレオとは裏腹にケイタさんはげんなりとして後をついていく。
「はぁ……気が重い……離婚クエスト系はもう企画しませんよ……僕は……」
「作ったことあるんですね……」
「はい……過去に何度か……簡単なので……」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます