EP02-06 混乱する遭難者
私はミッションログを見てみる。
【遭難者をふもとの駅まで連れて行こう】の下に、【遭難者の落とし物を探そう!】【家族と連絡をしよう!】【遭難者の悩みを解決してあげよう】もいつの間にか追加されていた。
「……痛くないな……」
遭難者・ケイタさんはゆっくりと立ち上がる。結構身長高いのね。
……なんか見た事のある人の様な気がするんだけど……気のせいかしら? ミサキの興味が無かったから覚えてないのかな?
「泥だらけっすね……」
「着替えはさすがに持ってきてないよ?」
「身長高いから俺のじゃ無理だろ?」
ケイタさんはさっきから起きてたみたいだし、WODFの力を使っても大丈夫だよね?
私はあちらの世界ではあまり使う事のない『洗浄』の魔法を使うことにした。DirtLevel で汚れを調整できるもの以外の汚れをきれいにする魔法だ。あちらの世界だと汚れは意図しないと付かないからあまり使わない魔法なのよね……
クエストアイテムの「汚れたXXX」に使う魔法ね。使わないと報酬が下がったりするのが面倒と言われていたわね。
『万能なるマナよ。万物を構成するエーテルよ、我が魔力を糧に、このものの汚れを取り払い給え! 『洗浄』!』
クレオさんの周りに魔法陣が展開されると、光の粒子がまとわりつく。彼の衣服から泥の汚れと血の汚れなどが一気に消え去っていく。恐らく新品同様になったはずだ。
「これで大丈夫ね。さぁ、行きましょう」
私も立ち上がって先ほどの道へと帰ろうと登り始める。
? 何やら後ろで三人が見つめ合ってるな?
「「「……」」」
「……これは夢だとわかってはいるんだが……すごいな……現実で『洗浄』を使うとこうなるんだな……」
「そ、そ、そうっすね。俺も初めて見ました!!」
「で、ですね……なるべくなら言わない様に……他の人には言わない様にお願いします!」
「わかった……夢じゃないなら……君たちは神の使者だな……」
「ははは……」
「そう思いますよね……まだ夢かと思ってますから」
「そうか……」
なんだか三人とも楽しそうに?笑っているな。なんかちょっとおかしい気もするけど……
それから道に戻ろうとのぼるが……あれ? 後ろが付いてこれてない?
「あーっと……ミサキ! ケイタさんの体力だと厳しいかも!」
「へ?」
私はケイタさんの後ろについているクレオからの言葉に振り返って確認をする。
どうやら事務スキル系に偏った取り方をしているケイタさんのスキルでは登りづらい傾斜だったようだ。
私は魔法の『浮遊』『念動力』を使うかストレージの登山アイテムを使うか迷う……
「あ! ミサキちゃん! 地味な方でお願いね!!」
「え? 地味? 分かったわ!」
ユズラちゃんの指示に従い……一番地味……あの様子だと……多分光らなければいいのよね……あ、これがいいわ。
私はストレージから『縄梯子』を取り出して地面に設置をする。木の杭が自動的に地面に打ち込まれしっかりと固定される。それを確認した後に縄梯子をケイタさんの方へと投げ入れる。
うん。大丈夫みたいだな。
「「「……」」」
「……今、どこから出したんだ? この質量のものを?」
「えっと、ストレージ?」
「あ、上の道に……救助用の……うーん。色々と難しいっすね」
「そうだね……色々と難しいね……」
下の三人は顔を見合わせた後に縄梯子を伝って登ってくる。順調のようだ。登りきると変な目をしながら私を見てくる。
「……なんというか……ありがとう。そうだな……ありがとう」
「アギー……やりすぎだ……」
「ロープでよかったのに……」
「あ……そうか。一番地味……だとそれになるわね」
私は失念していた。ロープだと登りにくいかと思って縄梯子を出してしまっていた。とりあえず使ったものは回収しないとね。あそこにはもう用事は無いし。……っと回収……っと。
「「「……」」」
「……夢だな。夢……」
「あの……見なかったことに……」
「アギー、人前で使うなって……」
「なんのことかしら? もうバレているわよ? 最初から起きていたって言ってたじゃない?」
高度な人工知能の私にはわかる。ケイタさんはもう全てを理解した上で「夢」と思ってくれていることに。
「……そうなの?」
「そうなんですか?」
「……あ、いや……夢だから……なんでもいいんじゃないかな……ははは……この調子で妻の浮気も夢だったらいんだけどね……」
「!」
「!?」
「?」
「……ミッションログ……えぐいな」
「これは言いづらいわね……」
いつも元気な二人がなんかよそよそしい仕草をしている。「妻の浮気」に反応したのだろうか? お助けAIである私はよくその手の愚痴もよく聞いていたから慣れっこだわ。
「それでケイタさん。ミッションの続きをやりたいので、家族に連絡を……」
「アギー!!」
「ちょっとそれは無神経よ!」
「あ……アギー? あ、いや、その通りだ。さすがに昨日の夜から連絡もせずに帰ってないからな……浮気云々ではなくて捜索願いだされているかも……連絡を……あれ? バッグも何もない???」
ユズラちゃんがケイタさんに質問をする。
「あの、ところで、なんであんな場所に落ちてたんですか?」
「あ……えっとですね……なんというか……酔っぱらって……気が付いたら落ちてました……すいません……」
ユズラちゃんが困った表情をしているが、次の言葉が出てこない。私は助け舟を出すことに決めた。
「私が予想するに、妻の浮気現場を見て不貞腐れて深酒をしていたら酩酊してあそこに落ちたってことでいいのかしら?」
「「!!」」
「ちょっと! アギー?」
「ほんとサポートAIなのかよ……ざっくり切り込んだな……」
「……ええ、その通りです……言われるとショックですね……その通りなんですが……いや、私を助けてくれた女神にそんな事を言ってはだめですね……」
そうなると、この【遭難者の落とし物を探そう!】のミッションの意味が分かるわね。ケイタさんの手荷物を探して……恐らくその中にスマホがあるのね。それで連絡を取るのがミッションの流れね。
「さぁ! 探しに行きましょう!」
「え?」
「ケイタさんの来た道たどって探すの?」
「なんかいい探索スキルとかない?」
「魔法探知とか?」
困ったわね……確かに来た道をたどって探すとしても……結構広い範囲ね。どのスキルを使えばいいのかしら?
私が迷っていると、目の前のケイタさんが自分の髪の毛を抜いて私に渡してくる。
「初級魔法に『探し物のお告げ』があるからそれを使えばいいよ……WODFでは……だけどね……まぁ、夢だし……使えたりしそうだよね」
「あ、そうか!それだったらスキル次第ではにミニマップに表示されるわね!」
「……あるのか……」
「あるんだ……」
「さすがWODFの開発者……」
ユズラちゃんのつぶやきにケイタさんが反応をする。
「え? なぜ私が開発者だと知ってるんですか?」
「あ」
「アギー、渡し忘れてる」
「あ、そうだったわね」
私はケイタさんに社員証を手渡す。彼は納得するが疑問の表情を浮かべる。
「一応かなり大きな会社で色々なプロジェクトがあるんですが……まぁ、一番有名なゲームだからそう考えるか……」
突然、パーティチャットにメッセージが届く。ユズラちゃんからだ。
【社員証からだと所属部署が分からないかも……ごめん。しくじったわ】
【なんかもう、色々とバレてるから夢だとおもってやるしかないんじゃない?】
【マザーAIの無かったことにする機能つかってもらうしかないね】
私もここまでバレてしまっているのだから、とりあえず彼の前ではWODFの力を全部使っても問題ない気がしていた。
早速、ケイタさんの髪の毛を媒体にして『探し物のお告げ』の魔法を使用する。ミニマップの遠い場所に色々と黄色の点が表示される。散らばっているのかしら?
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