EP02-03 クエストは人間が出すとは限らない

私たちはロープウェーの駅から離れ、クエスト表示がされている本道とははずれた小道に入っていた。

そこには木の陰にかわいい子供の猿が隠れながらこちらを見ていた。


「……かわいい」

「猿……だよな。人はどこだろ?」


クレオがミニマップを見ながらクエスト表示の「!」がどこにあるのかを探していた。

私は疑問に思いながらも子供の猿に、WODFの定番ティム用アイテム『キビダンゴ』をストレージから出してこのクエストをこなす準備を始める。


「……あれ、「!」マークが動いた?」

「ねぇ、クレオ君。もしかして……」


子供のサルが物欲しそうにしていたので『キビダンゴ』を手渡すと、受け取っておいしそうに食べ始める。これで手懐けるのは成功ね。何かを訴える目に変わったわね。クエストが進んだのかしら?

二人が相変わらず変な顔をしながらこちらを見ている。


「どうしたの?」


「……まさかその子が??」

「え、マジか、猿がクエストを???」


「もしかして……アギー、猿の言葉がわかるのか?」

「? わからないわよ?」


高性能で優秀なAIの私でも出来る事とできないことがあるんだけどなぁ……

とりあえず、UIのクエストメニューを開いて状況を確認してみる。


【高尾山の迷子のサル:親とはぐれてしまった猿の子供を親の元へと届けよう!】


「この子の親……心当たりある?」

「え?」

「やっぱり言葉分かるんじゃないか?」


私はUIを見えるように拡大し、状況を理解しきれていない二人に見せる。

プレイヤーはクエストログから色々推察してクエストをクリアするものじゃないだろうか?


「ああ、なるほど……クエストウィンドウね……」

「……確かにWODFでも困ってる猫とか馬とか羊とか牛とか……助けるもんな……」

「そうだったわね……なんで困っている……とかのクエストログは出てたね……」

「たまにクエストログに重要なヒントがあったりしたけど……今回はそれか」


私はクエストメニューの『承諾』をクリックする。そうすると子供の猿が私の腕にジャンプし肩に乗ってくる。なんか頭の中がほっこりした感じがした。現実世界はなんか、こう、心に来るものが多いかんじがするのよね。ああ、良い。

なんか……プレイヤーが良く言っていた「癒される」感じってこれのことかしら?


「すごいな……」

「いきなり懐くなんて……」

「それじゃ行きましょう……あれ? どこに行けばいいんだろ?」

「高尾山と言えば……確か……」

「猿センターがあったわね。こっちよ」


私は二人に案内されるがまま、高尾山猿センターまで行く。物凄く近かったんだけど、戻れなかったのかな?

猿センターの前の檻の中で、母親と思われる猿がこちらを見て何やら言っているようだった。


「あの猿の子供かな?」

「あ、まだ開いてないな……朝早すぎたか……」

「……勝手に入っていいのかしら?」


猿センターの門が閉まっていたので、私は別ルートを探す。正規ルートは無いみたいね。


「見つからないようにいけばいいのね?」

「そうだけど……」

「え?」


私は身体能力を強化して隠密行動をしながら猿の檻の中へと降り立つ。流石動物ね、気配を消しても何匹かの猿たちは私の存在を認識しているわね。

私は遠巻きに警戒して騒いでいる猿たちから離れ、母親の元へと子供の猿を連れていく。なぜか私の肩から降りようとしてくれない。あれ? UIに『ミニオン』のアイコンが……いつの間に私の所有物になったんだろう?

クエストログを見ると、【母親に抱きつかせよう】となっていたので、母親の近くに座ると子供のサルは母親へと抱きついていった。これでクエスト完了ね。

母親のサルが何か言っている気がしたけど、私は身体能力を強化して猿の様に檻から脱出する。


「……すげぇな……」

「猿センターから人間が猿のような動きで……出てくるなんて」

「レベルアップはしないか……ん? なんだこれ?」


クレオが何かに気が付いた様で、猿の檻の近くに「キラキラ」と光るものへと近づいていく。

「……誰かの身分証明書? なんで光ってたんだ??」

「もしかして、ゲーム的な……見つけにくいキーアイテムが光る……的な???」


「え? そんなの常識じゃないの?」


私は私を見て呆然として動かないクレオを無視し、彼が拾ったキーアイテムの身分証明書を見てみる。

「……シンケイ・シツロウさんだね……エニウェア社の人だ。WODFの開発者かも」


「……マジか」

「ほんとに開発者……いるんだね……」

「なぁ、アギー。これって、これを持ってると……探知できたりとかするのか?」


「……そう言うスキルはあるんだけれども……このアイテムだけでは無理ね」

「探知あるんだ……」

「ってか、ミニマップに猿の緑色の点が大量に表示されてるけどね……」

「たしかに……緑の点は生物なのか?」


「?? 何を言っているのかわからないわ?」


おかしいわね。二人はWODFのプレイヤーなのに……たまに話がかみ合わないのよね。

これはミッションに紐づく連続クエストだと思うのだけれども……

これは高度な人工知能である私がクエストの導線に誘導しなくてはいけないタイミングね。


「ねぇねぇ、これでシンケイ・シツロウさんの顔が分かったから、聞き込みできると思うんだけれども……」

「あ! そう言う事か!!」

「探索パートね!」

「おお、突然「?」マークがそこら中に……」

「関連クエスト??」

「行ってみよう」

「……なるほど、これが現実のミッションか……」


二人の顔が紅潮し、鼻息が荒くなっていた。もしかして現実のプレイヤーもゲーム画面越しにこういう顔をしていたのだろうか?


私たちは足早に次の「?」マークへと近づく。おじさんが猿の檻の近くで痛そうな表情をしながら座っている。


「どうしました?」

「え? 怪我ですか? 人呼びましょうか?


「……ああ、すみません、助けを呼んでくれれば……あ、ぎっくり腰をやっちゃって……そこまでではないので、ちょっと戻った茶屋のところにいる人を……」

「ん……なるほど……こう言う仕様か……それじゃ僕が背負っていきます。ロープウェーのところに行けばいいかな?」


クレオはクエストログを見ていたので、このおじさんが茶屋まで助けを呼びに行くか連れていくかの選択肢が表示されていたのを先に見ていたので、端折って連れていくことにしたみたいだ。流石ゲーマー。理解が早い。


「え、そんな……見ず知らずの人に」

「大丈夫ですよ、俺はかなりタフですからね」


クレオが軽々とおじさんを背負って移動を開始する。


「凄い体力ですね……息が切れないなんて」

「そうですよね。体力には自信がありまして」


クレオが興奮したような変なテンションでおじさんの質問に答えていた。

ユズラちゃんがクレオの事を見て不思議がった後、納得した表情になる。


「……クレオ君、体力系に全振りしたな?」


「クレオは戦士系になりたかったんだね」

「……え? この世界に戦士?? スポーツ選手……なるほど、それで大金稼ぐつもりね……」


ユズラちゃんがなにやら考え始めてるな……そんな様子を見ていると目的地の茶屋につく。

クレオが優しくおじさんを下ろして椅子に横たわらせる。


「ありがとう」

「あら? タノマチさん? どうしちゃったの? またちゃっちゃった? ありがとうねぇ。洗お礼にこの醤油団子あげるわ」


茶屋のおばさんが3本の醤油団子を渡してくる。焼きたてで良いにおいがする……


「おばさま。ありがとう!」

「え? あ、ありがとうございます」

「私たちにもくれるんですか? すいません」



私は醤油団子をほおばりながら、クエストアイテムの「社員証」をおばさん達に見せる。


「この人を見たことありませんか?」

「え? うーん、特徴的な人ではあるけど……」

「あ、昨日そこに座って醤油団子食べていったわね。なんかブツブツ言いながらだったから……なんか、ちょっと印象的だったわね……ハハハ」


奥にいた別のおばさんが答えてくれた。どうやらここを通ったのは間違いないわね……


「え? 情報それだけ?」

「クレオ君、そう言うこと言わないの」


不満そうにしているクレオをユズラちゃんがたしなめていた。

私はクエストログを見てみる。探索範囲が随分と絞られたようだ。どうやら情報を集めると居場所が分かりやすくなる系のミッションの様だ。


「上の方に行けばいいのかな?」

「やっぱり展望台に向かったんじゃないの?」

「ここからだと……そんなに遠くないかな?」


私たちはとりあえず山頂方面に手掛かりを探しに登る事にした。

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