EP02-02 現代的な山登り? 

私は目覚めた。


ん? あれ? クレオの顔が近いな……


「あれ? おはよう?」

「お、おう……」

「起きたなら離れなさい……」


私はユズラちゃんに引っ張られて姿勢を正せられる。周りを見ると「高尾山」の駅の表示があった。

すばらしい、演出スキップができたじゃないか。そうか、現実だと寝て起きる……それを演出していたのね。徒歩で移動すると数時間かかる距離を一瞬で移動できたものね。


「なんか感動しているみたいだけど、降りるよ」

「ほら立って……あ、よだれが……」


私はクレオに引っ張って立たせられユズラちゃんにいつものようによだれを丁寧に優しく拭かれる。この体に馴染んでないせいで申し訳ない気がしてきた。


私は気合の入っているクレオに先導されるがままに電車を乗り換えて次の駅へと降り立つ。

電車から見る風景からは山? というより丘陵? が連なっていた。あちらの世界の山とはだいぶ違うようね。


「とりあえずコンビニでいいよね?」

「だねー山の上の売店高そうだし……」

「そうだったっけ? 流石に覚えて無いよね……」

「小学校以来じゃない?」

「だよなぁ……懐かしいなぁ」


私は疑問に思う。山の上にお店なんてあるのだろうか? 岩だらけな上、モンスターだらけなものを思い浮かべるんだけれども……ミサキの記憶が若干薄いな……山に興味が無かったのかしら?

彼女も私と同じで興味が無いものを覚えてられない性質みたいね。


「山の上に売店? お店があるの?」

「観光地だからね。あ、ミッシヨンガイドどうなってるの?」


私はUIのミニマップとミッションログを表示して調べてみる。

「まだ該当エリアに入ってないみたい。フラグの方向は間違ってないわ」

「んじゃ、昼ごはんも買うか」

「そうね」


私は二人が何を言っているか理解できなかった。が、考えてみたらコンビニとやらも初めて入るな。ミサキとしては数え切れないくらい入ったことがあるだろうけど。エナジードリンクばっかり買っている記憶が……


私はとりあえず店員の元へと歩いていく……あれ? 商品のUIが出ないわ? 


「あの、お客様? どうしました?」

「え? そんな反応は初めてね……新しいプログラムが……」


私が迷っているとクレオが飛ぶように走ってくる。

「ああ! 失礼しました! ミサキ! こっち来て……」


私は二人に両脇を抱えられて引きずられるようにして店の端っこに連れて行かれる。

よく見ると、色々なものが手に届く範囲に置いてある。取って良いんだろうか? 


「クレオ君? アギーの行動って……店の人に注文しようとした?」

「あ、いや、違う……現実世界との違いだ……」

「どういうこと?」

「WODFでは店員に話しかけるとメニューが出てきて売買するだろ?」

「……あ、そっか……」


二人は納得した表情をしているが、連行された私にとっては全く意味が分からなかった。


「アギー、俺たちが買い物をするのを見ていてくれるかい? あちらの世界とだいぶ違うから!」

「そうよ! お店の人の前に立って売買するわけじゃないの! UIのメニューも出ないから!」

「ちょっと忘れすぎ……ってか、アギー成分強すぎじゃないか?」


「え? なんで?」


私は二人の言っている意味が分からなかったが、どうやらいろいろと作法が違うらしい。

それにしても……おいしそうなものがたくさん並んでいる……同じものをたくさん用意しすぎではないだろうか。それだけ人が多いのだろうか?


「……はぁ……んで、どれが好きなの? 食べ物と飲み物一つずづだからね!」

「あ、おやつも一袋くらいは……」


私はユズラちゃんの監視のもと、コンビニで商品を選んだあとにカゴに入れているのに驚きを隠せなかった。売買ウィンドウにドラッグしなくていいのだろうか? 不正が出来る気がするんだけど……出来ちゃう世界なのかな?

私はなぜか少しドキドキしながらユズラちゃんに聞いてみる。たまにミサキの心の反応が体に現れるようだ。


「ねぇ、そのままストレージに入れちゃえば……持って出られそうじゃない?」

「!! そ、それはだめ! 泥棒よ!」

「ん~、あ、こう言えばわかるかな? アギー、現実世界では……WODFでも敵対エリアで物を取ったら衛兵が飛んでくるだろ?」

「……そういえばそうね」

「それに監視カメラでしっかりと記録してるから、バッグに凄い速度で入れられたと思われるだけよ」

「そうだな……アギーが通った後に物が無くなってたらアギーのせいになるな……あれが監視カメラ」


クレオが監視カメラの方を指さし、位置を教えてくれる。

私はコンビニの窓の外の交番にいる警察官を見る。確かにこの世界ではそこら中に警察官がいるな。いかつい槍を持った衛兵はいないけど。現実世界でも敵対エリアがあったのね……気を引き締めなければ。


私は二人のやる事を見よう見まねでビニール袋に入った食料を調達して、「レジで購入」した後、装備させられた「リュック」につめる。


二人は私の事をずっと見てくるけど……なんか変な感じね。小さな子を見ている目ね……




私はコンビニを出た後、綺麗に舗装された道を歩く。店の間を案内されながら不思議に思った事を口に出して質問をする。


「ねぇ、私は山を探索しに来た気がしたんだけど……ここは山なのかしら? 町じゃないの?」

「……山……かな?」

「観光地だからねぇ……」

「小さいときの記憶よりも店が多い気もするね……」


観光地……なるほど。だからお店が多いのね。山はかなり先なのかしら? 道が山道にならないわ。


「「高尾山」って書いてある建物があるわ? あれが高尾山? なの?」

「……あれはロープウェー乗り場かな……一応この先に登る山道があるかも」

「……言われてみると山というより、上り坂のある公園ね……」

「考えてみると上にお寺とかあるもんな……」


WODFの山岳エリアは岩だらけだったし、『空中マウント(乗り物)』で飛んでいけばドラゴンの襲撃にあったり……など色々あって登るのに非常に忍耐力が必要だった記憶がある。スタミナが尽きて落下して死亡……なんてのはざらだったな。


「アギーが思ってるのは、たぶん……険しい山の事じゃないかな?」

「『死の山脈』だっけ? アルプス山脈みたいなやつね」


私は「アルプス山脈」はわからなかったが、『死の山脈』は転落死しながらも登ったことが何度もあったな……と思い返していた。


「アギー、目標は近くかい?」

「うーん……方向は示されているけど、探索エリア表示はまだ……こっちの方向みたいだけど」

「やっぱり山頂付近じゃないの?」

「だよね。じゃぁ、ロープウェーでショートカットするか」


私は二人に案内されるがままロープウェーとやらに乗せられる。向こうの世界でよく見るゴンドラだろうか? 小さい階段みたいな電車ね。

動き出すとあっという間に山を登っていく。流れていく景色が随分と早く感じる。

あちらの世界よりも植物の描画が素晴らしい……どれだけ良い描画エンジンを使っているのだろうか?

それにしても……山なのに乗り物があるとは……


「……この世界は便利ね……」

「普通に歩いて登れるルートもあるみたいだけど、山頂付近……がどれくらいの範囲かわからないからね」

「……あ、そうか、山頂から外れる場合が高いのか……」

「とりあえず移動は出来るだけ簡単なルートで行って、途中から山道だな」


私は移動しながらマップを確認する。ミッションをカバーするエリア表示が近づいている様だ。どうやらもうすぐみたいね。あれ? クエストもあるのかな?


クレオが目ざとくミニマップの表示を見つけて興奮し出す。ん? ユズラちゃんも驚いてるわね。

「おお!? 「!」マーク出た! クエストだよね? コレ?」

「ほんとね!!」


私は広域地図を見ながら頭の中でルートを思い浮かべる。

プレイヤーが良くやっていた手前の位置のクエストから全部やる……はこちらの世界でもやるべきだろうか?


「ミッションエリアより近いわね。こなしていく?」


「「もちろん!」」


二人の目が輝きはじめていた。現実のプレイヤーもこんな感じだったんだろうね。

二人を見ていると私は楽しい気分になってきていた。

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