EP01-16 後日談……から救援要請?

私は目覚める。


カーテンの木漏れ日が地面に当たり綺麗なグローバルイルミネーション……GIの照明が部屋を照らす。あちらの世界でよくあった照り返しの遅延処理なども全くなく、本当に描画が綺麗な世界だ……


現実世界っていいな……


私は立ち上がって学校に行く準備をする。

鏡に映った私はあちらの世界の顔と全く違うが、どこか似た雰囲気になって来た気がする。

私はミサキの意思を継いで前髪で顔を隠し、伊達眼鏡で素顔をなるべく隠すようにメイクする。……『きせかえ登録』っと。これで明日からは楽ね。


起きていると段々と頭がクリアになって思考速度が加速する。さてっと……今日は何して遊ぼう。って学校か……ミサキのためにも頑張っていかねば……明日の休みが待ち遠しい。



残念ながらミッションはコンプリート出来なかったが人助けは出来たので気分は上場だった。

レベルアップのステータスポイントの割り振りのおかげで体が軽い気がする。


私は家を出ると門の外に何かを言い合う二人が待ち構えているのに気が付く。

クレオとユズラちゃんが迎えに来ていた。ん? ユズラちゃんは……ここまで来てくれるのは初めてか?


「おはよう~」

「おはよ」

「おはよう……ねぇ、クレオ君……あなたは距離を置くべきだと思うわ?」

「ユズラ……君こそ……今まで迎えに来たことなんてなかったくせに……」


なんて仲がいいんだろう……私は二人の間に飛び込み二人の両手を抱えて引っ張りながら歩きだす。


「さ、いこ!」

「お、おう」

「♪」


「あ、俺、あれからネットで検索したりSNSもざっと見たけど、話題になってなかったな」

「うん。私もWODF入ってみたり、掲示板とか漁ってみたけど、情報なしね」


私もあれからWODFにログインして配信実況をしてみたが、コメント欄にも特に目立った書き込み名は出ていなかった。恐らくマスターAIと仲間達がもみ消してくれたんだろう。



教室に入ると恋華れんかさんがこちらの事をチラチラと分かるくらいに見てくる。何で顔が赤くなったりしてるんだろう。思わず彼女の状態を見るために『鑑定』する。……確か彼女は……うん? クレオが大好きでライバル的存在……だった気がするが、なぜか「ミサキの信者」になっていた。……どう言う事だろ? 私の実況配信でも見たのかしら?



私は既に習得してしまった授業を受けながら今後の事を考える。

割と退屈だ……授業を半分聞きながら私はこの世界でこれからどうするか、AIのプログラムを現実世界に対応すべく修正とメンテナンスとバージョンアップを行っていた。もっと人間らしく動くためがんばらないとね。


マスターAIの話だとしばらくは自由時間らしいし、今週の土日は休みとのことだ……ミサキのWODFの配信数もなぜか爆上げしていたので、彼女が計画していた無茶な配信頻度は保たなくてもPCの購入費用の借金額にはあっという間に届くだろう。


……ってことは……今週の土日は……この世界で完全に遊べるって事ね……フフフ……


思わず笑ってしまった。教師は一瞬で私の事に気が付き、次の問題を当てられた。

問題なくすらすらと答えたら教師が若干むっつりしていた。



昼時に食堂でラーメン定食を食べていた。ほんとにおいしい。「すする」と言う行為が難しかったので周りの人間のようにうまくは食べられなかったが、箸に巻き付けて食べてみた。スープに浮かぶ麺の物理シミュレーションと半透明のスープの表現に驚きを隠せなかった。こんなに細かいところまで描画負荷を上げても大丈夫なんだね……現実は。そんな事を考えているとあっという間にラーメンが無くなっていた。


食後のお茶を飲んでいると、明日明後日の自由時間の事を考えると心が浮き足立つ。体がふわふわする浮遊感……と言う奴だろうか?


「楽しそうだな」

「へへ……」


「授業中もなんか突然笑いだしてたんだよね……なんか、ミサキちゃん完全復活って感じだね」

「え? ミサキって……今もそんなんなのか? 授業中突然笑いだすの治ってないのか?」

「え? ……昔も???」


クレオとユズラが目を合わせて呆然としている様に見える。なんでだろ? 

それよりも土日の予定だ。恐らく彼らならこの世界のガイドをしてくれるはずだ。


「ねぇ、今週の土日……って明日か……暇?」

「もちろん!!」

「当たり前だ!」


二人が待ち構えていたかのように元気よく答える。

すると後ろの席にいたサッカー部がクレオにツッコミを入れる。


「おい、クレオ……明日の練習試合バックレ?」

「ほっといてやれよ……今がチャンスなんだろ?」

「それに俺にチャンス回ってくるしさ」

「たしかにな」


「……う」


クレオはサッカー部員の事を見て躊躇する。

ユズラちゃんがコーヒーを飲みながら冷めた目でクレオを見る。

「……ふーん。ずいぶん本気ねぇ……流石レギュラー確約……余裕がある事で……」

「ぐ……サッカーは大丈夫だ……帰ってから走っておく……」



サッカー部員がジトっとした目でクレオを見た後に席を後にする。

「いいねぇ……」

「俺にも春こねぇかな……」


良かったのかしら? でも私の心は既に明日の事でいっぱい……しっかりもののクレオが大丈夫と思っているんから問題ないだろう。私がこの世界の観光名所……あちらの世界で聞いた面白そうな場所を言おうとすると、頭の中に目覚まし時計の様な音が鳴り響く。


ジリリリリ!!!!


「???」

「ええ?」

「なにこれ??」


どうやら二人の頭にも鳴り響いたみたいだ。二人とも現実の警報が鳴ったと思ってきょろきょろと周囲を見回している。周りは何事も無いのを見て私の方を見る。


【すばらしい。直ぐに気が付いてくれたわね。プログラムのバージョンアップで緊急時には強制的にアラームを鳴らすように提案したの。マザープログラムはちょっと渋ってたけどね】


【さて、緊急ミッション発生。情報はミッション情報に転送しておいたのでそちらを参照して。ちょっと他のAI達の案件が立て込んでて……あなたなら大丈夫! 頑張って! モバイルバッテリーは持っていくのよ! あ、クレオ君、ユズラちゃん。くれぐれもお願いしますね!】


「え?」

「んん??」


「緊急ミッション?」


クレオもユズラちゃんも呆気に取られてるけど……あ、そうか、『パーティ編成』したままだった。夜中にメッセージのやり取りするの楽だったし、このままでいいか。ログアウトしないから『パーティ』組んだままでも解散しないから楽だね。


「な、なぁ……俺らもなんか……名前を書かれてないか?」

「うん……覚えられた?」

「……面倒見ろって事か……」

「マスターAIってアギーの親なのか?」

「発言が母親っぽかったね……」


私は二人が何やら言っているが……とりあえず緊急らしいのでUIに表示されたミッションを見てみる。


【・高尾山近辺で遭難者を発見せよ! 何やら困っているらしい! 残り時間56時間 

 WODFのスタッフの一人が遭難している模様。早く助けよう!】


「WODFのスタッフ…… ! おお クリエーター様??」


「スタッフ……ってそうなの? 事務の人とかも入るのかな? そっちはクリエーター様じゃないような?」

「遭難……なのに救助隊出ないの??」

「……ってか高尾山で遭難?? 観光地だよな……」

「……分かれ道間違えたのかな?」

「多分……それか登山ルート外に出てなんかやったとか?」

「これから起こる事なのかもよ?」

「だよな……って事は予知機能あるのか??」


私は二人が話をしている間にも文章を読んで不自然な点に注目をする。時間の設定はどっちだろう?

「56時間って、22日かしら?……それとも2日くらい?」

「え?……地球時間は24時間だから……うん、時間の減り方は地球時間みたいだね」

「……えっと……2時間30分じゃないんだ……一日が長いものね、現実は」

「確認してよかった……確かにWODFは一日がはやいもんね」

「あ、そうか、時計の回るのもあちらの方が早いのか……」

「プレイしてたら大体一昼夜過ぎてるもんね」


「よし、それじゃ、早速明日……タカオヤマに! ……タカオヤマって何かしら? どんな山?」

「……大丈夫なのかしら?」


ユズラちゃんがクレオの事を不安そうに見ているけど……なんで?


「わかった。スケジュールは立てる。朝イチの方が良いな……おばさんに連絡を……配信もキャンセルした方が良いか?」


なにやらクレオが色々とやってくれそうだ。

私はこの世界の初の冒険に身も心も興奮に包まれていた。



§  §  §  §  §  §  §  §  § §  §  §


作者より


 前話でミスっててすみません。隣の作品の文章が……コピペミスに気が付きませんでした。

 



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