EP01-14 オンライン告別式?

私は悲しみに包まれる部屋で慌てAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんを『鑑定』する。

白血病……末期。と出ていた。『健康ポーション』を使おうとしたが、病気のランクが『高い』と表示されているな……

自分のストレージを探して……う~ん。中位までの健康ポーションはあるけど……高位のは無いな……

困ったぞ……


私の聖属性魔法で治せるのも中位までの病気だ。高位のものはストーリーに絡むことが多く、何かしらの条件を満たさないと治せない場合が多い。それがまさに今だ。


私が悩んでいる間にもノートPCではAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんがTenkaHubuてんかふぶのギルドメンバーに弱弱しい声ではなしかけていた。


「ありがとうございました……今まで」


PCの方からも音声が聞こえる。そちらからは驚きと悲しみがこもった声が聞こえてくる。


「嘘だろっ……ただ引退するだけなんだよな? なっ?」

「そんな……ギルマス……」

「まじかよ! そんなっ……」

「死なないで……」


副ギルドマスターの一人、HakataHimikoはかたひみこさんが前に出てくる。

この前、私が質問をしたら快く答えてくれた人だね。


「あの……治らないんでしょうか……本当に……」

「うん……白血病だったんだ……隠しててごめん」

「そうですか……白血病……」


「最後に……好きな事やらせてくれるっていったから……WODFを選んだんだ。現実と違って自由に動ける。楽しかったよ……みんな。ありがとう……動けない僕と……遊んでくれて……」


AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんの弱弱しくも力強い声を聞いた母親と恋華れんかさんが堰を切った様に泣き始めてしまう。

その声がPCの向こう側の人間にも届いた様で、本当の事だと認識したみたいだ。


続々と画面の向こうにWODFのプレイヤー達が集まってくる。


「おい、本当みたいだ」

「まさか……ニュースで聞くだけかと思ってた……」

「ギルマス……」

「おい、フレンドに連絡を……」


あちらでもパニックになっているようだった。



私は慌ててマスターAIに連絡をする。


【マスターAI。どうしましょう? AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんをこのままだと復帰させることはできません! 死んじゃいますよ?】


……返答がないな……肝心な時に。何時もはすごい勢いで返事が返ってくるのに。


そうだ! 良い事を思いついた! 高位の状態異常を治す薬さえあれば!!

私はすぐにパーティチャットでクレオとユズラに連絡をする。


AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんが死にそう。高ランクの健康ポーション持ってない? ってか高ランクの『健康ポーション』をオークションで落とせない?】


【なんで? 死にそうなんだろ? 無理なんじゃ?】

【もしかしてアギーなら使えるんじゃないの、スマホアプリのWODFオークションサイト見てみるね……】

【高ランクの『健康ポーション』なんてあったかな……ちょっとググってみるわ!】


私は何か手段が無いかを考える。高度な人工知能の私……なのに名案が浮かばない……

私はネットワークから隔絶された今の状況に絶望をする。あちらの世界にいれば仲間のAI達に連絡を取って……なんとかしてもらえるのに!!


【高ランクの『健康ポーション』ってのはないみたいよ!】

【ギルドのレイド戦で使う『万能霊薬』それか超レアの『エリクシール』を使うしかないかも】



レイド戦……たしか高ランクのギルドだったら持っているはずだ……かなり貴重なモノかも……

連絡手段を……ログインしている時間はない……今ならAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんアカウントであちらのギルドメンバーに声をかけられる。音声もヘッドフォンマイクじゃなくてノートPCのマイクみたいだ。


私は意を決してあちらの世界の副ギルドマスターの一人、HakataHimikoはかたひみこさんに声をかける。


「ハカタヒミコさん!『万能霊薬』を持っていないかしら?」


「「「え?」」」


隠密状態から突然現れた私に病室にいた四人は本気で驚いていた。

驚かせて申し訳ないが非常事態だ。無視して私は案件を実行する。


「その声は……ネコヤカンさん?? なぜそこに??」

「その話はあとで! 持っていませんか?『万能霊薬』 本気でAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんが死にそうみたいなんだけど!」


「持っていますが……」

「それをAGI078に送って!!」


恋華れんかさんは私の顔を見て驚きを隠せなかったが。なぜか私をみて打ち合わせをしたかのように私を援護してくれる。


「すみません! ヤマトの姉です! 私からもお願いします。この人は不思議な力を持っているんです!! お願いです!!」」


AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんの母親からも何故か援護をもらう。


「私からもお願い致します! 息子を……ヤマトを……この人は……猫ちゃんの病気を治したんです……」


あ、この前の猫のクエストの人だ。確かに腎臓を患っていた猫を『健康ポーション』で治していったな……画面の向こうのWODFのプレイヤーも戸惑っている様に見えるな……どう進めればいいんだろ?


「……何を言ってるんだろ……」

「なぁ、最後なんだ……ギルド長への手向けと思って送ろうよ……」

「……わかりました。AGI078って、……サポートAIなんですが、そちらでいいんですか?」


なぜか話が通じた。思いの力ってのはすごいものね。


「それでいいの! お願いします!」


AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんは呆気にとられながら画面と、現実で囲まれた人たちを首を重そうにしながら見回す。


「……いったい何が……」


私はHakataHimikoはかたひみこからのメールに『万能霊薬』が添付されているのを確認する。

慌ててストレージに移動させて、ストレージから『万能霊薬』を取り出す。


「え、どこから……ば……『万能霊薬』……本物?? 入れ物が……本物だ!」

「はい、ちょっとだけ口を開けてね……」


私は驚くAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんに『万能霊薬』を飲ませる。最初は少しむせた感じだが最後まで飲み干していく。

そうすると彼の体が神々しく光って輝きだす。

あちらの世界の演出と同じね。


「え。え??? えええええ??? なにこれ? 光ってる!」

「成功の様ね……」


光が収まると、AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんに繋がっていたチューブなどが自動的に外れ、抜けていた毛などもしっかりと生えて健康な中学生くらいの男子になっていた。


「すごい……やっぱり……」

「ああ……神様……」

「……そんな……あり得ない……」


「え……苦しくない……痛くない!」

「ヤマト! やまとぉ!!」

「ヤマト!!!!」


恋華れんかさんと母親はAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんを抱きしめる。看護師は首をフルフルしながらも何やら確認を始めていた。ノートPCごしのWODFの世界の人間たちも何が起きてるのかわからずにパニックになっていた。


「なにがおきてんだ??」

「会話の内容から……『万能霊薬』が使えた……んだろうけど……」

「現実で???」

「そんな馬鹿な!!」


私はふと我に返る。あちらの世界の力を使いすぎた上にばれてしまっているな……困ったな。

とりあえず姿を消して逃げるか……


私は室内の人間の意識が反れている間に『気配遮断』と『認識阻害』の指輪をはめなおして姿を消し、その場を『忍び足』を使って部屋を出て仲間のところへと向かった。


§ § § §


WODFのTenkaHubuてんかふぶのメンバーはAmaterasuあまてらすYamatoやまとのキャラクターから聞こえる複数の人間の本気の歓喜の声に戸惑っていた。


「……なぁ、ほんとに何が起きてんだ?」

「分らないわ……ただ……AmaterasuあまてらすYamatoやまとが元気になったのだけはわかるわ」

「……『万能霊薬』って、現実に持って行けたのか?」

「……そんなわけないでしょう……」

「この事他の人に話したら信じてもらえるかな?」

「無理だろ……」


HakataHimikoはかたひみこは新規メッセージが届いているのに気が付く。


「ほら、運営から『万能霊薬』が届いたわ。間違いだったのよ」


「……だよな。まぁ、あっちで何かが起きて……治った……んだろうな」

「復帰すると良いね」

「んだな」


HakataHimikoはかたひみこは白血病が直ぐに治る病気じゃないと知っていたので、これは夢だと思っていた。


TenkaHubuてんかふぶのメンバーたちは、なぜかAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんの病気が治った話に参加していたと思い込み始めていた。


§ § § §


恋華れんかは目の前の愛する弟が昔の姿に戻ったのを見て感動をして落ち着いた後、ミサキのいた方を振り返る。


「ミサキさん……ありが……あれ?……いない……」

「えっと……え?」

「……さっきのお姉さん……いない……」


家族がが混乱する中、看護師はヤマトの様子を軽く見た後に席を立つ。

「……おかしいですね……顔を見たはずなのに……顔が思い出せませんね……先生呼んできますね!」


「姉ちゃん、さっきの人……顔を思い出せないんだけど……」

「うん……そうだね……顔が……ミサキさんだと思ったんだけど……ミサキさんだったのかな……あれ?」

「そうね……猫を助けてくれた人だと思った……けど、違う人よね。何か違うような気がするんだけど……」


三人は『認識阻害』の影響か、彼女の顔が思い出せない状態になっていた。


§ § § §

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