EP01-13 病院潜入

ここが病院……大きな建物ね。領主の館より大きいわね……ミサキの記憶だと総合病院というものかしら?

記憶をのぞいて見ても……中に入った記憶が無いわね。不摂生で死にそうだったのに。病院に行ってなかったから死にそうだったのかな?


「それで、アギー。どうするの?」

「ユズラちゃんは警察が来たらパーティチャットで知らせて。クレオはパーティチャットで地図を見て私をサポート……」


クレオが疑問の表情を浮かべる。戸惑っている感じだな。


「……わかったけど、なんで俺が地図みるんだ?」

「……アギーのキャラクター付けで『方向音痴』って設定が入っているせいで迷うのよ! 勝手に!」

「……わかった。そうか個性をつけるための性格付けがAIの能力に影響を……って、あの、俺たちがどうするか。じゃなくて、アギーがどうするか聞いてないんだけど?」


何を分かり切った事を……と私は思った。建物があれば「違法侵入したくなるのはプレイヤーの性だ!」と人の家に入って宝箱やツボをあさる人達なのに? あれ? なんか……私と私の常識が戦い始めてるけど……今は無視ね!


「? もちろん、潜入よ?」

「やっぱり忍び込むのね……不法侵入的な感じな気がするんだけど……」

「潜入ミッションってやつね!」


私はあちらの世界の盗賊のスキル『気配遮断』を使用する。

プレイヤーは忍び込んでから後ろでグサッと敵を刺すのが好きだったらしく、それに付き合わされた私は自動的に『気配遮断』のスキルを使用する頻度が高かったため鍛えられていた。

さらにストレージから『認識阻害』の指輪を取り出して指にはめる。これは良く敵に見つかる私を心配したプレイヤーが渡してくれたもの。「頼むからつけてくれ!」と懇願されてつけたっけ……あちらの世界では指輪を送ることは愛の証って設定があったのでしぶしぶ付けたのを思い出すわ。

これで攻撃行動さえしなければ……相手の『気配察知』『敵意感知』などの高レベルな『感知』スキルが無ければ気が付かれないわね。準備万端ね!


「……え、あれ……なんか……消えた?」

「あれか、『隠密』……ってやつか……あれ、足音は聞こえるな……WODFでもできたのか……」


WODFにおいては、姿を消す事は出来るが、音は完全に消せない仕様になっていた。消す場合はそのエリア全体の音を消すしか方法が無かった。……完全に存在を消した状態での不意打ちは出来ない仕様だった。なんでも運営的に「卑怯すぎる」とのことだった。そう言えばオフラインゲームだと出来るのに……とぼやいているプレイヤーがいたな。


姿を消した相手には音か温度で見分けるスキルがあれば簡単に看破できていたな……温度感知のある『リザードマン』には効きにくい仕様だった。その他にもセンサー付きの種族には気を付けないとだめだったな……この世界にはいない……よね?


私はパーティチャットに入力をする。


【ではいってきます。クレオ。ガイド宜しくね!】

【任せろ。ってかこの、メッセージが届く音は大丈夫なのか?】

【大丈夫。これはプレイヤーにしか聞こえない音よ】


私はなるべく足音を立てない様に、盗賊の『忍び足』のスキルを駆使して移動を開始する。


「すげぇな。見えないのにパーティ編成をしていると仲間の移動が地図に表示されるのか……WODFと同じだな」

「地図表示もすごいね……移動したところに地図が表示……あ、病院の見取り図出すね……」

「お、せんきゅ」


後ろの二人もしっかりとサポートをしてくれているようだ。

彼らの視線の先にいる人間の位置情報もミニマップに表示される。これならユズラがパニックになっても大丈夫だな。


私は病院の入口を素通りする。門番的な人は……この世界にいるわけないか。

待合室も特に誰も気が付かずに……と言うより周りをきょろきょろしている人なんていないな……みんなうつむいている。スマホを見たり、受付の人は事務処理をひたすらやっている様に見える。

私は移動していると受付の裏にある監視カメラが表示されていることに気が付く。自分の姿がしっかりと映っていることに驚きを隠せなかった。人には気が付かれないのに……やっぱり機械だと見えるんだね……私は監視カメラになるべく映らない様に自然に歩いた。


するとUIのチャットログにパーティメッセージが届く。


【ちょっとまって! そっちは違う! 一般診療の方向だ。逆だよ、逆】


私は逆の定義が良くわからなかった。立ち止まって周りを見るが、どちらから来たかよく理解できない。病院ってどこも同じに見えるんだよね……


【逆とは……こっち?】

【そっちは今いっていたところ!!】

【難しいわね……】

【……あ、ユズラからのアドバイス来た。看護師さんの後をついていって。あってたらGOって送るから】

【分かったわ】


私は廊下を慌ただしく行きかう看護師の後ろにこっそりとついていく。

【逆! 違う人についていって!】


駄目だった様なので、違う看護師さんの後ろに付く。


【GO!!!!!】


なるほど……こっちか。わからないな……ユズラのアドバイス通りに看護師さんについて行くと、あっさりと入院病棟へと潜入を成功させる。私に必要だったのは方向感覚だったようだ。

病棟は部屋の数も多いが、どこも本当に似た感じの部屋だ……中にいる人の数も物凄い。『気配察知』をしてミニマップに人の気配を表示させると……なんかすごいことになってるな。人だらけだ。


私は看護師の後ろについて、片っ端から人間に『鑑定』をかけていく。名前の脇にWODFの名前が表示される人がいるな。思った以上ににいるんだね。割と若いおじさんくらいだとWODFをプレイしてくれているんだな……お年寄りは全然プレイしてくれていない。そういえばプレイヤーは50歳より若い人……って統計が出ていたな。と、すると、AmaterasuあまてらすYamatoやまとさんは若い人なのかな?


それにしても、病気の人が多いな……ちゃんと治療しているんだよね。病院のベッドに横たわらないと治らない仕様なのだろうか? あちらの世界だと医者が出てきて薬を渡すとすぐに治るのに……何で直ぐに治さないんだろう?


私はこっそりと『健康ポーション』を寝ている人の口に数滴たらしながら移動を続ける。下位の病気ならこれくらいで治るだろう。

うん。息苦しそうな感じがしなくなった。ステータスを確認しても重度から軽度に移行した。

……こんなことなら『健康ポーション』を量産して入れておけばよかった。

プレイヤー達の病気耐性が上がりすぎて、高レベル帯ではあまり必要なくなるからな……何人かは『毒』状態だったので、『毒抜きポーション』をたらしておく。こちらも少し口に入れるだけでみるみる顔色が良くなっていくな……現実の人間は『毒耐性』のスキルを上げるために治さないで耐えているのかな?


私は移動しながら治療と『鑑定』を続けていると、目の前にクラスメイトの恋華れんかさんが沈んだ表情でノートパソコンを脇に抱えながら病室に向かって歩いているのを発見した。私は彼女も『鑑定』してみるが、残念ながら彼女ではなかったようだ。


私は彼女の後をこっそりとついていく。

彼女は病室に入ると、ベッドに寝ている一人の中学生の男の子の前に立つ。彼にはよくわからないチューブが巻き付いていて……頭にも包帯の様なものを巻いてるな……体毛が少なく見える。この世界の病気の表現だろうか? レトロな機械の画面が波打つような表現をしている。


傍らには大人の女性が二人。おそらく母親……どこかで見たような気もするな……なんだっけ?

あと一人は看護師ね。ナース姿……とやらをアバターに着せて楽しんでいる人がいたな。そういえば……


母親も暗く沈み絶望した目で恋華れんかさんを見ていた。

色々と疑問に思っている間にも恋華れんかさんはノートパソコンをベッドの台に置く。教室では見せなかった暗く沈んだ、悲しい雰囲気を纏っている感じだった。


「ほら。持ってきたよ……」

「……ありがとう……お別れ……言えるよ……」

「あ……私が……操作するね……」


恋華れんかさんの目が潤み、震えた手でノートパソコンを操作する。男の子はアカウントとパスワードを彼女に伝えていた。「パスワードは人に教えちゃダメです」ってAI仲間が頑張って注意して回ってるのになぁ……

どうやら彼はWODFにログインをしようとしていた。


私は見たことも経験したことも無い部屋の雰囲気に呑まれたのか、その場を観察し続けていた。


私は画面が見える場所まで移動すると……キャラクター選択画面で驚く。



彼が「AmaterasuあまてらすYamatoやまと」さんだった。






§ § § §


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る