EP01-04・ハジメテノ教室と授業

§ § § §


私はクレオの案内もあり、自分の教室へとたどり着くことが出来た。

しっかりと脳内で表示されるUIにもマッピングされているから、次からは迷わずに来られると思う。が、私の方向音痴設定と、ミサキの変な方向感覚に引っ張られ所々おかしい気もしている。彼女も方向音痴だったのかな?


教室内はあちらの世界の魔法学校の様なデザインをしていてびっくりした。元々はクリエーター様が住んでいる世界のものだから……こちらがオリジナルかな?


私はクラスメートと思われる人間と挨拶をする。心なしか相手が驚いている気がした。私は不安になったので後ろを振り返るとクレオの手の合図で自分の……ミサキの席を教えてくれるので着席する。彼もうなずいているからここで良いんだろう。彼は違うクラスの様で、ドアから離れて行った。

すると、すぐさま女子軍団が私を取り囲む。


崖淵がげぶちさん……さっきの、カクタ君と付き合ってるの?」

「確か同中だったよね?」

「一緒に登校? 偶然?」


私は「がけぶち」の発音が分からずにしばらく戸惑ってしまう。高度な人工知能である私はミサキの記憶をたどってみる。何のことはない、ミサキの苗字だった。名前が二つある世界なんだね、ここは。私は一つなのに。

サポートAI時代の記憶によると、ここは波風を立てない発言を求められているはず。女子関係は複雑らしい。苗字呼びをして距離があることをアピールするんだったね。たしか。


「カクタ君とは付き合っていないわ。体調が悪くて倒れたのを助けてもらったの。私の部屋で。朝は彼が家まで迎えに来てくて送ってくれたわ」


「……!」

「えええ??」

「マジ!!」

「ちょっと!! 恋華れんかに知らせないと!!」


彼女たちの反応が何やらおかしい。事実を並べただけのはずなのに……

なんでキャーキャー言っているんだろうか? 


「何の騒ぎ? 着席してーHRはじめるわよ」


恐らくこの学校の先生らしき大人が教室に入ってくる。

これが教師ね。一部プレイヤー達が熱狂的にあがめる「女性教師」ってやつね。

アラサーくらいかしら? 皮膚のしわのテクスチャがとてもリアルに描画されているわ。振る舞いが凛々しい感じね。


私はクレオに言われたとおりに、周りにばれない様にしながらクラスの視界に入った人間を『鑑定』していく。もしかしたらAmaterasuあまてらすYamatoやまとさんがいるかもしれないし。

鑑定を進めていくと、ミサキのステータスがそこまで低いものでもないことに気が付く。

この世界の人間はレベル上げやステータス上げ、スキル上げなどをしないのだろうか? 

殆どの人間が「大学受験」のスキルを持っていて、ほかには音楽や運動系のスキルを持っている人間ばっかりだった。戦闘系……生産系のスキルは必要のない世界なのかな? あちらのNPCのAGI達は10歳以上の設定になると、働いてスキルを獲得していく設定だったのに。


「こら崖淵がげぶち、どこ見てるー? 余裕あるならこれ解いてみて」


私はクラス中を見回している最中に教師に声をかけられたようだ。笑い声が教室から巻き起こる。私の行動がばれたのだろうか?

ふと気が付くと、プロジェクターには数学の式が書かれていた。

魔法学校の授業みたいなものだろうか? 私は持たされた手元のタブレットを操作して、教師と同じように手書き風に答えを書いていく。これなら学習する前のAIにも組み込まれているレベルの数式だ。簡単なものね。


「……すごいな崖淵がげぶち……いつの間にこれを解けるようになったんだ……正解だ……字もきれいだな……」


驚く教師だったが、私は何に驚いているのかを理解できなかった。周りの生徒たちもどうやら驚いているようだった。


「すごいわね、崖淵がげぶちさん。数学苦手だったのに……」

「やべ……俺がビリになりそうだな……」


私は違和感を感じ、自分の「ミサキ」のステータスを見てみる。恐らくだが、右の数字が私の本来の数字。左の( )に囲われている数字が「ミサキ」の数字だろう。かなりの開きがある。

「大学受験」の箇所のタブを開くと「数学」と言うスキルがあった。確かに「数学」だけ他の「大学受験」スキルの半分くらいのステータスになっていた。試しに教科書をペラペラとめくり数式を記憶していく。そうすると「数学」のスキルのバーがかなり上がっていた。どうやら単純に勉強をしていないだけのようね……読むだけで上がるのに……

私はあちらの世界では書物を読む……いや、「見る」だけで魔法を使えるプレイヤーを憧れの目で見ていたのに……この世界では違うのだろうか……


§ § § §


数学の授業が終わると、なんとなく「ミサキ」の雰囲気に似たメガネの女の子が話しかけてくる。地味な恰好をしているが、中身はどう見ても美人系だな。彼女も配信系のゆーちゅーばーなんだろうか?


「ミサキちゃん、すごかったね。いつの間に勉強してたの? ってか大丈夫? ……昨日SNSで倒れたって話題になってたよ?」

「そうね。倒れてクレオに助けられたみたい」

「あ、やっぱりあの一瞬映った男性……クレ……カクタ君だったんだ……炎上してた……って……距離とりたいって、苗字呼びにしたんじゃなかったの?」


高度な人工知能の私は話の内容からミサキの親友レベルの人間と判断する。……ミサキの記憶をたどってみるとすぐに結果が出る。ユズラね? サブカル好きの俗にいう「腐女子」的な趣味を持つ人間。私の正体を隠した配信の事も知っている数少ない人間ね。大切にしないと駄目な人ね。


「忘れてたわ。昨日倒れてから色々あって。高度な人工知能のアギーがミサキの中にダウンロードされたの」

「……お、おう? なんかすごい設定ぶっこんで来たね……ここは突っ込むところかな?」


「……本当なのだけれども……クレオからは学校ではあちらの世界の力を使うなと言われているわ……なので証明は学校を出てからね」

「……あれ? 喋り方が……いつもと違うね。なりきりキャラ状態なのね。配信の時との差つけなくていいの? 喋り方が……配信の時のミサキ……ネコヤカンみたいじゃない?」

「そうだったのね」


私はミサキの記憶をロードしてみる。確かに教室ではもごもごと聞こえないくらいの声の大きさでしゃべって、注目を浴びない様に演じていた様だった。今はハキハキとしゃべりすぎかしら?

たしかにユズラはステータスはサブカルや知識系に全振りしてる印象ね。クレオみたいにバランスをとりながらアートのスキルを上げているタイプと違う答えがあるかもしれないわ。


「ユズラくらいこの世界の知識があれば……ねぇ、WODFのハンドルネームから現実の住所って割り出せないかな?」

「ん?? なに、ついにオンラインで恋愛しちゃった感じ?? 多分相手はおっさんの可能性が高いんだぞ?? カクタ君にしておけって、イケメンじゃん」


私はクレオがイケメンと言う事を認識した。イケメンとは顔がカッコイイとかそういう意味だったはず。この世界の美醜についてはよくわからないな……ミサキだけでなく私のアートスキルも上げていかねば駄目なようだ。


「なるほど……あれがイケメンなのね。それはさておき……検索する方法を……」

「……ちょっと可哀想になるわね……あ、それはわからないかも……ネットでググるしかないんじゃないかなぁ? それ以上の情報は知らないよ。WODFの制作会社に問い合わせても門前払い……だろうしねぇ……」

「知らないのか……残念ね」


私は思った以上にプレイヤーの「本体」の捜索活動の指名が高難易度なのを認識した。これは長丁場になりそうね。







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