EP01-03・ハジメテノ登校
§ § § §
クレオは翌日少し早く起きてミサキの家へと行く。少し緊張しながらチャイムを押す。
母親が疑問の表情を浮かべながらドアを開けてくれる。
「おはようございます」
「え? おはよう。クレオ君どうしたの?」
「ああ、えっと、アギー……ミサキが起きれているのかちょっと気になりまして……」
「あ! そういえばそうね。ちょっと待ってて! おかしいわね……いつもはすぐに起きるのに」
母親は慌てて部屋に戻る。何やら騒がしい言い合いの様な事をしながらミサキが制服を着せられ、髪をとかされた状態で押し出されてくる。何時もと違って眼鏡をしていなかった。
§ § § §
私は母親にたたき起こされ、服を着させられるとバッグを持たされて玄関の外へと押しやられる。
外ではクレオが待っていてくれたようだ。
UIからの着せ替え機能を使えば一瞬だった気がするが、この世界では着替えるのは手動でやる作法があるのだろうか? 郷に入っては郷に従えだったっけ……とりあえず面倒なので『お気に入り登録』しておくか……
「おはよう……アギー?」
「……おはよう。クレオ。現実世界は……辛いのね。朝がこんなにつらいなんて……起動したらすぐに頭が動かないのね……」
「アギー……か……ってか大丈夫?」
「頑張って慣れるわ……ミサキの体はステータスが低いから厳しいわね……」
「……ステータスなんて見れるのか……眼鏡無くても見えるのか?」
私はミサキの記憶をたどり、彼女が目立ちたくないが故に伊達眼鏡をしていたのを知る。
「あれはファッション用の眼鏡みたいね。無くても隅々まで高解像度で見れるわよ?」
「そ、そうか……高解像度……ね……あ、その……もしかして、もしかするんだけど……ファストトラベル出来ない?」
私はクレオが一瞬何を言っているかわからなかった。少し記憶をたどってみる……
「ファストトラベル……ああ、あれね。オフラインゲームで一瞬で街に戻れたりするやつね。近いものはあるけど無いわ。初期のころはプレイヤーからの問い合わせ多かったわね……」
「……残念……どこでもドアみたいにはならないか……」
「あるのはテレポートストーンだけど……」
「! あるのか!!」
私はあちらの世界で使っていたテレポートストーンをストレージから出してみる。一度行って登録した地点へはクールタイム45分で何度も使えるプレイヤー救済型のアイテムだ。課金すると時間を短縮したり何個も買える仕様だったな。
「……使えるの?」
「行先が……無いわね……登録しないと駄目みたい。あ、ホーム設定しておくわね」
「お、おう……すげぇな……帰りは一瞬じゃん……」
私は疑問に思う。普通に生活していれば必須アイテムなのに、なんでだろう?
「? なんで使わないの? 課金してないとか?」
「え? 課金すれば使えるのか???」
クレオが悩み始める。すると玄関を開けてスーツを纏った母親が大きな声で怒鳴る。
「え? あんたたち! 何やってるの! 遅刻するわよ!」
「あ、やばい、行こう!」
私はクレオに置いて行かれない様に頑張って歩く。が、この体、やっぱり性能が低いようですぐに苦しく息切れをしてしまう。あちらの世界で演技していた息切れと違って、本気で痛いように苦しい。こんな世界でクリエーター様はゲームを生み出されていたのか。
「はぁ、はぁ……」
「あ……ちょっとゆっくり歩く? すごい息切れしてるけど……」
「……はぁ、はぁ……問題無いわ……苦しいのね。動くって……」
「……ねぇ、息継ぎ……ってか息の仕方間違えてない?」
「……あ、そうか。この世界では酸素を上手に取り入れないと駄目だったわね……ちょっと待ってて……」
「え、遅刻しちゃうよ?」
「あなたにターゲットをロックしたから自動で歩くはずだわ」
「!? そんな事まで!!」
クレオは半信半疑な感じだったが、私の前を普通に歩いていく。私は連れられて勝手に歩きだす。
その間に頭の中でメニューを開いてAI達専用のメニューを開いて呼吸モジュールを調整する。しばらくすると快適に息が出来るようになって普通の状態になった。それにしても苦しかった……
信号待ちになると彼は振り返って私の事を確認する。
「大丈夫になったみたいだな……なんかすごいシステムなんだな……」
「そうね、あなた達人間と違ってプログラムが必要だから……かしら?」
私は移動しながら疑問に思った事を口にする。
「ねぇ、クレオ。私はあなた達の学校に行く必要があるのかしら?」
「……え? だって体は……ミサキだろ??」
「そうだったわ。この体にいる以上は教育を受ける義務が発生するのかしら?」
「……多分?(高校は義務教育じゃなかった様な?)」
私は高校とやらはどう言う場所かは知らないが、殆どのプレイヤーが行きたくない、友人関係が嫌だ……試験が嫌だ……大学受験が嫌……など愚痴をよく聞いていた。私は高校とやらがかなり面倒で嫌な場所だという認識になっていた。ミサキの記憶を見ても早く家に帰って実況したい! となっていたからなおさらだ。
「……行きたくないなぁ……」
「やっぱりミサキじゃないの? アギーって、WODFでポジティブで人気の子なんだろ?」
「え? 私を知ってるの?」
「帰ってからググった。貸し出しランキングトップ10に入ってる人気キャラだったんだね。あ、現在「遠征中」……ってなってたよ。」
「なるほど、今はそんなステータスになってるのね……確かにお出かけしているわね」
私はこの美しい現実の世界を見回す。するとクレオの横に並びながら歩いているとジロジロと見てくる視線に気が付いた。彼、彼女たちも同じ制服を着ているから同じ高校なのだろうか?
クレオが視線に気が付いた様で、私にアドバイスをしてくる。
「あ……ちょっと……髪、いつもみたいに降ろした方が……」
「え? あ……ミサキの記憶と違う髪をセットしてあるわね……」
「そうだね……目立ちたくないって、言ってたから……」
「そうか、それじゃちょっと変えるわね」
私はアバターメニューを表示し、髪の項目を開く。私のWODFの記憶と比べると種類がとても少ない。どうやらミサキが過去にしたことのある髪型が表示されているようだった。
私は、ミサキがセットしていたであろう「地味で目立たなさそうな髪」……目を隠すような髪型のアイコンを押す。
一瞬で髪型が変更される。うん、なんか視界が悪くなったんだけど……ミサキはいつもこれなのかな?
「!!!! マジか!!!」
「これで良いのよね?」
「……お、おう、いいとおもうぞ……ほんとすげぇな……やっぱ夢なのか……ってか寝て起きたよな……俺……」
周りでジロジロ見ていた人間も一瞬呆気に取られている様に見えた。アバターの表示切り替えなんてプレイヤー達はお手の物だろうに。何が不思議なんだろうか?
そんな事を考えているとクレオの隣に男子高校生が近づいてくる。
「お、クレオ! ついに地味子と一緒に登校か?」
「おいよせよ……失敬な……ミサキだろ……」
「悪い悪い。なんか雰囲気違うな……背筋も伸びてるし歩き方もなんか……動きが硬い? もしかしてお前ら……付き合い始めたとか?」
「ちげぇよ! 体調悪いんだよ! 昨日から!」
「……大丈夫そうだけどな、何時もより顔色良さそうだし」
男子高校生は私の事を上から下まで見てくる。ミサキの記憶をたどり彼の情報を収集する。
「えっと、あなたは……リキヤ君ね」
「え?」
「お??」
「……なんで下の名前を……俺だってやっと昨日久々に……」
何故かクレオが悲しそうな複雑な表情をしている。高度な人工知能のは、この一日で学んだ。喜怒哀楽があちらの世界よりも微妙な感じで柔らかい表現をしていると。
「どうしてクレオが悲しい顔をするの??」
「……ん~君たちが複雑な関係なのはわかった。まぁ邪魔はしないから大丈夫だ」
リキヤ君は話の分かる人の様ね。私もクレオがどう思っているかは理解しきれなかったわ。
リキヤ君が私たちから離れて違う人に話しかけにいってるわね。
「あ、アギー……学校では、あちらの世界の力は使わない方がいいからな」
「なんで?」
「! え、なんでって……学校では目立ちたくない……あ、これはミサキか……」
「……そうね、私があちらの世界に帰った時に大丈夫なように……目立たない方が良いか……」
「バレなければいんだけど……ん~やっぱりそんな感じなんだね……帰るまでに……色々とやれば……」
クレオが悲しいふりをしているけど、口には笑みが浮かんでいて、若干怖い気がするんだけど何故だろう?
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