第3話

奇跡のマリア像教会



白樺林の奥の朽ちた教会の前に男と女が佇んでいた。


男は女の手を引いて、朽ちた教会に入っていった。



クリスマス、僕はとても忙しいんだ。


その代わりに今日、君にここに来てもらったんだ


君に見せたかったところがある


ほら、ここだよ


森の中にある、もう何年も誰もこなくなった小さな教会。


屋根も抜けて


扉も壊れてる


足もとに気を付けて


中に入っても青空が見えるだろう?


意外と中は明るいんだ


ほら、僕はここにある、マリア様がキリスト様を抱いているピエタ像が大好きなんだ


マリア様、優しい顔をしているだろう?


何年か前にこの森を散歩していてたまたま見つけたんだ


それ以来、時々ここにきて


じっとこのピエタ像を見ている


僕はあいにくと信仰を持っていないけど、なんか、このマリア様の顔をみていると優しい気持ちになるんだ


そしてここに来る時は


綺麗な布を用意して


マリア様とキリスト様の顔を拭いてあげるんだ


僕はあと少しで出発する


クリスマスの頃には君に会えないんだ


ごめんね


・・・・でも、必ず帰って来るよ


そうしたら・・・


暖かくなってこの教会の裏庭に


綺麗な花が咲く頃になったら


もう一度ここに一緒に来てくれるかい?


君と結婚しよう


身分なんて下らない物が邪魔をして


世間ではとても認められない結婚だから


ここで君と秘密の婚礼を上げよう


マリア様とキリスト様の顔をきれいに拭いて


祭壇の所を少し片付けて


君の為に花冠を作ろう


知ってるかい?


僕は花冠を作れるんだぜ


裏庭で摘んだ花で花冠と草で編んだ指輪を作ってブーケを作って


君にシルクのヴェールをかぶせて


二人だけで


指輪を交換して


誓いの言葉を言って


キスをしよう


ここで誓えば


友達や家族の祝福が無くても


綺麗な音楽や


荘厳な祈りが無くても


何か、目に見えない大きな存在が


僕たちを静かに


祝福してくれるかも知れないよ


世間に隠した付き合いの僕たちには


それくらいしかできないけど


でも、君を愛する気持ちには自信があるよ


もし、僕が無事に帰ったら


またここに来て


秘密の婚礼を上げよう


今日、少し早いけど


メリークリスマス


男は女にやさしく口づけをして抱きしめた。


ところが・・・男は死んでしまいました。


結局遠い異国で死んでしまいました。


残された彼女は寂しさを紛らわすためにあの朽ちた教会に行ってマリア様の顔を拭いてあげました。


それから何十年もあの朽ちた教会に通います。


年を取って、親に進められて結婚した旦那も死んでしまった彼女は一人ぼっちで、森の中の朽ちた教会に通いました。


彼女にとっては誰一人知る者が居ない哀しい心の不倫を一人でヒッソリと続けていました。


あるクリスマス、ちらほら雪が降って来た時にマリア様が目を開きました。


「いつも、私の顔を拭いてくれてありがとう。

 お前の願いを何か一つ叶えてあげよう。」


彼女は皺だらけの顔をくしゃくしゃにして涙を流しながら、枯れ枝の様になった手をマリア様に伸ばして、死んでしまった彼に合わせて下さいと言いました。


「それでは私の足元で眠りなさい。」


とマリア様が言いました。


年老いた女はマリア様の足元で眠りにつくと彼氏が迎えに来て、彼女も昔の若いころに戻って、二人で幸せそうに天国に行きました。


翌日、村人が半ば雪に埋もれて安らかな顔をして死んでいる彼女を見つけました。


彼女の顔はとてもとても幸せそうな顔でした。


集まった村人達は思わず膝まづいて、彼女の安らかな、見ていると心が洗われるような安らかな死に顔にお祈りをしました。


寂しい死に方だったけど、彼女の顔は思わず涙が出てしまって、お祈りしたくなる程に安らかな幸せそうな顔だったそうです。


そしてみんなでお金を出し合って「奇跡のマリア像教会」と言う教会の名前で朽ちた教会を復興させました。


彼女の墓はいまでもその教会の裏庭にあって、必ず誰かがお花を備えています。





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