第2話

石像の森



僕はある村に住んでいたんだ。


僕は人類の終焉期の時代のある小さな村に住んでいた。


その村には石化病と言う病があって人体がどんどん石化して行き、最後にはとても精密な石像と化してしまう病気なんだ。


その病気にかかって、もう終わりだという人は自分で歩けるうちに村の外れにある森に入ってゆくんだ。


その森は石化病に掛かった人しか入れない。


年老いた僕はある日石化病の徴候が身体に出た。


右の腕が硬直してきた。


僕は硬直が肩まで進んで来た時に静かに石化病の森に行った。


森の番人に硬直した腕を見せたら、彼は悲しそうな顔をして門を開けてくれた。


でも、僕は全然悲しくなかったんだ。


僕は息を切らせながら硬直を始めた足を引きずって森の中に入っていった。


しばらく歩くとあちこちに石化して死んでいった人たちの姿が見えてきたんだ。


比較的新しい死人、と言うか石像は服を着ているけど古い石像は服もぼろぼろで中にはすっかり裸になった物もあった。


若くて石化病に侵された人間ほど白いきれいな石になり、僕のような年寄りが石化病にかかると黒ずんだ大理石のようになる。


僕は息を切らせながら硬直した身体を苦労して動かしながら石像を一つ一つ顔を調べていった。


そして、見つけたんだ。


今から30年前に石化病に掛かって亡くなった僕の恋人をね。


彼女は祈るように手を胸の前で組み合わせて目を閉じて立っていた。


彼女の服は数十年の歳月がぼろぼろにして、一糸まとわぬ綺麗な裸像になっていた。


彼女は明るいアイボリー色の綺麗な石像になっていた。


僕は嬉しかった。


数十年ぶりに再会できたのだから。


そして僕はこんなジジイになってごめんね、と彼女に謝って彼女の口にキスをして。


彼女の手に自分の手を合わせて。


彼女のおでこに自分のおでこを合わせて石化していった。


僕たちは秘密の婚礼を上げた。


もう、誰も、病気も、何もかもが僕たちを引き離せない。

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