第18話 俺と清廉潔白な快活児
「手を貸してもらい、ありがたい」
アルマリレア氏はそう言うと、深々と頭を下げた。
「いやいや、お礼なんて。どのみち、あのキマイラは倒さないといけなかったでしょうしね」
そう、どの道である。
仮に、アルマリレア氏を見捨てたとしても、この坑道を出る際に遭遇するだろうし、もう少し先に進めば雑魚モンスターとして遭遇する可能性は十二分にある。
ゲームでなくとも、そういうものだと俺は考えている。
「しかし、見慣れない剣術だね。その剣に合ってないようにも見える」
「よくわかりますね」
「これでも、剣術に関しては長年鍛錬を積み重ねてきたからね」
アルマリレア氏の剣術は二本の剣で流水のごとく受け流し、流水のごとく切り裂くような剣術だった。
確かに、貴族の出でなければこんな強い人を心配する人はあまりいないだろうという印象を抱くほどには強い。
「回復しますね」
エルメがそう言うと、アルマリレア氏の怪我に回復魔術を使う。
「ほう、回復魔術が使えるとは珍しい。白魔術師の家系かな?」
「あ、はい。母が白魔術師ですね」
「なるほど!」
エルメの手から発せられる淡い光が止むと、アルマリレア氏の怪我はおおよそ治ったように見えた。
鎧についた細かい傷に関してはそのままではあるが、元気百倍という感じだ。
「すまない、ありがとう。ところで、君たちは私を探しに来たと言っていたね」
「あ、はい。依頼を受けてきました」
「そうか、それは迷惑を……いや、冒険者であるならば依頼を受けて報酬を受け取るものだね。丁度大物を倒したことだし、私も村に戻るとしようか」
どうやら、アルマリレア氏は一緒に戻ってくれるらしい。
「ありがとうございます」
「……ふふ、気にしないでくれたまえ」
俺が礼を言うと、少し含みがある感じでそういうアルマリレア氏。
「それじゃあ、村に戻ろうか」
「はい」「うん」「わかったわ」
俺が三人に声をかけると、全員がうなづいてくれた。
それから、俺たちはアルマリレア氏と協力して坑道を脱出して村への帰路につく。
その中で、俺たちはアルマリレア氏に自己紹介をしておいた。
「ヨシヒロ、それにタツヤ」
アルマリレア氏が俺の耳を不思議そうに見ながらそういう。
「君たちの耳は丸いが、どうしてだい?」
ユリアの耳は丁度髪の毛に隠れているため、短髪の俺らの耳が気になったらしい。
俺は思わず、エルメを見る。
「えーっと、簡単に説明するなら、異世界からの来訪者です」
「異世界! つまり、君たちは『勇者』ということかい?!」
やはり、勇者伝説が根付いたこの世界では、この丸い耳は勇者の証のようなものらしい。
いや、血統みたいなものなのかな?
「あー、いや、俺たちは事故でこの世界に来たんですよね。だから、勇者とは違うんですよ」
「ふむ? そうなのか?」
俺たちはうなづいた。
エルメさんはまだ俺たちを勇者だと信じている節はあるものの、あまり大きく騒がれたくないからか、空気を読んでか、『来訪者』としてくれたことについてはありがたかった。
「そうです」
「ふむ、いやまあ、今王都には『勇者』を名乗る連中が結構いてね。それで少し気になってしまったのだよ」
「は、はぁ……」
どういうことだろう?
俺たちは首を傾げた。
「まあ、このリリティティスの森近辺は王都から見ればだいぶ辺境になるから、情報が届いてなくても仕方が無いだろうけれどもね」
「どういうことなんです?」
エルメが真剣にアルマリレア氏に問いただす。
「簡単に言えば、『転生者』を名乗る人たちが、自分を勇者だと言い始めたわけだよ」
「……なんだか大変なことになっているんですね」
龍也くんの感想に、アルマリレア氏は同意する。
「ああ、結構な騒ぎになっているのさ。ただ、全員この世界の人間に違いないし、丸い耳じゃないからね。多くの人々からは白い目で見られているのさ」
ふつうそうだよなぁ、なんて思う。
急に「俺は『転生者』で『勇者』だ」なんて名乗り出てくる人が居れば、当たり前の反応だろう。
ただ、騒ぎになっているのは……
「その自称『転生者』が複数人いるから、騒ぎになっているんですね」
「ああ、その通りだよ、ヨシヒロ」
「うわぁ……」
龍也くんもドン引きしている。
「そういうわけで、丸い耳の君たちは、今はあまり王都に近づかない方がいいかもしれないね」
「ありがとうございます」
貴重な情報に感謝である。
それにしても、アルマリレア氏はどうしてこんな辺境に来ているのかは気になった。
「で、アルマリレアさんはどうしてこんな辺境に?」
「修行ももちろんあるけれども、王都での騒ぎになぜか巻き込まれてね。逃げて来たというところさ」
アルマリレア氏はそう言うと、肩をすくめたのだった。
「巻き込まれた?」
ユリアがそう疑問を言うと、アルマリレア氏はうなづいた。
「ああ、まるで行動パターンを読まれているかのように『転生者』の数人に付きまとわれてね。仲間になろうと勧誘されたというわけさ」
「ふーむ、なるほど……?」
「それが私にとっては気味が悪くてね。そもそも、三男坊といっても爵位のある貴族のはしくれだ。王都でそのようにぶしつけに声を掛けられれば逃げたくもなるだろう?」
「は、はあ」
「修行しようにも声をかけられるし、邪魔で仕方なかったのさ。一人で王都を出ようとしたら、冒険者がついてきてね。まあ、監視名目だとはわかっていたが、旅の仲間たちと一緒に王都を出奔することになったのさ」
大変そうだなとは思いつつも、自由気ままにふるまうアルマリレア氏に若干あきれる。
「貴族の三男坊だからといって、そこまで自由にふるまっていいもの何ですか?」
「兄様がしっかりした人だから問題ないだろう。それに、私は剣の才能があったからね」
三男坊までは上に何かあった時のスペアとしての役割もあるだろうに、自由な人だなと俺は思った。
「今回坑道に一人で潜ったのは、自分にどれぐらいの実力があるのかを確かめたかったから、なのさ」
得意げにそういうアルマリレア氏は裏表を感じさせないようなスカッとさわやかな人物像を抱かせた。
ただ、それで貴族としてやっていけるのかはまた別の話ではあるが。
「おっと、そろそろ村に到着するね。報酬はちゃんと払うから安心しておいてほしい」
「そうですね。掲示板のところで待っていればいいですかね?」
「ああ、それで構わないよ」
こうして、俺たちはアルマリレア氏と別れることになった。
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